見出し画像

結晶小噺~高校化学で習う結晶構造について~

みなさんは結晶というと化学というイメージが強いと思います。

私の専門は結晶なんですが、結晶やってるというと化学?っていわれることが多々あります。これは高校化学で結晶を習うからなんでしょうか?

ちょっとわかりませんが、自分は化学全然できなくて大学に入ったのでどちらかといわれれば物理屋の方が近いです。

そんなことは置いておいて、今回は高校化学で習う結晶構造について、高校でうやむやにされるところを紹介したいと思います。

大学で固体材料を習った人なら常識なんですが、自分が高校の時は知らなかったな~という内容をまとめました。


はじめに

今回話題にする結晶というのは基本的に原子が規則的に並んだもののことを言います。

おそらく、基本的なことは高校の化学でも習うんですが、なんか暗記しなさいみたいな風潮があったなあ~と感じます。

まあ網羅的に学ばせようと思ったらそうなるのも仕方ないんですが、それでは疑問がいろいろと解消されないわけです。


単純立方格子

一番簡単な結晶構造ですね。立方体の各頂点に原子が配置しているやつです。

画像2

wikipediaより引用[1]

ただ、この図のような単純立方格子は普段の実験では滅多に出てきません。というのも、この単純立方格子を持つ結晶は自然界ではポロニウムぐらいしかありません。

しかしこのポロニウム、放射性物質で数年前ロシアで暗殺に使われたとか噂がありましたが、基本的に政府とか軍とかの厳重区間に保管されているので私たちが見かけることはまずないんですよね

そうすると単純立方格子なんて習わなくてもよくねと思ってしまうのですが、結晶成長の分野ではコッセル結晶という仮想の結晶を想定することが多々あります。

コッセル結晶のイラスト

画像3

参考文献[2]より引用

これは何か特定の結晶を想定しているわけではなくて、最も簡単な結晶を考えたときにわかりやすいので使います。

具体的には立方体の積み木を積み重ねて結晶を作るのですが、この時、面同士が隣り合い(これが結合手に相当する)、かつ3次元的に敷き詰めることができるので、簡単に考えるときに重宝します。

私のような凡人の頭で考えるのは立方体が限界ってことですね。

体心立方格子

たぶん一番有名な結晶構造の1つです。body-centered cubicと呼ばれBCCと表記されます。

私は自分の研究で数えきれないほど見ていますが、自然界では単一原子で構成される金属の一部がこの構造となります。ナトリウムや一部の鉄などが挙げられます。

画像1

wikipediaより引用[1]

立方体の各頂点と中心(体心)位置に原子が配置されている構造ですね。

CsCl構造

ちょっと飛んで、CsCl型構造についてちょっと踏み込んでみてみたいと思います。というのも、この記事書いたのもこれを書きたかったからなんですよ!

画像5

この赤玉と青玉が異なる原子でできているものがCsCl構造です。

CsCl構造って体心立方じゃないのか?

これ、多くの高校生が疑問に思ったのではないでしょうか?私はなんか気持ち悪いなと思ってましたが、結局高校には答えはありませんでした。

だいたい高校生が教わるのは2種類の原子が入っているから(原子半径)違うよねって話だと思います。

でも、そうだとしたら○○構造みたいなものが無限に存在して分類するどころじゃなくなるんじゃないか?と疑問に思うわけですよ

真面目に考えたら無限ってことはないかもしれませんが、それにしても無数にあるよな~と思うんですよね。

それで、結局結論どうなの?ってことなんですが、CsCl構造は単純立方格子の仲間の1つです。

体心立方じゃなくて単純立方?
単純立方には見えないけど!と思いますよね

これには結晶構造の基本的な考え方が関係してきます。

結晶構造は格子基本構造の組み合わせでできています。

CsCl構造が単純立方格子の仲間というのは、前者の格子が単純立方格子であるという意味です。

この時、基本構造というのはCs-Clのダンベルを意味しています。このCs-Clのダンベルを単純立方格子の上に向きをそろえて並べていくとCsCl構造になります。

画像4

ここでは赤玉を黒点(格子点)の上に配置しましたが、基準はどこにとっても大丈夫です。

こう見ると立方体の頂点に赤玉が、中心(体心)位置に青玉がある様子がわかります。これがCsCl構造です、格子は単純立方ですね。

きちんとした進学校とかでは、こういうことまできちんと習うのかな?と思ってしまいますが、自分がいた高校ではこんな話は聞いた覚えがありませんね。

とはいえ、結晶構造は?と聞かれると基本構造の情報も込みなのでCsCl構造と答えた方が良さそうです。それでも、このような関係性があることを教えてほしかったなと思います。

ちなみにCsCl型というのはB2という分類でも表されるので、個人的にはこっちの方がそれっぽいなという気がします(が、わかりにくいので滅多に使いませんね)

結局使っている側からするとCsCl型構造に落ち着いてしまいます。実際に研究してみて、ああ、そういうことかと思いました。CsCl型の方が断然楽なんですよね


最後に

高校化学で習う結晶構造って原子半径を求めよ、みたいな問題が多くてうんざりするんですが、本当はもっと奥が深くて面白い点がたくさんあります。

高校化学で習う結晶構造は他にも面心立方格子や六方最密構造、NaCl型といったところが有名ですが、ちょっと今回のテーマから外れるので割愛しました。こっちのグループも面白いのでまた気が向いたら書いてみたいと思います。


[1]https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%90%E6%99%B6%E6%A7%8B%E9%80%A0

[2] http://www.slab.phys.nagoya-u.ac.jp/uwaha/busseiwakate08.pdf


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?