結晶を生み出すバクテリア
世の中には結晶を生み出す生き物がたくさんいます。
そんなの身近にいないんじゃない?と思われるかもしれませんが、私たち人間も体内で歯や骨といった結晶でできていますし、貝殻なんかも結晶です。といった具合に、意外と身近な現象なんですね。
そうはいっても、その結晶成長の現象としては多種多様で、まだまだ分かっていないことがたくさんあります。
ということで、今回は生き物の中でも特に小さなバクテリアが作り出す結晶について紹介したいと思います。
バクテリアが作り出す結晶
バクテリアが作り出す結晶というと何やらおぞましいものでもできるのか?と思ってしまいますが、そんなことはありません。
今回研究対象となったバクテリアはHalorhabdus utahensisと呼ばれるもので、彼らが作り出す結晶はサンゴや貝殻が作り出す炭酸カルシウム結晶の一種です。
そう聞くと、大したことないのか…って思ってしまいそうですね
いやいや、そもそもどうやってバクテリアほどの小さな生き物が固い結晶をいともたやすく作ってしまうのでしょうか?それを説明できる人はそう多くないはずです。
この研究では、バクテリアに与えるイオン環境を変えることで、作り出す結晶の様子が異なることに着目しています。
具体的にはマグネシウムイオンとカルシウムイオンです。
特にカルシウムは生き物が作り出す結晶(バイオミネラル)と相性が良く、前述したように貝殻やサンゴの原料となります。
このバクテリアにマグネシウムイオンとカルシウムイオンの割合を変えて与えてみると面白いことが起こります。
まず、カルシウムイオンに対してマグネシウムイオン少なく与えた場合、最初から140日までずっとマグネシウムが豊富なカルサイトとアラゴナイトが得られました。
ここで登場するカルサイトとアラゴナイトというのはどちらも炭酸カルシウム結晶の名前です。違うのは構成原子の並び方、つまり結晶構造が異なります。
そしてマグネシウムイオンを少しだけ入れていることから、カルサイトの結晶の中にわずかにマグネシウムイオンが入り込んだ形になったようですね。
カルシウムイオンに対してマグネシウムイオンの量を少し増やすと最初の14日でマグネシウムが豊富なカルサイトとアラゴナイト、27日後にはアラゴナイトとモノハイドロカルサイト、140日後にはアラゴナイトとハイドロマグネサイトが得られたようです。
ここでも新しい言葉が出てきましたね…
モノハイドロカルサイトは炭酸カルシウム(カルサイト)に水分がくっついた物質、ハイドロマグネサイトは水分がくっついたマグネシウム由来の結晶です。
ここで少しややこしくなってきたので整理すると、マグネシウムイオンが少ししか入ってない場合は、炭酸カルシウムの中にマグネシウムイオンが入り込んでいる状態でしたが、マグネシウムイオンの量が増えると、時間とともにマグネシウムの存在感が強くなり、マグネシウム由来の結晶が出てくるということですね。
マグネシウムイオンの量をさらに増やすと14日でマグネシウムイオンが豊富なカルサイトとアラゴナイトとモノハイドロカルサイトが得られ、140日後にはモノハイドロカルサイトとハイドロマグネサイトが形成されました。
いったい何が起きているのか
こんな一見複雑な現象が起きているようですが、いったい何が起きているのでしょうか?
論文では次のように考察されています。
まずバクテリアは生命活動の中で、食べたタンパク質を分解してアンモニアや二酸化炭素を生成します。これらの物質は水中に放出され、環境のpHをに影響を与えます。pHというのは、酸とかアルカリといったやつですね。つまり、アンモニアを放出してアルカリ環境にするということです。
このアルカリ環境は炭酸カルシウムをはじめとした炭酸塩を作るのに必要な環境であるため、バクテリアが周りの環境を結晶化が促進されたといってもよさそうですね。
またこの実験では炭酸カルシウムの中で一般的に安定とされているカルサイトがあまり、得られずマグネシウムリッチなカルサイトやアラゴナイトといった結晶ができていました。
これはマグネシウムイオンの影響が大きいようで、このようにバクテリアが扱うイオンの種類によってもできる結晶の様子が異なるということがわかります。
最後に
今回は結晶を生み出すバクテリアについて記事を書いてみました。
まあバクテリアの紹介というよりは、あんなに小さなバクテリアがいかに結晶を生み出しているのかというところをとってもざっくりと紹介した感じになりましたね。より真面目な説明が知りたい方は是非、論文を読んでみてください。こちらオープンアクセスなので誰でも読めるようになってます。
参考文献
Mineralogy of Bioprecipitate Evolution over Induction Times Mediated by Halophilic Bacteria under Various Mg/Ca Molar Ratios
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