青空と夕焼けの科学~光散乱をまとめてみた~
はじめに
身の回りに光の散乱に関する現象はありふれているものの、私自身あんまり意識したことはないものです。
ここでは自然界にはいろんな光散乱があるよ!という感じの紹介をしていきます。
私自身、そんなに詳しい内容ではないですが、自分の備忘録としても書きたいと思います。
光散乱の原理
物に光が当たると様々な向きに散らばる現象を散乱と理解されがちですが、厳密には入った光(入射光)と出てくる光(散乱光)は同じものではないようです。
すなわち単純に物にぶつかった光が向きを変えるという現象ではないのです。
そもそも光は電磁波という電場と磁場の振動現象です。
光が当たるとは、この電場と磁場の振動を受けるということになります。
イメージとしては大音量で音楽を聴いたとき衝撃(空気の振動)を受けるような感じでしょうか
物質を構成する原子は、よく見ると電子という電場の影響を受けやすい小さな粒子を持っています。そこに光(電磁波)がぶつかると、電子が振動を始めます。
この電子の振動※に伴って電磁波が放出されます。この新しくできた電磁波が散乱光というわけです。
この時、入射光と散乱光の波長が同じ場合を”弾性散乱”といい、異なる場合を”非弾性散乱”と呼びます。波長とは波の山から次の山の間隔を表す用語です。可視光で言えば色だと思ってもいいでしょう。
すなわち”弾性散乱”では、光の特徴である波長が変わらないため、あたかも向きを変えただけに見えるでしょう。
弾性散乱
レイリー散乱
光が当たる物質が光の波長よりも十分小さい時の散乱をレイリー散乱と呼びます。
これは青空や夕焼けの理由です。
地球には太陽光が降り注ぎます。この太陽光には虹色に含まれるすべての色の光を持っており、これを同時に見ると白く見えるわけです(実際にはもう少し広い波長域に連続的な光をもつ)。
一方、空(空気中)には窒素分子と酸素分子が大部分を占めます。光の波長(数百nm)に比べて、これらの分子は十分小さく(Å程度)、空気中を通過する光はこれらの分子によって散乱されます。
レイリー散乱では、太陽光のうち波長の短い”青”色の光が散乱されやすいため、日中は散乱された青い光が私たちの目に届き空が青く見えるわけです。
逆に夕方になると、太陽からの距離が離れてしまいます。そのため”青”色の光は私たちの目に届く前にすべて散乱してしまい、太陽光のうち散乱されにくい”赤”色の光が最後まで残ります。これが夕焼けの原理です。
ミー散乱
光が当たる物質が光の波長と同程度がそれより大きい時の散乱をミー散乱と呼びます。
これは雲や牛乳が白く見える理由です。
例えば雲を構成するのは気体分子よりも大きな水滴になります。
小さな気体分子の散乱(レイリー散乱)では、Born近似と呼ばれる方法で、難しい計算を簡略化することができます。しかしながら、粒子の大きさが水滴のように光の波長程度まで大きくなると、この近似が使えなくなり非常に複雑な計算を解く羽目になります。この難しい式を解いたグスタフ・ミーにちなんでミー散乱と名づけられました。
そんな難しいミー散乱ですが、がん検知のような医療応用や大気問題を解決する環境応用など幅広く利用されているようです。
ちなみに雲の切れ間から光が差し込んで光の柱のように見える”天使のはしご”もミー散乱があるため起こる現象です(チンダル現象)。
トムソン散乱(X線)
主にX線を用いたときにおこる弾性散乱です。
波長が非常に短いX線が物に当たると、物質内の1つ1つの電子を振動させて、そこから散乱X線が放射されます。
トムソン散乱では、同じ波長をもつ散乱X線が複数の電子から放出されます。この時、放出された複数の散乱X線がカメラのある位置に異なる”タイミング”で届きます。この”タイミング”のことを位相といい、位相の違いがX線(電磁波)の干渉を起こします。
干渉とは複数の波の山と谷が重なることで、波の振幅(強度)が強まったり(山と山)、弱まったり(山と谷)する現象です。
これは金属や半導体をはじめとする結晶の構造解析によく使われます。
非弾性散乱
ラマン散乱
弾性散乱(レイリー散乱)では物質に光が当たると、まったく同じ波長の光が返ってきます。緑の光を当てたら緑の光が返ってくるようなイメージですね。
一方で、入射した光が物質とエネルギーのやり取りを行い異なる波長の光が返ってくることがあります。これは緑の光を当てたのに赤い光が返ってくるようなものです。これがラマン散乱です。
このエネルギーのやり取りというのが、物質の構造に由来して起こるため、返ってきたラマン散乱を調べると物質の情報を得ることができます。
一般的には非常に微弱で身の回りで感じることはないですが、材料開発や物質調査といった科学分野では非常に重宝されています。
また、少し意味合いが変わるようですが、X線においてもラマン散乱があるようです。
コンプトン散乱(X線)
X線が電子にあたると、エネルギーの一部を電子に受け渡し、X線の波長が長く(エネルギーが小さく)なる散乱をコンプトン散乱と呼びます。これはX線(光)が電磁波という波であり同時に光子という粒子であることを示した実験にもなります。
まとめ
他にもいくつか散乱光の種類があるようですが、ここでは特に一般的なものを紹介しました。
個人的には、こういう分類とか名前とかあまりわからなくて、数式第一なところがあるのですが、まとめてみると結構奥が深いですね。
そして簡単に説明するつもりがちょっと堅苦しい感じもします...物理を伝えるって難しい
**********************************
説明が冗長になるところは多少語弊あり覚悟で書いてます。
※可視光のレイリー散乱の説明では、自由電子ではなく分子内に生じる”双極子”の振動で放出されたものを散乱光といいます。