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【映画感想文】FALL フォール

えー、自分は高所恐怖症で怖いもの好きなので、ほんとに嫌なんだけどむちゃくちゃ惹かれるってことで観て来ました。600mの高さのテレビ塔から降りられなくなるシチュエーション・ホラー『FALL フォール』の感想です。

まぁ、予告で観たときから下っ腹がキューってなってたんですが、高所表現に関しては思ったよりもスゴイ体験させられました。映画技術の発展というのは(『アバター』なんかよりも)こういうところにそうとう寄与してるんじゃないかと思いました(だから、『バビロン』のラストのモンタージュのところはこの手の映画をたくさん並べるべきなんです。)。えー、まず、映画冒頭、主人公たちがロッククライミングをしているシーンから始まるんですけど、さっきも書いたように僕は高所恐怖症なので、そもそもこういうことをする人たちの気が知れないというか、人知れず勝手に登りたいひとが登ってくれるのは全然構わないんです(なぜならそれはどうにも抗いがたい性癖のようなものだから。まぁ、だからスプラッター・ムービーを異常に好きみたいなのと同じ地平のものだと思うんです。)けど、それを何か人間が限界に挑戦する崇高な姿なのだみたいな言い方されたり、これみよがしに見せられたりするととても違和感があるんですね。ていうか、まぁ、ムカつくわけです(なんでこんな危険なことするのかって腹が立つんです。)。

何年か前に命綱を着けないでクライミングする天才クライマーのアレックス・オノルドさんを追った『フリーソロ』というドキュメンタリーがあったんですが、あの映画はアレックスさんを理解不能の異物として描いていて(というか、事実を伝えるなら紛れもなくそうなわけで。)、その描き方にめちゃくちゃ共感したんですね(めちゃくちゃ好きな映画です。)。なので、この映画で「おれたち命知らずのクライマー」みたいに楽しそうにクライミングしている主人公たちには全く理解出来ない人種だなという気持ちでいたんですが、なるほど、こいつらがこの後600mの鉄塔に登って降りられなくなるわけかと思うとワクワクするというか、とても溜飲が下がるわけですよ。しかも、迷惑系YouTuberというもう一個こちらの溜飲が下がりそうな設定も乗せられてるわけなんで。

で、まぁ、そういう世間知らずの若者たちがバカなことやってたら酷い目に合うっていうホラー映画の基本設定に乗っ取ったシンプルで分かりやすい映画なのかと思って観てたんですが、割とキャラクターたちの心情に寄り添うんですよね。主人公のベッキーは一緒にクライミングしていた旦那が目の前で滑落事故に合って死んでしまい、そのことでふさぎ込んだ酷い生活をしているんです。それを心配した父親がベッキーの親友でありクライミング仲間のハンターに頼んで連れ出してもらうことにしたんですが、死んだ旦那の呪縛から解かれる為にも思いもよらないことに挑戦しようってことで、今は使われてない古いテレビ塔に登るって話になるんです。だから、一応頷ける理由でことが進んで行くんですね。バカな若者がノリでバカなことしてるってのとはちょっと違うんです(ただ、まぁ、危険なことを危険と知りつつやってるわけだからバカはバカじゃんていうのもずっとあるんですが。)。つまり、全く理解出来ない行動をしているキャラクターに少しずつ感情移入出来るようになって行くんです。

で、するとどうなるかというと、この600mの鉄塔の上に取り残されるということの物理的に起こる恐怖(風などの天候の変化とか、足場の不安定さとか、食べ物や飲み水がなくなるなど。)に併せて心理的な恐怖(寝たら落ちるかもしれないとか、なぜこんなことをしてしまったのかみたいな後悔とか。もう助からないんじゃないかっていう不安とか。)に対する分かりみが上がるんですよね。特に映画終盤でベッキーがある妄想に取り憑かれるんですけど、ここは確かにこういう心理状態になるんじゃないだろうかと思いました(このシーンがあることで僕はこの映画3割増しくらいで好きになりました。)。

なので、単なるジャンル映画かと思いきやその割にはキャラクターたちの心情をちゃんと描こうとしてるし、いろいろ伏線貼って(まぁ、この伏線の貼り方が分かり安過ぎて展開が読めちゃうってところはあるんですが。)ストーリーを面白くしてやろうって気概を感じるしで良い映画ではあったんですが、なぜか(これは何とかジャンル映画の枠を超えたヒューマンドラマにしようとしたからなのか、もしくは過剰なコンプラ対策なのか。)、ラストになって急に生きることの大切さを訴えたメッセージを発してくるので、心の中で「お前が言うな!」ってツッコミまで入れられて。そこも含めて面白いジャンル映画だったと思います(だし、そいういうのをご和算にするくらいの高所で起こるいろいろはほんとに怖かったです。)。


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