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2022年のITエンジニア転職市場と2023年の予測(私見)

2022年のITエンジニア転職市場は「フルリモート」一色でした。フルリモートではない求人はITエンジニア求人にあらず、といったふうでしょうか。それだけコロナ禍以降、リモートワークが一般化した証拠です。

今回、2022年のITエンジニア転職市場を振り返り、私見ながら2023年の予測を述べたいと思います。ただ、あくまで私見であり、人材業界全体の見解でもなければ、転職の成功を確約するものでもありません。こういう考えもあるのか、くらいで読んでいただければ、と考えています。

コロナ禍から2021年の転職市場

2020年4月~5月が、日本におけるコロナの第一波でした。緊急事態宣言も発令され、合わせるように求人倍率は大きく下がり、ITエンジニアの求人も激減しました。
ITエンジニアの求人が増え始めたのは、2020年の年末からです。体感的には11月くらいから多くの企業が経験者採用を再開しはじめたように思えます。一方で未経験求人はストップしたままでした。
DXでプロジェクトを進めなくてはいけない、しかし、これまでのようにITエンジニアを一か所に集めて作業させるのは難しい。リモートに切り替える中で、独力で仕事ができる経験者が求められたのです。

その後、2021年1月~3月、4月~6月、7月~9月と、立て続けに緊急事態宣言が出され(その間に4月~9月までまん延防止等重点措置が発令)、4月~7月くらいの時期に、また求人倍率が下がります。
しかし、ワクチン接種が開始されたこと、コロナに対する危機感が薄れたこと、ITやDXのニーズが高まり続けたことなどから、2021年後半から右肩上がりに倍率が上がっていきます。
この時期になると、「リモートワーク」「在宅勤務」というワードがITエンジニア求人に当たり前に登場し、記載のない求人は効果が低いという状況でした。

また、早い企業だと2021年後半には未経験募集を再開しています。研修やサポート制度のある会社なら、コロナ禍以前よりも応募が殺到し、想像以上の効果を得られていたと思います。

2022年のITエンジニア採用市場

2022年に入ると、経験者・未経験者採用ともに、コロナ前に戻っています。むしろ、経験者募集に至っては加熱し、募集しても採用できないという状況に。
というのも、先述の通り、「フルリモート」が求職者の前提になったためです。逆に言えば、フルリモート以外の(求職者が求める)要件が下がったようにも感じています。コロナ前は「上流工程」や「元請け案件」という、(商流も工程も)上流がトレンドでしたが、今や3次請けや4次請け、SESであってもフルリモートであれば応募が来ます。
一方で準大手であっても、リモートをうたわないと応募が芳しくない、という状況です。

もう一つ、2022年のトレンドとして挙げられるのが、地方採用・全国どこでも働ける採用です。コロナ前もほそぼそと行われていましたが、リモートの普及によって一気に加速しました。

もっとも有名なのは、ヤフー株式会社の「どこでもオフィス」でしょう。社員のニーズに合わせて働く場所・働く環境が選択できるようになった制度です。ヤフーを筆頭にフルリモートを活用し、日本全国どこでも働ける体制を築く会社が増えてきました。

同時に東京以外の、大阪・名古屋・福岡、そのほか地方都市での採用に力を入れる企業が増えています。地方でもリモートで働けるようになったこと、IT化・DXを進める地方企業が増えてきたためです。
これまでの東京一極集中だったエンジニアですが、今後はもう少し地方に分散する可能性があります。ですが、現状は東京の周辺(神奈川・千葉・埼玉)に移ったただけですが。おそらく50万人以上の都市(政令指定都市・中核市)でなければITエンジニアが増えることはないでしょう。

未経験採用も増加し、「○ヶ月研修」「サポーター制度(ラウンダーやキャリアコンサルタント、キャリアアドバイザーなど)」を整備する会社が増えてきました。そこまで手厚くしないと未経験であっても採用が難しいためです。

海外(特にアメリカ)に目を向けると、2022年はオフィス回帰が叫ばれていました。また、GAFAMで大量解雇が実施され、IT企業に陰りが見えたのではと囁かれた時期でした。
ツイッター社はイーロン・マスク氏が「ハードコアな働き方」を要求し、また3700人を解雇しました。

アメリカだからオフィス回帰、大量解雇が実施されたのであり、日本では起こらない(起こっても限定的)と私は考えています。
理由はアメリカのIT企業の多くは自社プロダクトであり、日本のようなSIerは少ないからです。オフィス回帰はリモートワークでは生まれない「セレンディピティ」を意図していると思われます。

日本以外の国ではリモートによって生産性が向上したというデータがあります。にもかかわらず、オフィス回帰するのは、それ以上のメリットがあるからです。それがセレンディピティです。偶然の産物ともいわれ、ビジネスでは交流の中で生まれるアイデアや企画などを指します。
自社プロダクトの会社は新しいサービス・企画を生み出さなければ会社として存続できません。リモートでそのようなアイデアが生まれづらくなったために、GAFAMを中心にオフィス回帰しているのだと推測しています。

大量解雇はアメリカでは、これまで当たり前に実施されてきました。今回も景気の減速、拡大しすぎた組織の再構築などによるものでしょう。FRB(連邦準備銀行/日本における日銀)が景気引き締めのための金利引き上げを実施しているので、景気減速は間違いなく発生します。となれば、企業がそれに対する準備を行うのは当たり前です。
日本とは状況がまったく違うため、日本のIT業界で同じことが起こらないでしょう。
(「GAFAMがやっているからウチもオフィス回帰だ」という企業はありそうですが)

2023年のITエンジニア転職市場(予想)

以上がコロナ禍から2022年までの転職市場の状況です。2022年はコロナ以前のトレンドとガラリと変わった年でした。フルリモートがその象徴でしょう。コロナ以前・以後と採用の考え方を改めないと、今後も経験者採用は難しいといえます。

では、2023年の転職市場はどうなるのでしょうか。経験者採用は引き続きレッドオーシャンであり続けるはずです。DX界隈は引き続き活況ですし、基幹システムの刷新の先を見据えた事業会社(ここではIT企業以外の事業を持つ会社)が自社サービスやスマホアプリ開発を内製化(あるいは自社で主導)するために、さらにITエンジニアを募集するでしょう。
これまでコンサル、SIer、SESで行われていたエンジニア争奪戦に、事業会社が本格参入すると思われます。

しかし、大きな動きを見せるのは未経験採用だと睨んでいます。これまでは20代若手、やる気があれば採用してきた企業ばかりですが、今後は2極化するはずです。

一つはこれまで通り、若手でやる気があれば採用する企業。もう一つは採用時点で一定の基礎を求める企業です。
前者は運用・保守やヘルプデスク・テクサポ案件を中心とするSES企業です。最近目立つのはSalesforceの運用オペレーターを募集する企業でしょうか。

個人的には非ITでも運用しやすいSalesforceのはずなのに、専任の運用担当が必要とはどういうことだ?と思っています。ですが、社内でSalesforceを運用する気のない企業が多いらしく、このビジネスは活況のようです。

後者は自社プロダクト企業や大手SIer、大手ITコンサルが、基準を上げてくると考えてます。理由はプログラミングスクールが急増し、ProgateやUdemyなど独学でプログラミングを学べる環境が整ってきたことです。自分で学習する環境があるのに、それらを使わないで知識・スキルゼロの未経験より、それらの環境を使い、学習してきた未経験のほうが意欲も高く、飲み込みも早いからです。
また、多くのSESと異なり、企業名が知られていることが多いので、そういったボーダーを引いても採用できるということもあるでしょう。

言い方を変えれば、2023年はポテンシャルのある、優秀な未経験の奪い合いが激化する年といえます。求職者側から見れば、年齢ややる気だけでは勝負できなくなる年です。

余談ですが、求人サイト側は多くのSESから「応募は集まるが、優秀な人材が集まらない」と言われる年になります。
今まで「手厚い研修」「同世代の同期・仲間」「リモートなどの働きやすい環境」で採用できていたSESでも、上げ膳据え膳・おんぶにだっこの学ばない未経験ばかりが応募し、採用できないという状況になる可能性が高いです。
正直、解答は見えませんが、何かしらの対策は講じるべきでしょう。

まとめ

2023年は今以上に、経験者も未経験者募集も激化する。

「経験者採用できないから未経験で」「紹介やリファラルで採用できないから求人媒体で」と、2022年後半で発言する企業は少なくありません。しかし、ここまで述べてきたとおり、未経験であっても先手を打っている企業がいるなかで、何の施策もなく採用できるほどIT採用は甘くありません。

とはいえ、コロナ後に対策している企業が圧倒的なので、2023年に巻き返しを図ることは難しくありません。そのためには制度を整える、会社の組織や雰囲気を変えていくことが重要です。

一方で求職者側を見ると、経験者はかなり選べる状況にあります。ただ、ヘルプデスク・テクサポや運用・保守のみの経験だと厳しいかもしれません。運用設計ができる、マネジメントができるなどアピールできるスキルがないと、未経験と同じ扱いになります。

未経験者は「努力の結果を見せる」ことが求められるでしょう。「これから頑張ります」ではなく、「すでに○○を学び、このくらいできます」という実績が求められ始めます。未経験にとって2023年は企業を選ぶと厳しい転職になりそうです。

よろしければ、サポートをしていただけると嬉しいです。サポートが今後の活動の励みになります。今後、求職者・人事担当などに有益な情報を提供していきたいと考えています。