聞き流し英語がまったくインプットにはならない理由【第二言語習得論】
私の記憶を辿る限り、英語に限らず他の科目の授業においても「教科書を読む」「文章の音読を10回する」「ノートを綺麗に取る」ことが目標になり、実際に学んだ知識を何らかの形で発表する、異なるフレームにその授業で学んだ知識を応用してみる、授業で新しく学んだ英単語を使ってその日の出来事を表現してみる、などアウトプットらしいことをする機会が少なかったことを覚えています。
ここ十数年で、「大人のやり直し英会話」が流行っており、高額な英会話スクールや、高額な英会話聞き流し教材が出回っていたことをかすかに覚えています。「毎日5分聞くだけで英語がペラペラになる」と、当時は話題になりました。
重要単語・文法・発音を理解していない
まずひとつめの理由としては、「重要単語・文法・発音を理解していない」ことです。
大人のやり直し英会話は、残念ながら子ども向けの言語習得方法とはまったく異なる英語学習方法が必要だと思っています。
幼少期から本物の英語を聞きながら育つ子どもは、その英語が使われる環境にいます。ある英語フレーズがどのような状況で、どのような心境で使われるのかをインプットしています。
しかし、我々のように大人になって英会話のやり直し勉強に取り組む者にとって、英語を学習する場所は英会話スクールであったり、通勤時の電車の中であったりと、無機質な場所が多いイメージがあります。何せ、特に日本人は間違えることに抵抗があり、「まずはひとりで基礎を学ぼう!基礎ができるようになって英会話が少しできるようになったら英会話スクールに通ってみよう」と、母語である日本語をベースに英語の概念を学んでいきます。
ちなみに英語と日本語の言語体系はまったく異なります。文化的にも地理的にも歴史的にもまったく異なる2カ国ですからごく自然なことだと思います。
例えば、日本語では「仕事の後に家でゆっくりする」と言います。英語で同じようなことを言うにはどうすればよいでしょうか?
英語では、"I relax at home after work "の他にも" I take a break at home after work." "I unwind at home at home after work."などということができます。
どのようにしたら英語でのフレーズが言えるようになるのでしょうか?
まず、英語では「主語+述語+副詞句」の順番で文章が組み立てられていること(文法)、単語の意味(take a break とは?takeの単語イメージとは?breakのイメージとは?unwindも意味は?)、どのように発音したらネイティブスピーカーに通じるのか?(リラックスで通じるのか?workはワークで通じるのか?unwindはどのように発音するのか?)を意識して理解すると、きちんと意味を理解した上で、英語を使えるようになりそうです。
一方、日本語は、主語が省略されている。(日本人からしたら英語ではいちいち主語を言わなければいけない)、語順が違う(私は/ゆっくりする/後で/仕事の)という英語との違いがあります。
こんなに言語の使い方の異なる決まりがあるにも関わらず、聞くだけで英語ができるようになる、というのは本当なのでしょうか?少なくとも私にはとても難しく感じてしまいます。
「毎日5分聞くだけで英語がペラペラになる」というフレーズを思い返してみると、そのようなサービスに20万円ほども支払い挫折してきた成人の英語学習者の方々に申し訳なさを感じます。おそらく、英語学習の基礎や、教材の正しい使い方(聞き流しをした後にする自主学習など)ができていなかったのかと思います。
「聞き流し」を軸として自社のサービスを推していた印象が強いスピードラーニングですが、2021年にサービス提供を終了しています。
ある記事では、スピードラーニングの創設者のインタビューが記載されていました。
もともと、インプットの部分に焦点を当てて展開されていたようです。「聞く→話す」ところまでをカバーする教材内容と伺えます。
おそらく、この教材で挫折した人々は、毎日聞くことはできても、自ら話すところまでできなかった方々なのかな?と想像できます。そこができないから、英語が話せるようにならないのだと思います。
しかし、単語の意味や文法を気にしないでも言語を習得できるのは子どもくらいかと思います。すでに日本語を母語として話している大人に、単語の意味を気にせずただ聞いてください、と言っても何を言っているかわからずに終わりますし、英文の後に日本語を聞いても、日本語の方に意識が入ってしまい、英語のキモである単語、文法、発音を知らずに左から右に英語が通り過ぎていってしまうだけではないでしょうか。
私の愛読書のひとつである、第二言語習得論入門では以下のように言及されています。
もちろん、人によって視覚的学習が効果のある人、聴覚的学習の方が効果のある人もおり、人によって適切な学習方法は異なりますが、少なくとも聞くだけでは英語が話せるようになるとは思えません。
インプット内容が左から右へ流れているだけ
英語を聞き流しすだけで、「今日は30分も英語を勉強したぞ」と満足をすることはありませんか?英語初心者の時の私のことを言っているようですが、これは何の糧にもなりませんでした。
私が新卒の時は、英会話スクールに行けるような経済的な余裕もなかったので、本屋でNHK語学の冊子を買って、NHKの語学アプリをインストールして朝の通勤時間に聞いていました。通勤時の電車はとても混んでおり、冊子を開く余裕はなかったので聞くだけです。
アプリの音源を聴いた私は、「あ〜朝の30分も勉強した。自分すごい」と異常なポジティブ思考で英語学習者と名乗っていました。
しかし、聴いただけでは何も学ぶことはできません。
聴いた会話の中の重要単語、重要構文、重要文法なども無視して、音読もせず、シャドーイングもせず終わっていたのですから、ただ左から右へと聞き流していただけです。
自分とまったく関係のないシチュエーションで起こっている会話は、音楽を聴くよりも印象に残りません。
例えば、下記の英語のニュース動画の英語を聞いてみましょう。こちらは私のお気に入りのアメリカ公共放送ニュースのPBS News Hour です。
アナウンサーの英語なのでとても洗練されていて綺麗な発音です。
参照:https://www.pbs.org/newshour/show/biden-administration-vows-to-crack-down-on-companies-exploiting-child-labor
インタビューに回答している女性は何を言っているのか分かりますか?
アメリカ人同士の会話なので、もちろん速いです。
単語動詞がつながっており、いくつか聞き取りにくい単語もあります。
しかし、よく聞いてみると中学で習ったような単語が多く使われています。
そのような単語の意味、発音、文法的観点からどのように使われるのか理解していますか?
これは聞き流しているだけでは、英語を理解して、自分の口から話せるようになるまでにはかなりの時間がかかりそうですよね。
英語ができるようになるというのは、例えばこのニュースであれば彼女が言及している問題の背景であったり、その問題における彼女の見解であったりを理解しつつ、それに対する自分の意見を英語でも表明できるところまでではないかと考えています。
ただ単に、架空の人物同士の会話を聞き流しているだけでは、英語で何をすることもできないのではないでしょうか?
そもそも、インプットとは何なのでしょうか?
「英語教師のための第二言語習得論入門 (白井 恭弘) 」のよると、クラシェンのインプット仮説を例にとって説明されています。
インプットとは「聞くこと、読むこと」だということが分かりました。
では、先ほどもリンクを貼ったPBS Newshourの音声ですが、この女性のインタビュー動画を聞いて何を言っているのかおおよそ検討はつくかどうか、そしてわからなかった場合はスクリプトを読んでわかるかどうか、分からなかったらその単語の意味や発音を確認する、という作業がインプット作業になるということです。
「聞き流し」というのは、文字通り下記のインタビュー動画(全体の一部ですが)を聞くだけ、となります。「英語を聞く」行為で満足して終わるため、単語・発音・文法の重要ポイントなど意識することなく終わってしまいます。
何も得ることがない0の状態を毎日続けてても、0×0=0の状態にしかなりません。
では、「読み」をしてみます。
PBS Newshourはほとんどの英文ニュース記事にスクリプトがついています。
すべて無料で見ることができますので、ノートメモなどにコピペをして、意味が分からない箇所を太文字にして日本語訳を書き込むなどをして、自分なりに学習を進めることができます。
以下は、スクリプトです。
上記のスクリプトから学べるのは、下記のような内容です。
「英語のフィラー」として " I mean, "が使われている
started this reporting は start ~ ing の形で人が主語の時に用いられ、始めたその行為が今もまだ続いていることを意味する
featureというのは、「話題などを取り上げる」という意味
would be … というのは想像していた結果について言及する時に使う
I was shocked… は、英語では人の感情は周りの環境に動かされる概念があり、「私はショックを受けさせられた」と受動態で表現する etc…
この短い文章の中でも、上記のような文法ルールを理解しているだけでも理解力が深まるということがわかります。
英語学習初心者、初中級者は、上記の内容を自分で調べていき理解していくのはとても時間がかかり難しいと思うので、英語コーチ、または英語メンターを雇うのが効率的です。
ここまでがリーディングであり、インプットになります。
果たしてここまでのインプットを、聞き流し英語を強みとして推している教材で、英語学習者自身でできるのかは不明ですが、上記の解説なしにただ聞き流して英語ができるようになる、というのは、単語・文法・発音知識を他の方法で学んでいるおり基礎力が備わっている人、また聞き流し教材の解説をしっかりと何かしらの方法で受講しインプットをしている人くらいなのだと個人的には思います。
アウトプットをしていない
聞き流し英語がまったくインプットにはならない理由の最後の理由は、「アウトプットをしていない」です。
「英語教師のための第二言語習得論入門 (白井 恭弘) 」では「自動化理論」という言葉が使われています。
自動化理論というのは、私の理解だと、学習内容を反復練習して自然な表現でを自動的に使えるようになる、ということです。
例えば、学生でも社会人でも、参考書を使用するさいには重要事項ごとに章が分かれており、そのページを開くといちばん右上にそのページで学ぶべきテーマの詳細が説明されています。
英語学習者界隈で有名な、英語を英語で学べる文法書 " English Grammar in Use" を例に取ります。
この教材では、見開き1ページで1テーマを学べるようになっており、左側に文法の説明、右側で演習問題を解けるような構造になっています。
上記は、現在完了形と過去形の違いを文法的観点から説明しています。
" He has lost his key. " は、彼が鍵を見つけることができず、現在鍵を持っていない状態である。と説明があります。
しかしその後に、" He has found his key."の文章があり、それは、" He lost his key." " But he has it now." という説明があります。
この説明で、「鍵を無くしてしまった」「鍵を見つけた。」「鍵を無くした。」とシチュエーションごとに現在完了形と過去形の使用ルールを学ぶことができます。
そして、右の演習問題では左のページで学んだ知識を用いて、実際に使えるかどうかを試すことができます。これが、アウトプットです。
また、英会話をしていて同じようなシチュエーションについて英語で説明するときに、その左のページで学んだ現在完了形と過去形を使い分けられるかを試すのもアウトプットです。
練習していくうちに、だんだん現在完了形と過去形の違いが明確になり、自分が説明したいシチュエーションに対しても自動的に文法ルールを適用できる、それが自動化理論、なのではないでしょうか?
日本人の英語学習者は、難しいところばかりをインプットして勉強した気になってしまうことも多く、基礎知識の第五文型をおざなりにしてしまうこともあるため、簡単な文章さえもいうことができない人が多くいます。
I feel relaxed.
It was day off.
I had a day off today.
It makes me happy.
It became difficult.
I found it interesting.
など、自分の感想を簡単な言い回しでいうのにもつまずいてしまいます。
なぜでしょうか?
中学生用の単語帳でも十分に学べるのに、難しいレベルの単語帳を買って難しい表現ばかりを覚えて、英会話で必要な雑談で使うような簡単な単語や言い回しを知らない、練習していない、ということが原因だと個人的には思っています。
日本人英語学習者は、学校や会社などで多量のインプットをしますが、アウトプットの仕方を学びません。そのため、社会人になった英語学習者がどのように英会話を練習して良いか分からず、とりあえず都内のミートアップに参加したはいいものも、何を言えばいいか分からず、中途半端に英会話をして満足できないまま帰宅するのです。(それで満足すれば別の話ですが)
上記の例えは、10年前の私ですが…。
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