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04.サービスの枠を超えてはいけないケース

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しくみによって「サービスの枠を超えていい接客」が決まっていても、接客者がやってはいけないルールが2つある。
ひとつ目は、販売を理由に接客がサービスの枠を超えること。
ふたつ目は、自分ができることを精一杯行う接客である。

接客にはセールスの仕事が組み込まれていることがある。
販売や売上げ、売上額による社内評価が接客者の目的になってしまうと、サービスを完全に提供する意識が追いやられてしまう。
このことがサービスをダメにしてしまう。

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セールスが優れているということは、口が上手いということや押しが強いということではない。
人から信頼される人柄を持っているということで、お客は接客者を信用して商品を購入するようになる。
お客はこのとき、サービスに対する信頼ではなく、販売員である接客者を信頼することでサービスを利用するようになる。

ということは、接客者が対応を誤り信頼が崩れてしまったら、サービスは以前から何の変わらないにもかかわらず、サービスの信頼も同時に崩れてしまう。「サービスが悪い」と評価されるようになる。
その接客者が退職すればサービス利用されなくなり、転職すればお客の引き抜きが起こることもある。
接客者個人に対する信頼によってサービスが利用されたり、されなくなったりするということは、既にサービスに対する信頼がないということを証明している。

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販売上は買ってもらうことが正しい。
しかし例えば、断りきれずに思わず判子を押してしまったというとき、販売はそれでも成果を出すが、サービスの信頼は失われる。
サービスを提供しながら「サービスが悪い」と評価されることになる。

人は誰でも、期待していることよりも少し上のものを提供されたときに喜びを感じる。
これはサービスに限ったことではなく、友人の誕生日を祝う場合や結婚記念日をアレンジする場合などにも同じことがいえる。
セールスマンや販売会社の中には、利用者の満足度を上げるためにサービスの内容を控えめに説明し、サービスの全内容を明らかにしないことがある。
この方法で最初お客の期待値を下げておき、実際には最初から提供すると決めている(説明のない)サービスをそのまま提供することがある。

お客は、最初の説明よりも実際のサービスが良いことに満足し、喜んで利用するようになる。
そして期待値以上のサービスを提供してくれたことに「サービスがいい」と高い評価を下す。

これは

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である。

サービスは提供すると決めたものを正確に提供する約束である。
しかしこの場合お客は、提供すると約束された以上のことを提供される。
気分は良いかもしれないが、約束は守られないということになる。

そしてそのようなサービスを支持する利用者は、今後必ず、約束以上のものを期待し望むようになる。
提供すると決めた以上のサービスを望み、それを提供し続けなくてはならないようになると、もう正しくサービスを提供することはできなくなる。
途中でサービスを本来あるべき姿で提供するように変えてしまうと、今度は「最近サービスが悪くなった」と評価されるようになる。
おまけに本来あるべき姿で提供するとクレームが増えはじめる。
正しく提供すればするほど(約束したことと結果が違うので)問題は大きくなり、構造的にいずれサービスがダメになってしまう。

接客はこのスパイラルをよく知って、販売を理由にサービスの枠を超えないようにしなくてはならない。

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自分ができることを一生懸命行いたいという理由で、接客者がサービスの枠を超えることもある。時に美談が生まれることもある。
京都嵐山のある旅館の女中は、チェックアウトした顧客が部屋に財布を置いたまま発ったことに気がつき、京都駅を出発する新幹線の中まで急いで届けた、という逸話がある。
この逸話が正しいサービスの提供であるかどうかは、旅館のしくみがどのように定められているのかによって変わる。

旅館にまだ宿泊している他の利用者に、滞りなくトータルサービスを提供できる状態がしくみによって整えられていて、女中が旅館を出ることが認められているのであれば、彼女は正しいサービスを提供したといいに違いない。
しかし、しくみによって決められていない場合は、他の宿泊客に対して基本サービスが提供されない可能性も出てくる。
それは結局のところサービスの信頼を傷つけ、多くの利用者を裏切ってしまうことになる。

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置き忘れた財布を目の前にしたとき、良心的な接客者は目の前の物事に対して自分ができる精一杯を行おうとする。
しかしその行いは、サービスを必要としている他の利用者の、犠牲の上に成り立っているのかもしれない。

ジムのインストラクターが質問攻めを行う1人の利用者に親身に答えているうちに時間が過ぎてしまい、エクササイズ(基本サービス)ができなかったというような状態と同じである。

サービスでは、基本サービスの提供に支障が出る行いを正当化することはできない。
接客者の心意気と思いやりは素晴らしいが、サービス提供者としては失格である。

ところがこのような行為が支持され、褒められ、話題にされることで「サービスが良い」と評価されることがある。
カリスマ接客者が生まれることもある。

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サービスに対する信頼ではなく、接客者への信頼でサービスが提供されるようになってしまう。
別の問題も起こる。

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この接客者の行為は「自分ができることを精一杯伝える」ことにある。
コンセプトに沿ったサービス提供を目的にしているのではなく、自分が信じることだけを何も考えずに必死に行っている。

接客者が個人個人の良心を中心に行動すると、実際のサービス提供に不統一が生まれる。
接客者全員がこのようなタイプであれば提供されるサービスに統一性がなくなり、接客者の中で1人か2人がこのタイプであるなら、お客から見てその接客者の提供するサービスは良く、他の接客者の提供するサービスは悪い、と見えてしまう。
そうなると、的確にコンセプトを守りサービスを提供している接客者はやる気を奪われ、正確に提供されているはずのサービスは、いつの間にか「悪いサービス」だとされてしまう。

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このようなサービスを利用するお客にとってサービスは接客者によって基準が変わるものとなり、良い接客者に当たればラッキー、悪い接客者(実は正確にサービスを提供する接客者)に当たればアンラッキー、あるいは良い人に当たるまでクレームを出し続けなければならない、という状態を作り出してしまう。
本来は生まれるはずのない不満・クレームの増加は、その対応に割かれる時間や労力によって基本サービスの提供に支障をきたす。
こうして悪循環が生じ、サービスはますます確実に提供されなくなっていく。
最終的に利用者は安心してそのサービスを利用することができなくなり、サービスへの信頼が崩壊する。
良い接客、一生懸命自分ができることを行うことでサービスがダメになってしまう。

接客者がこのサービスの特徴を理解し、基本サービスを提供することを重視し、しくみを守りながらサービスを超えるようにすれば、このような問題が起こることはない。



前話: 03. 接客のポイント「3.サービスの枠を超える接客」
次話: 05.接客のポイント「4.接客によるしくみの改善」



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