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【映画感想】ソウルフル・ワールド

えー、あけましておめでとうございます。前回の『燃ゆる女の肖像』で2020年劇場鑑賞作品の感想は終わったんですが、じつはもう一本(特に2020年を象徴する様な公開のされ方をした作品が)ありましたので、年は変わってしまいましたが、2020年に観た映画として感想を書こうと思います。ディズニー+で配信されたディズニー / ピクサーの最新作『ソウルフル・ワールド』の感想です(ウチはネトフリとディズニー+にのみ加入することが許されているのです。)。

コロナの影響で大作が次々と公開延期になる中、ディズニーは割と早い段階で公開予定の作品を配信に切り替えていったんですね。で、その流れの中で12/25から配信され始めたのが、この『ワンダフル・ワールド』で。2020年に公開予定だったディズニー映画の中でも個人的に最も楽しみにしていた作品だったので観れるのは嬉しいんですが、やはり、劇場で公開されることを前提に作られた映画は劇場で観たかったなと思いつつ(ディズニー作品を後から名画座でやるなんてのもなかなか難しいと思いますしね。)、年末年始の休みの間に空いた時間で観られるのは良かったですし、ぶっちゃけ劇場で観ようが配信で観ようが傑作は傑作ということで(もちろん、大画面と迫力のある音響で観た方が確実に良いだろうという作品ではあるんですけどね。いつの日か劇場公開してくれるのを待ちます。)、2020年最後に良い気分になることが出来ました。

ピクサー作品というと、ここのところどんどん哲学的になっているというか、どすんと重いテーマをどうやって子供にも観られるアニメにしているのかってことに興味が行く程大人向けのそれになっているんですが、今回の『ソウルフル・ワールド』はそこ極めたかなっていうくらいの内容で。個人的にピクサー作品で1、2を争うくらいに好きな『インサイド・ヘッド』(この『インサイド・ヘッド』のピート・ドクター監督の最新作が『ソウルフル・ワールド』なんですね。で、それ考えるとピート・ドクターという人がそうとう哲学的なのかなと思います。他にも『カールじいさんの空飛ぶ家』とか『ウォーリー』なんかもそうですからね。ちなみに『モンスターズ・インク』も含めてピート・ドクター監督の作品全部好きです。)が、人間が生きて行く上で"感情"というものが担っているものとは?という話だったのに対して、今回は、人生そのものというか、"人はなぜ生まれて来るのか"というそのままでむちゃくちゃ哲学的なテーマを"死"と"生まれ変わり"という宗教的な事柄で描きながら全くスピらないどころか(いや、ここがピクサーの凄いところなんですけど)、その"人はなぜ生まれて来るのか?"なんていう誰でも一度は考え至りながらも明確な答えの出ないことに対してもの凄くロジカルに、恐らく、こういうことって子供の方が直感的に分かる様なことだと思うんですけど、それを大人にも分かる様に、僕たちの生活の中になぞらえた形で解説してくれるんですね。だから、大人の鑑賞に耐えるってのは当然なんですよ。わざわざ大人に分かる様に作ってくれてるので(そもそもピクサー作品第一弾の『トイ・ストーリー』から、オモチャになぞらえて"労働とは?"とか"子育てとは?"とか、大人の為の裏テーマがあったわけですし、シリーズ最新作の『トイ・ストーリー4』に至っては、"オモチャにとって生きるとは?"というギリギリのところまで来てましたからね。)。

じゃあ、これがどんな物語になってるのかというと、主人公はジョーという45歳の黒人のおっさんで(この時点で子供向けには作ってないですよね。きっと。冴えないおっさんですからね。主人公。)、ジョーは中学校の音楽の非常勤講師みたいなことをやってるんですけど、いよいよ学校側から本採用したいという話が出るんです。でも、ジョーはその話に乗り気ではないんですね。なぜかというと、ジョーにはジャズ・ミュージシャンとしてプロになりたいという夢があるからなんです(要するに、45歳にもなって夢を追うことを諦めきれていない、まぁ、普通に考えたらダメなおっさんの話なんです。)。ただ、さすがにジョーも分かっているらしく、年老いた母親の為にも音楽教師として生きて行こうとするんですが、そんな時に昔の教え子からバンドのメンバーとしてステージに立って欲しいという連絡が来るんです。しかも、バンドのメインはジョーが憧れるジャズ・ミュージシャンということで、そこで認められればプロとしての道が開かれるかもしれないということで、ジョーは最後のチャンスのつもりで話を受けるんですが、その本番のステージに向かう途中でマンホールに落ちて死んでしまうんです。

はい、ここまでがこの物語の設定の部分です。ずっと夢を追って来たジョーにようやく巡って来たチャンス。その直前でジョーは死んでしまう。人生って何なんだ?ジョーは何の為に生まれて来たんだ?というのがこの話の前提なんです。要するに、死んでしまったジョーがどう人生に意味を見出すのかって話なんですけど。あの、ここからがやっとアニメーションの本領発揮というか、やっとちょっとだけ子供向けというのを意識した作りになるんです。死んだジョーは当然死の世界に行くわけですが、死の世界と生の世界の間に"グレートビフォア"と呼ばれる、生まれる前に"魂"の性格を決める場所というのがあって、ジョーはそこで魂たちのメンターとして働くことになるんですね(つまり、死んでまた教師にされるわけです。)。で、そこでジョーが受け持つことになるのが22番の番号を持つ魂なんですが、この22番が生まれることに全く意欲がない。そこでメンターとしてのジョーは22番に"人生のきらめき"を教えないといけなくなるんです(グレートビフォアでは生まれて行く魂に様々な感情を配分して人格を形成させるんですが、その中に"人生のきらめき"というのがないと完成しないんですね。この設定、三宅乱丈先生の漫画『ペット』に出て来る、人間が人格を形成するのに"良かった時の記憶:山"と"悪かった時の記憶:谷"というのがあって、その両方がないと人格が崩壊してしまうというのを思い出したんですよね。『ペット』もむちゃくちゃ哲学的な漫画です。)。つまり、志し半ばで死んでしまったジョーがいかにして"人生のきらめき"を理解し伝えるかって話になって行くんですが、これって、そもそもが"夢見ることを推奨"してきたディズニーが夢を追うことの残酷さを体現したジョーと、生きることに(生まれる前から)否定的な(つまり、端から夢を見ることに何の魅力も感じていない)22番にいかにして落とし前をつけるかって話だと思うんですよ。だから、そのつもりで観てたんですけど、そのディズニーの根幹を担うような"夢見ることは素晴らしいという呪い"をやんわりとたったひと言で完全否定していて、そのドライさが最高だったんですよね。ピート・ドクター監督のそういうとこ好きです(もちろん、演奏シーンの音も含めてのクオリティーの高さとか散髪してるの見てるだけで気持ち良いとかアニメーション的良さもめちゃくちゃあります。)。

https://disneyplus.disney.co.jp/program/soulfulworld.html

サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。