【超音波を使った空中浮遊】タンパク質結晶の構造を調べる新しい取り組み
実験といえば試験管やピンセットなどを使って手を動かして作業する姿を想像される方が多いと思います。
それではサンプルに触らずに実験するにはどうしたら良いでしょうか?そんなことできるの?とも感じると思いますが、今回はそんな触れずに実験する方法を考えた研究について紹介します。
超音波を使って空中に浮かせる
ものに触れずに動かすにはどうしたらよいでしょうか?パッと思いつくのは、磁石を使う方法です。
確かにそれも一つの案になりますが、今回紹介する論文では音を使います。
音というと耳で聞くものですよね。そんな身近な音ですが、大音響の映画館やコンサートに行くと爆発音や太鼓の音などの際に音圧を感じることがあるのではないでしょうか。
音というのは空気の振動です。私たちの耳が感じているのは周囲の空気の振動を感覚的に音として認識しているわけですね。
つまり、空気の振動である音も磁石ほどではないものの離れたところにある物体に触らずにして力を与えることができるということです。
それを応用したのが超音波を使って空中に浮かせるアコースティックレビテーションです。
結晶サンプルを触らずに調べる
この超音波を使って空中に浮遊させる技術はそれほど新しいものではなく、研究自体は進められているんですが、それでもまだまだ課題があります。
例えば、今回紹介る論文で扱われている脂質キュービック相に成長したタンパク質結晶などがその例だそうです。このタンパク質結晶のサンプルは医療や生命科学の発展に重要な膜タンパク質と呼ばれる物質を含んでいます。
研究者たちはどうしてもこのタンパク質のナノ構造が知りたいため、X線や中性子線を使います。X線を使った結晶構造解析はとても有名で、私たちの目で見える可視光線よりも波長の短いX線を使って分子構造を明らかにするということですね。
少々わかりにくいかもしれませんが、要はX線の目で見ると小さなものが見えるようになると思ってもらえればいいかと思います。以下の記事で簡単に紹介しています。
話は戻りますが、このX線を使った手法ではサンプリング技術が難しいという課題があります。ずいぶん改善はされてきましたが、これに超音波を使って浮遊させようとするとなかなか難しいのが現状のようです。
そこで研究グループではこのような現在調査が難しいタンパク質結晶でも、構造解析ができるようなX線回折装置としてアコースティック浮遊法回折計を作製しました。
中心のごつい装置で超音波を出して、サンプルを空中に固定するようですね。
この新しく開発された方法では薄いフィルムをサンプルホルダとして用意しています。つまりタンパク質結晶をサンプルホルダに設置して、その薄いフィルムのホルダを超音波で浮遊させるという方法です。
さらにX線回折実験ではいろんな方向からX線を当ててやる必要があります。そのため、サンプルを自由に回転できるようにしなければならないというわけですね。実際に研究の結果としては、サンプルホルダは10µm程度の位置ずれで10回以上の回転が制御可能であることが示されました。
研究者たちは、フィルムがうまく機能するかどうかをテストしました。フィルムは、異なる速度で回転させ、あまり動かないように一定の位置に保持できることがわかりました。また、音波は水滴よりもフィルムをよりよく持ち上げることができることも発見されました。
この手法の利点はたくさんあると思いますが、個人的にはバックグラウンドが弱くなるという点でしょうか。サンプルホルダのバックグラウンドはありますが、それでも効果的にはなるのかなと思います。
最後に
今回は、超音波を使ってタンパク質結晶を空中浮遊させてX線で構造を調べるという研究について紹介しました。
こんなもの私たちの生活に何の得があるんだ?と思われるかもしれませんが、今回紹介されていたようなタンパク質の構造解析は未来の医療はヘルスケア、生命科学の謎といった幅広い領域で重要なポイントとなってきます。
そしてこれらを調べるための方法論の確立というのも重要な科学の発展です。
今回、中身は難しいためさわりの部分のみの紹介となりましたが、もしよかったらオープンアクセスなので読んでみてはいかがでしょうか
参考文献
Acoustic levitation and rotation of thin films and their application for room temperature protein crystallography
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