見出し画像

共同体感覚と社会的アイデンティティ

共同体感覚はアドラー心理学の用語です。ここに、少し珍しい視点である社会心理学を組み合わせて、新しい知識を創出することがこのコラムの目的です。まずは、登場する用語の定義をおさらいしましょう。

共同体感覚とは?

共同体感覚とは、自分が所属している集団(=仲間)に対する感覚です。それは、自分は仲間たちの一員だという所属感や、共感的で情緒的な一体感を伴っています。共同体感覚は、次の3つの構成要素から成り立っています。

・他者信頼:仲間は私を援助してくれる
・自己信頼:私は仲間に貢献できる
・所属感 :私は仲間の中に居場所がある

これに対するのが、私的理論(プライベート・ロジック)です。私的論理とは、自分の利益を第一とする考え方です。アドラーは、私的理論よりも共同体感覚の方が優れているとしました。なぜならば、自分の利益を満たしたとしても、他者(共同体)にとっては意味がないからです。

そのため、アドラーは、私的理論に基づいて承認欲求を持つよりも、共同体感覚に基づいて貢献欲求を持つ方が、幸福でいられると考えているのです。

彼らが自らの目標を達したときに、彼ら以外の誰も利益を受けないし、彼らの関心はただ彼ら自身にしか及ばないのである。彼が成功しようと努力するその目標は、虚構の個人的優越にすぎず、彼らの勝利は彼ら自身にとってだけ何か意味あるものにすぎない。

A.アドラー著 人生の意味の心理学

共同体感覚の未熟な人は、所属に問題を抱えやすく、不幸な人生を送ることになりやすいことになると、アドラーは述べています。

社会的アイデンティティとは?

上記のコラムに詳しく述べてありますが、アイデンティティとは、「自分はこういう人間だ」というイメージのことです。社会的アイデンティティは、仲間そうでない人たちを比べることによって認識されるアイデンティティのことです。この比較を、集団比較と呼びます。社会的アイデンティティは、仲間と仲間でない人たちの比較に基づいた相違点だけでなく、仲間同士の類似点にによっても表わされます。

これに対して、個人的アイデンティティは、自分仲間を比べることによって認識されるアイデンティティを指します。この比較は集団比較です。集団比較によって、かえって仲間同士の類似性や結束は強まります。なぜなら、集団比較をすることによって、相対的に集団比較が弱まるからです。つまり、敵の敵は味方になりやすいことを示しています。

人が社会的アイデンティティを持つようになることを、脱個人化と呼びます。脱個人化した人は、内集団同一視します。すなわち、自分と仲間たちを同じ存在とみなし、同じであることを期待します。価値観やふるまい、ルールを自分と同じように仲間たちもしてくれるはずだと考えるのです。

アドラー心理学×社会心理学

以上の定義の類似点を結びつけると、次のようになります。

共同体感覚 ≒ 社会的アイデンティティ
私的理論  ≒ 個人的アイデンティティ

とすると、社会的アイデンティティを持つ人は、自分は仲間たちの一員だという所属感だけでなく、共感的で情緒的な一体感を持つことになります。これはもっともな話です。なぜなら、彼らは、内集団同一視によって、仲間と自分が同じである、つまり一体だと考えるからです。

アドラーは私的理論よりも共同体感覚を持つことを推奨していました。ということは、個人的アイデンティティよりも、社会的アイデンティティを持つ方が望ましいということが、彼の論から分かります。

更に、脱個人化(=社会的アイデンティティを獲得)する方法には、相違点や類似点を見つけるだけでなく、共同体感覚の3つの構成要素(他者信頼、自己信頼、所属感)もありえるのです。

一方で、集団内比較が個人的なもので、共同体感覚を弱めることも分かります。ここから、社会的アイデンティティよりも個人的アイデンティティを強く持つ人は、所属に問題を抱えやすく、不幸な人生を送ることになりやすいと言えます。言い換えると、自分を特別だと感じる人は、仲間に恵まれにくくなるということです。なぜなら、個人的アイデンティティは、自分と仲間と違うことを強調するため、彼らとの一体感を得にくくなるからです。

まとめ

共同体感覚と社会的アイデンティティはほぼ同じものを示しています。これらはどちらも、自分を仲間の一員とみなすものです。社会的アイデンティティを獲得することを脱個人化と呼びます。脱個人化は、次の5つの方法で生じます。

・集団間比較:自分の仲間とそうでない人たちはこんな違いがある
・集団内類似性:自分と仲間はこんなに似ている・同じだ
・他者信頼:仲間は私を援助してくれる
・自己信頼:私は仲間に貢献できる
・所属感:私は仲間の中に居場所がある

共同体感覚と社会的アイデンティティの反対にあたるのは、私的理論と個人的アイデンティティです。これらを強く持つ人は、共同体感覚や社会的アイデンティティを持ちにくくなります。そのため、所属に問題を抱えやすくなります。

アドラーは、私的理論よりも共同体感覚を持つ方が優れていて幸福になれると考えています。だから、個人的アイデンティティを持つよりも社会的アイデンティティを持つ方が、より良いのです。

おわりに

新しい視点はカンタンには見つかりません。けれど、既知の知識を組み合わせることによって、そこにたどり着きやすくなります。今回は、その思考実験を兼ねてコラムを書きました。新しい関係性を見つけるのって、とってもワクワクするんです。

よろしければ、スキを押していただけましたら幸いです。

いいなと思ったら応援しよう!