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Traveler's Voice #16|吉井大隆

Traveler's Voice について

Traveler's Voice は特別招待ゲストの方からエスパシオに泊まった感想をインタビューし、読者のもとへ届ける連載記事です。この企画の目的は”自分ではない誰か”の体験を通して、エスパシオを多角的に知っていただくことと、ゲストが日頃行っている活動を合わせて紹介するふたつの側面を持っています。ご存じの方も多いと思いますが、エスパシオは「いつか立派な観光ホテルになる」と心に誓った山口市にあるラブホテルです。この先どんなホテルに育っていくのか、まだ出発地点に立ったばかりですが、この企画を通してゲストの過ごし方や価値観を知り、計画にフィードバックしたいと考えています。インタビュアー、執筆、カメラマンを務めるのは「エスパシオ観光ホテル化計画・OVEL」を進めているプロデューサーの荒木です。それではインタビューをお楽しみください。


ゲスト紹介

Travelers Voice 第16回目のゲストは吉井大隆よしいひろたかさんです。吉井さんは山口市で「吉井企画」という個性豊かな車屋さんを営みながら、その派生として「おとずレンタカー」「グッドラックミーティング」などの事業を展開しています。車、移動、旅、そしてこれからの夢について、エスパシオの宿泊体験と合わせていろいろ聞いてみたいと思います。


吉井さんが泊まったお部屋紹介

吉井さんに宿泊していただいたお部屋は507号室です。南のバルコニーからは村の静かな風景、東の窓からは建物を包み込む裏山を見ることができる、広々としたコーナーダブルの部屋です。


インタビュー

Araki:おはようございます。今日は宿泊していただきありがとうございます。吉井さんとは去年の7月に知り合ってからの仲なので、なんどかエスパシオを内覧したり、観光ホテル化計画の構想を聞いてもらったりしていますが、宿泊されたのは初めてですよね。エスパシオステイはいかがでしたか。

Yoshii:インテリアや置いてあるものを見ているだけで豊かな気持ちになれて、改めて過ごすための環境づくりの大切さに気がつきました。センスの良いものに囲まれていると、なんだろう心が豊かになれますよね。ぼくは普段「生活を彩るための車」を販売しているので、購入者のライフスタイルや車の持つ雰囲気に添うように、日頃から自分自身の生活を整えておきたいとう想いが強くあります。整った空間・物・人に触れることは僕自身のライフハックでもあるので、今回エスパシオで過ごした時間はとても有意義でした。

Araki:ありがとうございます。そんなにインテリアに興味を持っていたんですね。誰かが作った空間に身を委ねることもいいけど、それが自身のカスタムであればさらに愛着が湧いてくるので、ぜひ生活の中に取りいれてください。そんな風にひとつのデザインが拡張していくのはぼくにとっても嬉しいです。

Yoshii:そうですね、上質な空間を自分で作れるようになりたい願望もあるけど、たとえ誰かが作ったものでも楽しめることには変わりはないと思っています。相性の問題はありますけどね。エスパシオはゆっくり時間の流れるリラックスに特化した空間なので、ぼくの持っている価値観とフィットしていて心地よいです。でも実は、いわゆるラブホテルは苦手なんですよね 笑。何と表現して良いかわからないけど、怖くありませんか 笑。エスパシオは1人で泊まってもラブホテル特有のダークな雰囲気が全くなくて、自分でも驚くほどリラックスできました。そうそう、お風呂上がりにさらに感動したことがあったんですけど、ドライヤーまで拘っていてすごいですね 笑、リファとかレプロナイザーってラグジュアリーホテルでしか見たことないです。

Araki:備品はラグジュアリーホテルと比べても遜色ないスペックで取り揃えています。ホテルは不特定多数が利用する場所なので、バルミューダやリファのように分かりやすい要素も大切なんですよね。それはそうと、昨晩食事から帰ってきた時めちゃくちゃ眠そうでしたけど 笑、ゆっくり眠れましたか。

Yoshii:もう何もせずに布団に潜り込みました 笑。いつも23時には寝て5時に起きるようにしているので夜は頭が働かなくて、めちゃくちゃ朝型なんです。目覚めた後は、音楽聴きながらコーヒー飲んだり、みんなが夜しているようなことを朝の静かな時間をつかって過ごしています。なんだろう、見た目からなのかワイワイガヤガヤが好きだと思われがちなんですけど 笑、実は1人の時間をできるだけ増やすための努力をしています。といっても1人で過ごす快適さに気がついたのは意外と最近で、それまでは周りに合わすことが日常だったので、このくらいのストレスがあることは人並みなんだと思っていました。でも実はそうではなく、ぼくにとってワイワイガヤガヤはどうやら人一倍精神的負荷がかかっていたようです。40歳を目前にしてようやく自分の取り扱い説明書を見つけた気分です。

Araki:ストレスのように数値化できないものって比較からこぼれ落ちてしまうから、意外と気がつけなかったりしますよね。自分が落ち着くスタイルにたどり着けて良かったですね 笑。ではお仕事の話にシフトしますね。吉井さんは吉井企画おとずレンタカー、グッドラックミーティング(通称:GL Meeting)この3つの事業をされていますが、そこに至るまでの経緯を教えてください。

Yoshii:3つとも車関係の事業なんですけど、兄の影響もあって小学生のころから車が大好きでした。そういう小学生のよくあるルートなんですが、中学生で「頭文字イニシャル D」にどハマりして 笑、まだかまだかと18歳を迎えるのを待ち焦がれる日々でした。今も昔もそうなんですけど、ぼくの車愛はマシーンとしてのスペックではなく、車をファッションのように捉えているところが特徴だと思います。大学卒業後、JEEPが好きで入ったディーラーが実は地方ではベンツしか扱っていなかった、というちょっとした入社事故もあったんですけど 笑、ディーラーで勤めるうちに少しずつ購入者のライフスタイルに興味を持ちはじめました。そこでふと立ち止まってディーラー内部で働く人のライフスタイルを見た時に、販売者のQOLを上げる必要があると強く感じはじめたんです。もちろその場にとどまって試行錯誤することもできましたが、まずは自分なりのスタイルをちゃんと獲得した上で業界へフィードバックする方法もあるんじゃないかと考え、独立することを決めました。なのでビジネスのため起業したというよりも、新しい服へ着替えるように自立したのだと思っています。

Araki:なるほど、動機が軽やかで素敵ですね。その新しい服を着てみていかがですか。

Yoshii:経営という難しい側面もありますが、今のところ着心地良いです 笑。でもあれですよね、新しい服を着るとまた次の道が見えてきて、今は次に着る服のことばかり考えています 笑。とはいえ車が好きなことに変わりはないので「ライフスタイルを提案する車屋」というコンセプトは維持していこうと考えています。「吉井企画」という屋号になっているのも、その緩い運営コンセプトを表現するためです。今では事業内容が少し拡張して、長門で「おとずレンタカー」という輸入車専門のレンタカーサービス、それと「グッドラックミーティング(通称:GL Meeting)」という住宅の竣工写真撮影時に車を被写体モデルとして貸し出すサービスをしています。もう気づけば4年になります。4年も同じ服を着ていると自然と愛着が湧いてきて 笑、傷んだ箇所を新しい布でパッチワークしたり、ボタンを取り替えてみたり、あえてTシャツの裾を切りっぱなしにしてみたり、あれこれ楽しみながら営んでいます。

Araki:時代や環境の変化に合わせて、使い捨てるのではなく事業内容をリメイクし続けているんですね。事業をうまく繋ぎ合わせるのと同じように、販売する車をカスタムすることもあるんですか。

Yoshii:もちろんです。完成品を売るのではなくカスタムすることを前提に販売することはよくあります。これもディーラー時代にはなかったことで、まるでアパレル店員になった気分で、ああだこうだとアイデアを出し合いながらお客様と一緒につくりあげています。そうすることで販売する側にも愛着が湧くし、なにより車屋やっててよかったなと思える瞬間です。

Araki:ファッションコーディネーターですね 笑。ではでは、車についてもう少し深掘りしたいのですが、吉井さんがよくありがちなスペック主義に陥らなかった理由はなんですか。

Yoshii:ぼくはド文系なのでそもそも数字が苦手なんです 笑。ただスペックがまったく必要ないと考えているわけでもなく、優先順位としてかなり下位にあるといった感じでしょうか。とにかく”見た目”がもっとも大切だと考えていて 笑、見た目でハートを掴むことができる車はスペックの問題がさほど気にならなくなると思っているし、たとえスペックに弱点であってもそこを補うための試行錯誤を楽しむことで、逆に愛着へと転化すると思っています。車に限らず所有物は愛せてなんぼって感じでしょうか。

Araki:なるほど、吉井さんの言っている”見た目”とは画一的な美というよりも多様なスタイルを差しているんですね。ではでは、価格についても教えてください。車はハイファッションとよく似ていて、いち早く”高級化”が進んだ業種だと思います。高級化についてはどう思いますか。

Yoshii:高級化はポジティブに捉えています。ドライかもしれないけど、買えない人まで無理に取り込む必要はないと思っているし、それはそのまま自分自身に向けられた課題であるとも思っています。高い車を売るためには自分自身のライフスタイルの向上や、ホスピタリティの質を追求する必要があって、それなりに緊張感のあることだと受け止めています。考えようによっては、その負荷も心地いいですよ。

Araki:高級化についてはいろんな人に質問しているんですけど、グッと堪えて止むなく高級化する人とさらっと高級化できる人がいます。吉井さんは後者ですね。最近分かったことなんですけ、とくに地方では、個人が営む大衆向けサービスは高級化せざるを得ない局面に立たされています。つまりそれは大衆をターゲットから外すということなんですが、大衆に向けたサービスは大企業の専売特許になってしまったことに加えて、高齢化、貧困、過疎、これらの問題が覆いかぶさってきて、個人が大衆に向けたサービスを提供できなくなってきた、そんな過渡期なんだと理解しています。

Yoshii:なるほどそうかもしれませんね。まあでも大衆サービスがなくなるわけでもなく、大企業がますます安くて品質の高い製品を大量生産するだろうから、担い手が変わったと理解すればいいんでしょうね。

Araki:そうだと思います。でもそう素直に受け止めれるか否かに世代問題が絡んでいて、個人が大衆サービスを担っていた時代を知っている世代にとっては、高級化することに心理的な抵抗があるようです。吉井さんの職業は品質の部分をメーカーに委ねているので、それに合わせて接客や空間を再構築すれば良いのですが、商品そのものを作っている個人事業主さんはなかなか大変な苦労を強いると思っています。ではではもう少し角度を変えて、昨今車に限らずIT技術の進展が目まぐるしいわけですが、自動運転についてはどのように考えていますか。

Yoshii:これも高級化と同じで、ぼくの場合は粛々と受け入れていく感じでしょうか。手段ではなく目的が優先されるオートマティックな世界はそれはそれで人類の進歩なので喜ばしいことだとすら思っています。このように楽観的に捉えられている理由には二つあって、自動運転が一般化しても趣味の領域でアナログな車を楽しむ文化は残ると考えていることと、ぼくの場合、車販売はライフスタイルを提案するための手段にすぎないので、車に執着するつもりがないからです。さっきの担い手が変わるという話と共通しますが、その時が来れば違うものを売れば良いと考えています。まあでもそうなったら寂しさを感じはするんだろうけど、目的がずれるわけではないのでぼくの喜びは減らないと思います。

Araki:柔軟ですね~、これってカメラ業界の問題とも似ています。今って、スマホの普及によってカメラが人類の数を超えた時代ですよね。それでも一眼レフのようなプロ向けカメラはなくなっていないし、写真家は変わらずフィルムを愛用しています。ただめちゃくちゃ高価なものになってるけど。プロ向けのハイスペックなものや、目的以外の価値が付与されたものはそう簡単になくならないんでしょうね。まさに”付加価値”が力を持つ時代なんだと思います。

Yoshii:そうですよね。未来をどの尺度で予想することが正解なのかは分からないけど、人類の進化は否定できないし、便利になることも懐かしむことも等しく大切なことだと思います。だから進化する環境を粛々と受け入れつつ、楽しむことに専念できたらいいなと考えています。そうそう、オートメーションの基盤となるはずだったEVも目まぐるしく変化していますよね。EVから手を引くブランドも増えてきて、EV中古車がただのゴミ化してしまっている問題が出てきています。

Araki:そうなんですね 笑、ぼくはEVってAIブームと似ていると思っていて、今のAIブームって第3波じゃないですか、現れては消え現れては消え、それを繰り返しながら技術が進化していくプロセスが似ていると思っています。だからEVも未来訪れる第3波くらいで実現し、その時遡って今の失敗を見れば無駄ではなかったと思えるのかもしれませんね。では、新技術待望論が続いたのでそれに絡めた質問ですが、すべてがバーチャルになった時代が来れば車はなくなると思いますか。というのもぼくの関心に引き寄せると「それでも人は旅を続けるだろうか」ということを日々考えています。ぼくは人類はそう簡単に旅することを手放さないような気がしているんですけどね。

Yoshii:そうですよね、どんなにバーチャルが進んでも身体はそのまま残るわけだから、エネルギーを消費したい欲求が背中を押して旅や移動を続けるような気がします。旅ってめちゃくちゃ得るものが多いですもんね。ぼくは旅先の土地に根付いた暮らしや食に興味があって、ふらっと旅に出るのが好きなんですけど、新しい人・もの・空間に触れることで身体が喜ぶことにやっと気がついたんです 笑。年齢を重ねるってそれなりに意味があるもんですね 笑。

Araki:その喜びって環境に適応することから得られるものだと思います。これっておそらく本能として備わっているもので、多くの環境に適応することで生存確率が上がるから「知っておきたい=適応したい」という欲求をもった遺伝子が生き残ってきたんだと考えています。そして適応するために今のところ最も効率のよい方法が”自分の身体をその場所へ連れていく”という極めて物理的な行為です。それを「旅」と呼んでいるんでしょうね。

Yoshii:なるほど、そう言われるとそういう気がしてきました 笑。車が好きなこともあって移動することは昔から好きなんですけど、ぼくにとっての移動価値はドライブに留まるものではなくて、街の中を探索する「歩行」にもあります。というより、むしろ歩くことの方が好きなのかもしれません。なのでエスパシオ観光ホテル化計画のなかにある「Slow Drive」という価値観というかネーミングがめちゃくちゃ気に入っていて、あの文章の中にある”歩く鳥”のように、ぼくも羽を休めて街を歩きまわることに時間を使うようになってきました。山口にも歩行空間が沢山できればいいのになと考えたりしています。

Araki:ああ、だんだん分かってきました、吉井さんはたまたま山口で育ったから車屋を営んでいるけど、都市に生まれていればライフスタイルショップや服屋さんを営んでいたのかもしれませんね 笑。これっておそらく吉井企画のコンセプトにもなるだろうから、ちゃんと暖めておくとよいかもしれませんね。

Yoshii:いやあ、ぼくも薄々そう感じています 笑。実は今そのための準備も進めています。まさかただの車好きが移動を介して新たな価値にたどり着けるとは考えてもいませんでした。どんな展開になるかはまだまだ模索中ですが、そのときはぜひお力添えを 笑。

Araki:都市への移住も考えていますか。

Yoshii:そうですね、東京のような大都市でもいいんですけど、福岡あたりと2拠点生活するのがリアルな夢です。車にこだわり過ぎるのではなく、自分の価値観を掘り下げて新たな展開ができればいいなと考えています。車屋はだれかに任せてもいいですしね。とにかく、やらなくて後悔することだけは避けたいのでこれからは未来に向けて貪欲に生きていきたいです。

Araki:応援していますね。そうそう、実は目的から遡行するタイプは実行に戸惑いが生じやすいという話をきいたことがあります。それって、人生を有限だと考える人はなかなか一歩を踏み出せず、がむしゃらに実行する人は人生の有限性を想定していないひとが多いそうです 笑。ちゃんと目的をもって行動しようということへのアンチテーゼにも聞こえるけど、あながち間違っていないような気もします。

Yoshii:たしかに、マーケティングばかりしている人をよく見かけますよね 笑。ぼくは実行するには今がほど良い年齢だと思っていて、意志より先行して体がうずうずしている実感があります。とりあえず、どこかの企業に入って新しい知識を身につける時間をつくっても良いかもなんて考えていたりもします。そう思ったきっかけは日本橋のCITANへ行ったからなんですけど、あそこめちゃくちゃいいですよね。あんな空気感のなかで働いてみたいです 笑。

Araki:それ塩満さん(ruco owner)に相談すれば実現するんじゃないかな 笑。Backpackers'Japanの宿はどれも格好いいですよね。吉井さんの好みだということもよく分かります。あそこって空間のセンスだけではなく組織に魅力があると思っていて、キャリアップの通り道として組織づくりをしているところが格好いいですよね、次世代にバトンを渡していくスタイルってなかなかできることではないので尊敬しています。

Yoshii:そう思います。実は、ぼくは塩満さんと同じ年齢なんですけど、側で見ていて憧れます。去年から荒木さんもそのひとりに加わったんですけど 笑、ぼくが生き急ぐことになった原因は、そういう刺激をくれる人との出会いにあるんだろうなと思っています。

Araki:なんか褒められた 笑、ありがとうございます。でもやっぱり吉井さんの中にパッションがあることがそうさせているんだと思いますよ。これからの活躍を楽しみにしています。ではでは、インタビューに付き合っていただきありがとうございました。また近いうちに長門や萩にスロードライブしに行きましょうね。


day of stay:April 23, 2024


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