第2回「商品・サービス開発プロジェクト」レポート
「これからの地域を支えるデザイン経営」を本気で学ぶ場所として、2023年にスタートした越前鯖江デザイン経営スクール。2023年10月14日(土)、15日(日)に第2回目の「商品・サービス開発プロジェクト」が開催されました。
【第1回レポートはこちら】
前回の現地プログラムでは、参加メンバーが参加企業を訪問し、企業や産地の現状について理解を深めました。2回目となる今回は、これまでのリサーチやディスカッションを踏まえ、チームごとに取り組むテーマを探ります。
また、10月14日(土)には、第1回目となる「これからの価値づくりセミナー」を同時開催。プランニングディレクターの永田宙郷さんに『ここからのものづくりをつくる』という内容で講演いただきました。
チームごとのディスカッション
1日目はチームごとに進捗発表とディスカッションを行いました。前回から約1ヶ月にわたり、現地やオンラインでの打合せを重ねた4チーム。それぞれどのような変化があったのでしょうか。
曽明漆器店チーム
前回のプロジェクトで
・青色に特化した商品のブラッシュアップ
・倉庫にある大量のデッドストックの活用
の2つの取り組みを掲げた曽明漆器店チーム。自社ブランドの「Kyutarou BLUE」をはじめとした、若い世代への入口となる商品の開発や、在庫商品のアップサイクルに取り組みたいと考えています。
漆器の歴史や産地が抱える課題についてリサーチし、チームが取り組む方向性について検討しました。
1500年もの歴史があり、国内の業務用漆器のシェアの約8割を占める越前漆器。産地への移住者は増えているものの、後継者不足という課題を抱えています。また、分業制がほとんどの漆器作りは、完成までに木地師、塗師、蒔絵師などのたくさんの職人の手を通ります。
産地全体の課題を解決しなければ、本プロジェクトで新商品を開発しても、職人不足で将来的に製造ができなくなる可能性も。
そこで曽明漆器店チームは、商品企画から卸、販売まで行う問屋だからこそできる価値、すなわち、新しい問屋の形を作ることをチームの取り組むテーマに掲げました。
沢正眼鏡チーム
会社の売上や雇用状況など、沢正眼鏡の現状についてリサーチした沢正眼鏡チーム。リサーチの結果、沢正眼鏡には
・作業がマニュアル化されていない(社長や専務にしかできない業務が多い)
・生産力を上げるために人材が必要
など、いくつか課題があることが見えてきました。
また、同時に見えてきた沢正眼鏡の強みは、働きやすい職場環境と高い技術力。地域内での雇用を中心に、週休3日制や午前中だけ働くなどの多様な雇用形態を実現しています。また、ほとんど営業をかけずに数十年会社が続いてきたという実績は、社長や専務の人柄のよさや安定した技術力によるものと考えられます。
そこで、どんな会社を目指したいかを澤田専務にヒアリングし、プロジェクトの方向性を検討することに。
小柳箪笥店チーム
前回のプロジェクトで「越前箪笥の魅力と価値で唯一無二を創造する」と掲げた小柳箪笥店チーム。魅力、価値とはそれぞれ
魅力=飾り金具の文様など値段のつけられないもの
価値=木・鉄・漆の「技術や技法」など値段がつくもの
を表しており、これら2つの要素を含めることで、越前箪笥職人にしか成しえない商品やサービスができると5代目見習いの小柳勇貴さんは考えています。
そこで、越前箪笥の魅力や営業方法、参考になりそうなサービスなどについてリサーチし、ディスカッションを行いました。また、現地リサーチとして、小柳箪笥店周辺のまち歩きや箪笥会館の見学へ。お寺の門の猪目(いのめ)や如意(にょい)を見て、飾り金具の文様について学んだほか、箪笥の歴史や地域性についても理解を深めました。
越前セラミカチーム
前回、越前瓦の現状についてリサーチした越前セラミカチーム。今回は現地リサーチとして越前セラミカの本社工場を訪れ、越前瓦の製造工程について学びました。粘土の採掘から土作り、瓦の成形や焼成までを自社で一貫して行う越前セラミカ。広い工場内にずらりと並ぶ瓦は迫力満点です。
会場に戻り、リサーチで得た情報をもとにディスカッションを行いました。瓦だけでなくタイルも製造していることや、害虫駆除や雪かきなどの様々な仕事をしていることから、暮らしの全般を成り立たせるサービスがあるといいのではという意見が出たようです。
各チームの発表とフィードバック
ディスカッションを重ねた4チーム。2日間の最後にはチームごとの発表と講師によるフィードバックが行われました。
曽明漆器店チーム
曽明漆器店チームは、商品企画から卸、販売まで行う問屋だからこそ、産地に貢献できることがあると考え、新しい問屋=「New問屋」の形を作ることをチームの取り組むテーマに掲げました。「New問屋」とは、企画ができる問屋のこと。つまり、時流やニーズを読み、必要とされる商品を企画・販売する「産地のディレクター」や「プロデューサー」ともいえます。
講師陣からは、「問屋にできることはもっとあるはず。職人さんのケアや商品開発に積極的にアクションする、攻めの姿勢がある問屋が理想ではないか?」「産地でどんな役割を果たせそうかを考え、長期的なビジョンから逆算して、今何ができるかを考えるといいのでは」といったアドバイスが。
曽明漆器店3代目の曽明富代さんは、「創業100年を迎えた当社ですが、これまで地域に貢献することまで考えたことがありませんでした。会社のビジョンを作り、そこから具体的な取り組みを探っていきたいです」と話します。
次回までに、「New問屋」の定義と、産地と会社のビジョンを検討します。
沢正眼鏡チーム
沢正眼鏡チームは「100年後も愛される沢正眼鏡」を実現するために、会社の強みや地域との関わり方を探りました。
「もともと冬の副業として始まった眼鏡産業。『眼鏡を副業に』という新しい働き方を提案できないか」と佐野さん。
講師陣からは、「眼鏡は分業制で成り立つ産業。沢正眼鏡だけでなく、眼鏡業界全体から捉えてみるといいのでは」「シェアハウスが近くにあり、移住者もおり、眼鏡職人になりたい人は一定数いるはず。『眼鏡を副業に』という提案はぴったりだと思う」「澤田専務は地域のことも考える素晴らしい職人であり経営者。作り手の見せ方を工夫すると、小売店などのお客さんが増えるのでは」といった意見が出ました。
澤田専務は、「副業は鯖江の眼鏡産業の原点。わくわくする仕かけを次回までに提案できれば」と話します。
今後は、眼鏡産業の現状把握や地域の人たちへのヒアリングを通して、地域に貢献できる取り組みを探っていきます。
小柳箪笥店チーム
「小柳箪笥店の強みと弱みをそれぞれ検討し、
強み:小柳さんの知識や技術力
弱み:越前箪笥自体の認知度の低さ、お店の営業力
ではないかと考えました。そこで、本プロジェクトでは越前箪笥や小柳箪笥店の魅力を知ってもらうためのサービスやツールを開発することにしました」とチームメンバーの吉田さん。
越前箪笥や小柳箪笥店の魅力を伝える手段として、
・産地を知れる宿作り(家具などに小柳さんの箪笥を使用)
・YouTubeやポッドキャストでの発信
・ZINEの制作
などに取り組んでみたいといいます。
講師陣からは、「まず越前箪笥の知名度を上げることが重要。魅力を言語化した上で小柳箪笥の魅力を伝えては」「ものを厳選して買う時代には、『この人から買いたい』と思ってくれるファンがつくことが大切。伝統工芸士で箪笥オタクでもある小柳さんがYouTubeで発信すれば、越前箪笥の魅力が伝わるはず」といったアドバイスが。
さらに、以下の3つの観点でリサーチしてはどうかというアドバイスも。
・ターゲット:箪笥を買う人がどこでどんな暮らしをして、なぜ買おうと思うのか
・他産業の事例:別の成功している産業がどんな売り方をしているか
・売り方:愛を持って売ってくれるパートナーとタッグを組めないか
次回までに、当プロジェクトで取り組む内容をより具体的に検討します。
越前セラミカチーム
ディスカッションを通して見えてきた越前セラミカの目指す姿は、「越前瓦の風景を守る」こと。そこで提案したのが、越前セラミカを瓦のテーマパークにする「カワラの夢プロジェクト」です。中長期スケジュールを検討し、2025年以降に越前瓦の魅力を体験してもらえるゲストハウスやショールーム、カフェなどをオープンすることを提案しました。
ただ、チームメンバーはこの半年で具体的に何をするかで行き詰まっている様子。講師陣にアドバイスを求めます。
講師陣からは「越前瓦の風景を守るとは、具体的にどうなることか」「越前瓦の魅力を広めることで、越前の人に『やっぱり屋根は瓦にしなくちゃな』という思いが芽生えてくるはず」「100年後の風景を『守る』よりは『作る』方がいい。このプロジェクトは地域のアイデンティティにつながるもの。外部環境や社会変化を考慮してみては」など様々な意見が。
また、屋根瓦の需要が減っているなかで、タイル事業を伸ばせないかという意見も。丈夫で耐寒性がある越前瓦を活かしたタイルは、建物の外壁や歩道などに使われており、建材としてもっと普及できるかもしれません。
次回までに、越前瓦の風景を守るための具体的な取り組みを検討します。
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各チームのリサーチが進み、前回よりぐっと具体的な議論になりました。次回はいよいよ中間発表。1ヶ月間でどのような変化があるのでしょうか。
(文:ふるかわ ともか)
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