見出し画像

【映画感想】ドント・ルック・アップ

観たいな観たいなと思いつつ、例年の師走よりも仕事が忙しくなってしまった緊急事態宣言明け。ふとネトフリを見たら「あれ、もう配信に来てんじゃん。」(劇場公開した映画がすぐに配信に来るのはどうかなと思いつつ、こう忙しいとあやかってしまいますね。しかし、この映画の壮大なバカバカしさは大画面で観たかったとも思います。)ということで、『マネー・ショート』や『バイス』のアダム・マッケイ監督の地球滅亡コメディ『ドント・ルック・アップ』の感想です。

今年観た映画で『グリーンランド 地球最後の2日間』という、地球に巨大彗星が落ちて来て人類が滅亡するっていういわゆるディザスター・ムービーがあったんですね。その映画の新しかったところは、主人公を特別な能力も境遇も持たない普通のお父さんにしているところなんですけど、ヒーロー的な主人公で描かれたディザスター・ムービーよりも、人間にとって"真摯に生きるとは?"という哲学的なところに思考が至るような映画だったんです。で、その主人公を今度は普通とは程遠い権威的な立場にいる政治家や科学者、マスコミ関係者や富豪なんかで(しかも、アダム・マッケイが)描いたらどうなるのかっていうのが今回の『ドント・ルック・アップ』なんです。でですね、『グリーンランド』の方でも(緊急事態宣言下の話なので)政府がどういう動きをしたかなどは話には出て来るんですけど、実際に動いてるのは指示を出された軍の方だったりするわけで。観てる僕らとしてはきっとこういう時は政府も迅速に動いて指示を出してるんだろうなとスルーして観るしかないわけなんですが(というか、そんな状況で政府がどんな行動してるかなんて考えてる暇ないわけで。)。えー、つまり、実際はそんなわけねぇだろと。人類の愚かさ舐めんなよというのがこの映画なんです。人類に対してむちゃくちゃシニカルな視点を持つアダム・マッケイ監督が人類の滅亡を描いて大いに笑おうと思ったら、『グリーンランド』と同じ様に"真摯に生きるとは?"という命題にぶち当たってしまい、クソみたいな人類の最後なんていうスカッとする題材なのに、虚しいやら切ないやら怖いやらでこれまで感じたことのない感情になり、最後には泣けてくるっていう感情アンコントロールのカオス・ムービーになっているんです(いや、泣けるというのはもしかしたら僕が異常なのかもしれません。というか、たぶん、これもう笑えてしょうがないって人や怒りで観られないって人などかなり人それぞれだと思います。そういう意味で凄い映画だなと思いますが、僕は最後泣けてしょうがなかったです。)。

はい、では、それが何故かという話なんですが、巨大彗星が地球に向かっていて半年後には衝突してしまうと。それをある教授とその生徒が発見するんです。で、政府やマスコミに訴えかけるんですがまともに取り合ってもらえない。あの、この手の映画で科学者の言うことを無知ゆえに真面目に取り合わず滅亡への一途をたどってしまうというコメディは今までもあったと思うんですけど、この映画はそこから一歩進んでいて、その取り合わなさのヤバさと言いますか、権威を持つ人たちの人生に対するスタンスの危うさと言うかですね。この分かっているのに真面目に取り合わない(嫌なことはスルーしたい)というのが凄く現代的で。例えば、SNSのコメントなんか見てると結構なヤバイことを全て露悪的なジョーダンにしてスルーしようとしてる人って沢山いますよね。そういう実際にある流れでこの映画を観ると、特に政治家とかマスコミ関係者なんていう自分たちの采配で物事を決められる人たちっていうのは、"物事に真面目に取り合わないことで今の地位を保って来たのでは?"っていう風に見えて来るんです。都合悪いことは全部スルーして責任を取らない(で、それが出来るのは権威的な立場にいるからであり、そうすることでその位置をキープしているってことです。)。要するに、自分のリスクになりそうなことにはまともに取り合わないんです。たとえ、それが人類の滅亡に関わることだとしても。つまり(人類滅亡は自分ごとではないと思っているということで)、バカ(狂ってる)ってことなんですけど、それがもの凄く説得力を持って見えて来るんですよね。最近のニュースとか見てると。それが虚しくて切なくてむちゃくちゃ恐いんです(というか、このヤバイ状況をコメディにしようとしているこの映画自体がコメディとは言えない異形なものに見えてしまってるって時点でそういうことなんですよね。きっと。)。

そして、アダム・マッケイって人の更にヤバいところ(もしくは、さすがサタデー・ナイト・ライブ出身のトガリ芸人だなと思うところ)は、このほとんどサイコ野郎しか出て来ない話をそうとうなオール・スター・キャストでやってる(主要なとこだけでも、レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、メリル・ストリープ、ジョナ・ヒル、ケイト・ブランシェット、アリアナ・グランデ、ティモシー・シャラメなどなどね。あ、ジェニファー・ローレンスとティモシー・シャラメのカップルだけはとても美しかったです。)ってところで。もちろん、難しい役が多いのでこの人たちの演技力あってなんですけど、その上で、ハリウッドの大スターという"特権階級の人たちが演じる愚かな権力者"という構図が面白くてですね。それを分かっていて嬉々として演じる懐の深さとか頭の良さとか(特にアリアナ・グランデの役どころなんて普通の感覚の持ち主だったら断ってますよね。何重にもなってる様なシニカルさなので。あとケイト・ブランシェットの役も、そうとうなクソ野郎でした。)。この映画を作っている人たちみんながアダム・マッケイのシニカルさを理解して信用して思う存分やってる感じが良かった(良くもあり、またそれが狂気的でもあった)んですよね。それともうひとつ、大オチのところなので詳しくは書きませんが、確かに人類滅亡となった時に生き延びて次の種族を繋ぐのはああいう人たちなんだろうなっていう(まぁ、ということはどうしたって人類は劣化してどんどん酷いものになっていくわけですよね。これもシニカルで、そして切ないオチでした。)。

露悪的なものって昨今はいろいろ言われていますけど、どんなものにも良いものと悪いものがあって、その中で、その特性や効能を分かってるものにはやっぱりなくならないで欲しいなと思いました。こういうことを理解して楽しめるのが知性ってことなんだと思うし、ここでしか描けない"真実"というのもあると思うんです。はい、ということで、年の瀬ですけど、みんなでこれ観て人類の愚かさに大いに笑って泣きましょう。そして、来年が今より少しでも良い年になりますように。


サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。