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01.素晴らしい接客者の能力

素晴らしい接客者は能力を使いこなす。
素晴らしい書店員であれば「和食の本を探しているのですが」との問いかけに対して、お弁当のように手軽なものか本格的な日本料理を作るのか、図解が必要か必要でないのか、予算はいくらくらいなのかを尋ねるだろう。

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お客の回答によっては本ではなく雑誌を勧めるかもしれないし、もし他の知識があれば、インターネットのサイトなどを親切で教えるかもしれない。
お客はその接客者の、コミュニケーション力、問題に対応し解決する力、料理本に対する知識、ニーズを引き出し応える力、予備知識などに感激し、満足するだろう。
本当に困っていれば心から感謝することがあるかもしれない。
お客自身はこのように能力を具体的に分解して評価はしなくても、全体としていい接客を受けたと評価する。
こうして「評価」されたものが、接客者の「能力」である。

こういった能力は、通常接客の仕事を覚えることで身についていく。
つまり素晴らしい接客は、仕事からはじまる。仕事で必要とされる技術を身につけることからはじまる。
そして能力を最高にすることが目的になる。
全体の能力を高めることで素晴らしい接客者になることができる。

仕事からはじまる能力は、経験と学習によって身につく。

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になる。
スキル、技術、方法論などを身につけることで能力を高めることができるようになる。
以前は下手で、遅く、的確でなかったものが、能力を身につけることによって上手く、速く、的確にサービス提供ができるようになる。

仕事からはじまる能力は、主に画一的なものと応用力が必要なものの2つに分かれる。

書店員の仕事であれば、レジで会計をしたり雑誌コーナーを案内したりする仕事は、複雑な能力を必要としない。
一度覚えれば難しいことではなく、仕事の方法はいつも同じで変わらない。

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これに対してお客の希望する本を的確に紹介したり、お客の必要性の高い本を平積みにしたり、ポップを書く仕事はやや高い能力が要求される。
この能力も経験と学習によって身につく。
それでも、いくつかのパターンやお客の感じること、考えることなどを中心に能力を応用しなくてはならないので、このスキルや技術を身につけた接客者はベテランとなる。

ベテランの中でも、特に能力を自由自在に使いこなしてお客に満足してもらうことができる接客者を「素晴らしい接客者」と呼ぶ。
彼らの多くは能力を「才能」として使いこなす。
他の接客者が至らないこと、気がつかないことなどに気がつき、今行うべき最も大切なことは何かということを知っている。

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素晴らしい書店員であれば、探し物をしている雰囲気のお客を見たら、積極的に声をかけるかもしれない。
お客が急ぎで手に入れたい本の在庫が切れている場合、予約をするのか、ネットで買うことを勧めるのか、近所の別の本屋に電話をして在庫を確認するのかなどを比較して、最も良い方法で対応するだろう。

素晴らしい接客者は、こんなふうに一歩進んだ接客をする。
お客の不安、不満足に対してニーズを先取りし、最もふさわしい対応をすることで能力や才能を発揮する。
そしてお客に不満足の解消と満足を提供する。


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能力を身につけることは仕事からはじまる。
ということは接客者の能力の問題は、そのまま仕事の問題になる。

接客者の能力を重視してサービスを支える事業では、このような問題が起こることがある。

はじめに、スキルや技術を上手く身につけることができる接客者と、できない接客者の間に差が生まれる。
この差はときに、能力の高い者と低い者の間に「上下関係」を生み出す。
能力を上手く身につけることが優秀であり、下手な者は腐った林檎になる。
悪くすると上下間で派閥ができ、それが結局は仕事の状態を悪くする。

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私たちも自分がお客の立場に立てば容易に想像がつくと思う。
どのようなサービスを受けても、お店や会社に派閥や上下関係の差別があれば、それを目聡く見つけてしまう。
もちろんそのようなサービスを気分よく受けることはできない。

それから私たちはお客として、誰の接客能力が高く、誰が低いのかということをお店の雰囲気や接客者の態度などで敏感に察知してしまう。
そうすると、能力の低い接客者にサービスを提供されるととても損をしたような気分になるし、不快感を覚えることもある。

別の問題が起こることもある。
素晴らしい接客者も含めて、高いレベルの接客を行うことができる人であっても、能力が高くなるにつれて倣岸になる人が出ることがある。
能力が低い人や、まだ能力を身につけはじめた人に対して、バカにしたりきつく当たったりする人が必ず出る。

能力によって仕事が支えられているということは、接客者の関心は人間力や思いやり、協調性にあるのではなく、スキル・技術力を高めることにある。
特に販売成績で接客を評価する事業には、この傾向がよく見られる。
たとえコミュニケーション力の高い接客者であっても、このような問題を引き起こすことがある。

なぜなら仕事ではコミュニケーション力という「スキル」を使って人(お客)に接するのに対して、同僚に対してはスキルではなく「能力が低いことに我慢ならない」などの本心で対応するからである。
能力を基準にしている接客者は多かれ少なかれ、必ずこのような考え方を持っている。
仕事が能力を求めるということが、接客者にこの考えを引き起こさせる。

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コンセプトがしっかりとしているサービスでは、このような問題は表面化しない。
たとえば接客者が笑顔で接するその裏で、お客の陰口を言っているようなことがない良質なサービスは実際にある。
サービスで何をどうするかがはっきりと決まっていて、マネージャーなどの管理者と現場が一緒になって理念を目指すサービスでは、能力差による上下関係や派閥は起こりにくい。

けれどもそれは、接客者個人が心の中で能力差について思うところがないということにはならない。
プロであり責任感が高いために表面に出さないことを心得ているにすぎない。



前話: 第18章07.第3の扉 金の卵を産み落とす
次話: 02.素晴らしい接客者個人の特徴



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