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ワクチンの有効性とは何か?

 先日訳あって日本感染症学会の「COVID-19ワクチンに関する提言」を読んだ。読んだと言っても、専門外のことなので文書を黙読しただけに等しい。ただ、素人なりに気になったのはワクチンの「有効性」である。これは経済学研究の文脈では馴染み深い考え方だった。

 ワクチン開発のニュースが報道されると、その有効性について注目が集まったのは記憶に新しい。つい最近も1月4日付の日経新聞に関連する記事が掲載されている。

#日経COMEMO #NIKKEI

 例えば「某製薬会社の開発したワクチンの有効性は90%である」と報道されたとする。提言曰く、これは100人の患者がいた場合、90人には効果があり、10人には効果がないことを示すわけではない、とのことだ

 まずは「有効性」の考え方を確認するのが重要である。

 ある個人へのワクチンの効果を「接種した場合の健康度と接種しなかった場合の健康度の差」と考える。これをワクチンの「介入効果」と呼ぶことにする。ただし、この介入効果は観測できない。なぜならば、ある個人が一度ワクチンを接種してしまったら、その人の「接種した場合の健康度」は観察できるが、「接種しなかった場合の健康度」は観察できないからだ。これは因果推論の根本問題である。

 代替策として、複数の個人を連れてくる。彼らを無作為にワクチン を摂取するグループと摂取しないグループに分ける。前者はトリートメントグループ、後者はコントロールグループと呼ぶことにする。トリートメントグループに属する人々の健康度の平均値とコントロールグループのそれとの差は「平均介入効果」として知られている。前述の介入効果との決定的な差は、平均介入効果は観測可能ということである。

 さて、冒頭の提言によるとこの平均介入効果をワクチンの「有効性」と呼んでいるようだ。より正確な「有効性が90%」の解釈は、ワクチン を接種した人々(トリートメントグループ)の健康度の平均値はしなかった人々(コントロールグループ)のそれと比べると90%に相当する分だけ高い、ということである。

 なお、ここでのワクチンを税制や規制などの経済政策に読み替えれば、経済学の文脈での因果推論の議論に書き換えられる。ただし、複数の被験者を集め、ある政策の影響を受けるか否かで無作為にグループ分けする実験を行うには膨大なお金と労力(場合によっては権力)が必要になる。そのため更なる代替策が色々と開発、実践されているのだが、それはこの記事の趣旨と違えるのでまたの機会に。



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