「そのままでいい」存在。「改善していくべき」行動。
「そのままでいいんだよ」――なんて慈愛に満ちた言葉でしょう。でも私はこの言葉を聞くと、「なんて無責任なのだろう」と、少々悲しい気持ちになるのです。
「そのまま」でよいのはその子の存在だけであって、行動は変えてゆく必要があるからです。社会生活を営む上で、問題行動は(将来的には法に触れる可能性がある行動も含めて)変えていかなくてはなりません。
発達障害の子は、イメージすることやコミュニケーションが苦手です。ごく自然にさまざまな常識を身につけていくことが困難なので、きちんと理解で
きるように手を貸してあげることが必要です。特に感覚期には、本人の好きなことや不快でないことを上手に活用し、活動や世界を広げること、「プラスの感覚」を育ててあげることが大切です。
問題行動の要因は、
注目・獲得・逃避・感覚探究の4つ
反社会的な行為を頻繁に行ったり、暴力などを引き起こしたりする行為障害は、虐待されている子どもが「二次障害」として起こしやすいといわれています。行動分析では、「問題行動」の要因は、「注目、獲得、逃避、感覚探究」の4つがあるとされています。
簡単に説明すると、
注目……問題行動を起こす(怒られることをする)ことで関わってもらえる
獲得 ……欲しいものを得る、自分の要求を通すために行われる
逃避 ……どうすればいいのかわからなくて取り組みたくない。
やりたくない課題から逃げることができる 。
感覚探求 ……その行為をしていると落ちつく
これらの行動に対する他者の反応から、「こうすれば自分の要求が伝わる」と「誤学習」してしまうケースが多いのです。
誤学習はどのように起こる?
具体的にいうと、駄々をこねてお菓子を買ってもらえたことに味をしめ、「駄々をこねれば欲しいものを獲得できる」という間違った知識を学んでし
まうわけです。こうした特性があることを早い段階で知れば、問題行動を減らすことができるようになります。
ところが、親が「良かれ」と思ってわが子に接しているのに、それが裏目に出て信頼感を損なってしまうことがあります。愛情たっぷりに抱っこしたり、なでたり触ったりしているのに、本人はそれを「不快」だと感じる場合があるのです。
こうした感覚情報の受け取り方には個人差があるため、親であっても気づきにくい場合があります。そして、気づかないまま問題行動につながり、二次障害を引き起こしてしまう場合があるのです。
感覚情報の積み上げは幼児期までに!
誤学習につながらないような遊び方を感覚情報を豊かに積み上げるように学ばせるのなら、充分に底上げが見込めて、対応も比較的楽な幼児期のうちに行うのがベターでしょう。
この時期は身体の発達が著しく、子ども自身が外の世界の情報を五感で吸収しようとする時期でもあります。身体もよく使うので、身体を使いながら「安心できるもの」を増やしていくことが、世界を広げるのに役立ちます。
ただし、誤学習を積まないように注意する必要もあります。
たとえば、遊ぶときには「人にものをぶつける」、「もので叩く」といった行為は避けたほうがよいと思います。情報の書きかえが苦手な彼らは、人をもので叩いたり、ぶつけたりすることが「楽しい」と感じると、以降その感覚情報を修正するのが大変だからです。
母子通園で子どもたちへの対応を学ぶのも一つの手
以前、人にものをぶつけたくて仕方がない子に療育をしたという人に話を聞いたことがあります。その人は、ぶつける面積をだんだん狭くしていき、逆に集中力を養いプラスの行動へと導いたそうですが、それにはとても時間がかかったそうです。やはり、ふざけて人を攻撃する行為は、この子たちには不向きです。
全身を使う粗大運動の中で、本人が他者とのやり取りを楽しいと感じてくれる遊びがお勧めです。幼児期は、しっかり身体を使いながら、本人が予測できないこと(見通しが立てられないこと)であってもプラス感覚を持てるように、つまり「安心」を広げてあげるようにすることが大切になります。
児童発達支援事業所などを利用する場合は、「預かり」ではなく「母子通園」をお勧めします。子どもたちへの対応を見て学ぶことにより、日常生活の中で対応する力をつけることができます。一番大切なのは、彼らがこの社会で生きていく力を身につけさせること。その基礎をぜひ学んでほしいと思います。
―『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』ルール17 問題行動を減らすのは早期療育 より
◆本書の紹介◆
発達障害の女の子の保護者や支援者が気をつけるべき点や、
知っておくべき情報などを全6章、「47のルール」としてわかりやすくまとめたのが本書です。
1章 診断や医療機関の上手な使い方について
2章 親としての心構え、親のとるべき行動
3章 日常生活での支援と療育について
4章 健やかな生活を送るための学校選びについて
5章 女の子に必要な「学び」-思春期と性教育
6章 療育支援Q&A
「何度注意してもやめてくれません?」
「プライドが高くて注意するとパニックになります」
「新しい場所や新しいことが苦手です」など。
豊富な経験や、専門家からのアドバイスをもとに著者が作りあげてきた「発達障害の女の子たちが幸せに生きていくためのノウハウ」です。
ぜひご活用ください。
―藤原美保(Fujiwara Miho)
健康運動指導士、介護福祉士。株式会社スプレンドーレ代表。エアロビクス、ピラティス、ヨガインストラクター等フィットネスのインストラクターとしてスポーツクラブ、スポーツセンターでクラスを担当。発達障害のお子さんの運動指導の担当をきっかけに、彼らの身体使いの不器用さを目のあたりにし、何か手助けができないかと、感覚統合やコーディネーショントレーニングを学ぶ。その後、親の会から姿勢矯正指導を依頼され、定期的にクラスを開催。周囲の助けを受け、放課後等デイサービス施設「ルーチェ」を愛知県名古屋市に立ち上げる。
100組以上の発達障害の女の子とその保護者をサポートしてきた経験を踏まえ、実践の場からの声を届けるために、『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』を執筆。