【ナノの世界の究極美】DNA単結晶の美しい世界
自然界には美しいものがたくさんあります。
世界の絶景とされる海岸や森林も然り、山で転がっている鉱物もまた小さな自然の一部であり、人々を魅了する美しい造形をしています。
例えば、水晶は先端が尖った六角柱の形をしていますが、これは人間が削って成型したわけではありません。誰から手を加えずとも、様々な物理現象の中で、あのような形が生まれます。
人類は知的好奇心から新しいものを生み出し、世の中を変えてきましたが、その一端にはとても美しいものが生まれます。
今回は、研究者たちが生み出したDNAの単結晶の美しい世界について紹介したいと思います。
DNAオリガミ結晶
DNAはATCGという4種類の塩基を持っており、この並び順が私たちの遺伝子に関係しています。現在はこの塩基配列の順番を人為的に操作することができるようになり、短いDNAであれば人工的に作り出すことも可能です。
そうして塩基配列(≒遺伝情報)を制御されたDNAを使うことで、ナノの世界で様々な形の構造物を実現することができます。これがDNAナノテクノロジーと呼ばれるもので、その中でも有名な技術がDNAオリガミです。
このDNAオリガミで小さなパーツを作り上げ、そのパーツを規則正しくならべることで、結晶構造を作ることができます。
このnoteでは何度も紹介していますが、結晶というのは原子や分子などの構成要素が規則正しく並んだ物質のことです。ここではDNAオリガミでできたナノ物質が整列することで、DNAオリガミ単結晶となるわけですね。
これまでの研究ではDNAオリガミ単結晶というものは発見されていたようですが、今回紹介するほど美しい形を持つ単結晶は作製されてきませんでした。
単結晶・ウルフ多面体
冒頭にも述べたように結晶には水晶や雪の結晶など様々な形がありますが、これには大きく2つの要素が関係してきます。
それがエネルギーの観点と速度論です。なにやらすごく難しいことを言ってるな…と思われるかもしれませんが、安心してください。
今回関係があるのはエネルギーの方で、エネルギーの観点というのは要は一番安定に存在できる形はなんなの?って話です。
さらにかみ砕いていうならば、坂道にボールを置いたら転がって一番低地で止まりますよね。これがエネルギー的に最も安定な状態です。世の中にはエネルギー的に不安定なところがたくさんあります。(坂道に置いたボールなど)
結晶でも同じで、同じ構成分子でも様々な形をとることができます。形によって結晶が持つエネルギーが違うため、結晶は最も安定な状態になろうとするわけですね。
そんな安定な状態にある結晶形というのを平衡形=ウルフ多面体形状といいます。これがとても神秘的で美しい形をしているんですね。
ちょっと遠回りしましたが、今回紹介する研究ではDNAオリガミを使って初めてウルフ多面体形状をした単結晶を実現したと報告しています。
DNAオリガミのウルフ多面体
まず、結晶の元になるDNAオリガミの形を見てみましょう。この研究では2種類のDNAオリガミが用意されました。
どちらも八面体の構造を持っており、その6つの頂点からはDNAの手が伸びています。
左のR-octaと呼ばれるDNAオリガミはこの6つの手が同じ種類のDNAとなっています。一方で右のE-octaと呼ばれるDNAオリガミは4つの同じ手と異なる2つの手が伸びておりその形も少し細長い八面体となっていますね。
このDNAオリガミの種類が後々の結晶の形に影響を与えます。これらのDNAオリガミは溶液の中で八面体のDNAオリガミ同士が手をつなぎ、結合して大きくなっていきます。
もともとのDNA折り紙の種類が異なることで、最終的に出来上がる結晶も立方体と直方体という異なる形になることがわかりますね。
続いて、実際に作製されたDNAオリガミのウルフ多面体単結晶を見てみましょう。
このように見ると、結晶の表面に特徴的な様子を見ることができます。
これは原子や分子の際にもみられる結晶表面の特徴的な構造です
また、研究グループはX線を用いて結晶構造解析も行いました。これは表面の観察からは見えてこない内部の構造をより詳細に確認するための手法になります。その結果からもきれいな結晶であることがわかりました。
加えて、改めて表面エネルギーの計算をしましたが、その計算結果からも当方的な正八面体のDNAオリガミ(R-octa)では立方体が最も安定な形であることを示しています。
最後に
今回はDNAオリガミを使ったウルフ多面体単結晶の研究について紹介しました。
正直、これが何の役に立つの?と言われるとすぐにデバイスになることはありませんが、このような形の整ったジャングルジムのような多孔質物質は様々な基礎研究に応用されます。
たとえば、ミクロな分子を吸収したり放出したりするスポンジ機能や表面積が広いことによる触媒作用などが思いつきます。
そして、そのような物理特性を調べるためにはまずは形の整った材料が必要なんです。なぜなら形がバラバラだと形状の違いによる影響が無視できないからです。そのため、多くの科学者は形の整った材料を欲します。
DNAオリガミの技術は今もなお発展し続けています。この技術がより早く一般に普及するためにも、きれいな形の結晶を生み出すことには価値があるといえるんですね。
参考文献
DNA origami single crystals with Wulff shapes
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