小説文の書き方・3つの叙述法とテンポ、緩急のつけ方、そして描写の上達法
魅力的なプロットやキャラだけでは小説は書けません。なぜなら、実際に文章の形に落とし込まなければ「小説」にならないからです。今回は、小説の文章の書き方とコツについて、説明していきます。
小説の3つの叙述方法
上記によると、小説の文章は「描写・場面・説明」の3つから構成されています。描写は「スローモーションやストップモーション」、場面は「等速再生」、説明は「倍速再生やカット編集」に該当します。当然、物語内での時間経過は「説明<場面<描写」の順で遅くなります。
しかしスローにした分、文章量や文字数を増やせるため、状況を詳細に描けるようになります。言うなれば、描写は「クローズアップ」なのです。逆に説明は、詳細は省略・簡略化された「ロングショット」に当たります。
テンポのいい文章の書き方
文章のテンポがいいかは、2つの基準があります。
1つは「一文の文字数が少ない」ことです。「。」のような句読点による区切り目の多い分の方が、テンポがよくなります。なぜなら、短い方が一文における意味が複雑になりづらいからです。前後の文脈にもよりますが、読みやすい文章の方がテンポがよくなります。
もう1つは「説明や場面を中心にして、叙述されている」ことです。先に述べた通り、「描写」は「スローモーションやストップモーション」に該当します。その分、物語内の時間経過が遅くなるため、テンポは必然的に悪くなります。
ただ、テンポが遅いことが必ずしも悪いわけではありません。動画編集の世界では、テンポの速い映像ほど「情動」を、テンポが遅い映像ほど「思考と想像」を喚起すると言われています。ですから「情動」か「思考と想像」かの、どちらを重視して叙述をするかという、「リズムメイク」こそが叙述において重要となってくるのです。
参考資料
緩急のつけ方
小説におけるテンポの定義が分かれば、緩急のつけ方も分かります。つまり、「描写」を中心としたり長い文で書いたりすれば「緩」、「説明と場面」を中心として短い文で書けば「急」になるということです。
さらに重要なのが、この「緩」と「急」を交互に入れることです。これを、次の記事では「ビートとフック」という言葉で説明しています。
「ビート」とは「規則的変化」、「フック」とは「不規則的変化」のことを指します。テンポが速い方と遅い方の、どちらを基準である「ビート」にしても構いません。しかし時折、逆の方を「フック」として織り交ぜることが「緩急」を作るうえで重要となってきます。
「ビートとフック」の切り替えは、動画編集の世界では「ショット(カットとも呼ばれる)」の集まりである「シーン」によって考えることになります。それを小説に落とし込むと「段落」という概念に結びつきます。
パラグラフ(段落)ライティングのすすめ
「パラグラフ・ライティング」とは、論理的文章を書く上で推奨される方法論です。これは「一つのパラグラフ(=段落)には、一つのアイデアや話題だけを書こう」というものです(※1)。
小説文に当てはめると、1段落を1つのシーンと考えることができます。同時に、1つの文が1つのショットとも言えますね。すると、1段落における文の長さや時間経過の平均が全体のテンポを決め、さらに前後の段階との差によって「緩急」が決まるということが分かります。
小説文では段落を変える以外にも、シーンを区切る方法があります。それは「セリフ」を挟むことです。特にラノベやネット小説だと、あまりに地の文が続くと、目が滑って読みにくくなるので、適度にセリフの塊を入れた方がいいでしょう。これは逆のことも言えて、あまりにセリフばかりが続いても、小説ではなく台本を読んでいるような気分になるので、(ジャンルにもよりますが)適度に地の文を挟んだ方がいいです。
私の感覚だと、地の文やセリフが連続して5行以上になるようなら、逆の方を挟むようにしています。くわえて、1行ごとに地の文とセリフが切り替わるのも避けています。理由は、ネット小説だとセリフと地の文の間に改行を挟む形式なので、全体的に空白が空きすぎるからです。この辺りは、推敲するときに(内容ではなく)文字の塊の見た目で判断し、加筆修正しています。
1つの段落あるいはセリフの塊の間で、「①どの叙述法を中心に、②どれくらいの文章の長さで、③何を書くか」。これが叙述において重要になってくるでしょう。ちなみに私は、執筆時は③の内容を重視して①~②を考えることはあまりありません。代わりに推敲時にチェックして、①~②のバランス調整をするようにしています。まずは書き上げることが肝要ですからね。
(※1) 論理的文章の書き方なら、さらに「段落の先頭にその段落の内容を要約したものを書こう」というのも続くのですが、小説文では考えなくてもいいです。
描写の強み
キャラを書ければ「場面」は描けます。しかし、小説の醍醐味は「描写」にこそあります。なぜなら、描写には、言語を用いた「感覚の共有」という他の表現法にない固有の強みがあるからです。たしかに小説は、映像や音楽と異なり全てを文字情報で伝える必要があります。だからこそ、映像や音楽では伝えられない「体性感覚と内受容感覚」を体験するコンテンツとしては唯一無二の強みを持っています。
体性感覚とは、触覚を代表とした、温度感覚、痛覚の皮膚感覚と、筋や腱、関節などに起こる深部感覚を総称したものです。つまり、柔らかいとか熱い、痛い、かゆい、落下してフワッとするなどの感覚が含まれます。
内受容感覚とは、人間の内臓から発せられる情報を知覚する感覚で、これにより人間は感情や情動を認識しています。「腸(はらわた)が煮えくり返る」とか、緊張して「胃が痛くなる」という表現がありますね?これが、内受容感覚の表われです。ある人物から得られる「印象」などもこれに含まれるでしょう。
さて、描写する際に最も頻繁に用いられる方法が「比喩」表現です。そして、もしこれを上達させたいなら、「コンセプト」、平たく言うなら「単語」そのものの扱い方が上手くなる必要があるでしょう。
コンセプトのデザイン空間
コンセプトは、「広い・狭い」と「近い・遠い」という「範囲と距離」から成る固有の空間を持っています。
コンセプトの広さは「包含している連想語の多さ」から決まります。例えば、「チューリップ」よりも「花」、「花」よりも「植物」の方がより「広い」コンセプトです。狭いコンセプトを「モチーフ」、広いコンセプトを「テーマ」と呼びます。モチーフの方が具象的、テーマの方が抽象的とも言えます。
コンセプトの近さは「関連している連想語の共通度」から決まります。例えば、「みかんとりんご」の方が、「みかんと窒素」より感覚的に「近い」関係になります。なぜなら「みかんとりんご」は、同じ「果物」という共通点を持つからです。
小説では、主題となる「コンセプトそのものの単語」を使う代わりに、そのコンセプトの連想語からできたクラスタ(かたまり)を用いた「間接描写」によって、描写を進めていきます。下記の記事では、そのまとまりを「メンタル・レキシコン(頭の中の語彙目録)」と呼んでいます。
つまり、これを上手く作れることが、描写の上達に直結するのです。
KJ法
「メンタル・レキシコン」を上手く作る方法が「KJ法」です。やはり読書猿さんは神(敬愛)
手順は次のようになっています。
私の場合、図の見やすさを考慮して「5」のリンクの名称は省略していることがほとんどです。が、関係性の分類として使い勝手が良さそうなものを、次のように分類しています。
図のレギュレーション
さらに、KJ法を用いてできた「メンタル・レキシコン」を図示するときに私は次のルールを課しています。
これらは、図の見やすさと、意味が複雑になりすぎないようにするために、導入しています。
メンタル・レキシコンの具体例
ということで、「海」をテーマとした、メンタル・レキシコンを図にしました。
図は、自分なりに見やすく書ければオッケーです。大量の単語を扱うため、かなり大変ですが確実に実力がつき、さらに使い回しができるので、作るほどに執筆速度が上がりますよ。
キャラ描写とメンタルレキシコン法
キャラ描写を向上させるためにも、これは使えます。方法は、キャラのシンボルとなるような「コンセプト」の連想語を各シーンで比喩として入れていけばいいのです。そうすれば、そのキャラらしい雰囲気を伝えることができます。
例えるなら、鬼滅の刃では、「○○の呼吸」をして刀を振るったとき、本当は火も水も出ていないけれど、そういうエフェクトが出ているように見えるという設定があります。それと同じです。
ここで注意してほしいのは、キャラの書き方編でも述べましたがキャラ被りを避けることです。例えば、「火」と「マグマ」と「太陽」という似たコンセプトを持つ3キャラがいるとしましょう。どれも、熱くて明るそうなので、そのまま書けば誰のことを述べているか分かりません。
そこで、「火とマグマ」なら、「軽い⇔重い」とか、「火と太陽」なら「煙のようにゆらゆら曲がりくねる⇔光のように真っすぐ」という風に、連想語が重複しないものを中心に使っていく必要があります。
おわりに
皆さんが小説を書く上で使えそうなものはありましたでしょうか?これを使って、ぜひ小説家デビューをして、マイナージャンルの希望の星になってください。よろしければ、スキを押していただければ幸いです。
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