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Art|アートと文化財の間に何があるのか?

国立西洋美術館の常設展、行かれたことありますでしょうか? 日本にとって異文化である西洋絵画を中世から近現代まで網羅的にコレクションした館蔵品が、本当に常設されています。

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現在は、2022年春にむけて、館内施設整備のため全館休館しているので、今は常設展が見られないので残念なんですが、新しくなったらぜひ行ってみてください。

西洋国立博物館のコレクションの多くは、松方幸次郎という大正から昭和にかけての実業家が、私設の西洋美術館を開設するために実際にヨーロッパに渡って買い付けた作品がもとになっています。

このコレクションは、第一次世界大戦中にヨーロッパの各地に取り残されてしまいます。

ロンドンの倉庫にあった作品群が1939(昭和14)年の火災で失われるなで、ある一部しか日本に帰ってきませんでした。また、パリに残された約400点の作品は、第二次大戦の末期にフランスの敵国人財産として没収され、後にフランスの国有財産にまでなってしまいます。

戦後になってようやくフランス政府が日本に寄贈返還することを決定。このコレクションを受け入れ先の美術館として、1959年に国立西洋美術館が誕生したという経緯があります。国立西洋美術館の常設展の作品タイトルに「松方コレクション」と表記されているのがこのコレクション群になります。

そのコレクションに2017年に収蔵されたのがクロード・モネの《睡蓮、柳の反映》です。

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クロード・モネ《睡蓮、柳の反映
1916年 国立西洋美術館

この作品は、2016年9月にパリのルーヴル美術館で発見されたもの。松方が直接モネから購入した「睡蓮」シリーズの1つで、それまで長らく所在不明でした。

え、印象派のモネって、未完成であるようなコンテンポラリーな作品を残していたの?」と驚かれる人もいるかもしれません。これは、作品が保管されていたルーヴルの倉庫での保管状態が悪かったため。水に浸かってしまって、上部が欠損してしまったのです。

この作品は、欠損前の白黒写真が残されていて、それをもとにモネが描いた当時のように復元することもできます。しかし国立西洋美術館は、歴史的資料としての価値を重視して、作品を修復したり、欠損部分を付け足すことはせず、現状を維持で展示をすることを決めました。

完成品をどこで決めるか」という議論は必ずあるのですが、今回はモネが自らの意思で松方に売却したという経緯を考えると、この作品をモネ自身は完成作とみなしていた可能性がかなり高いです。

画家の完成作品を展示することが前提の美術館で、完成品とは決していえな作品が展示されることは、美術館として果たして適正な行為なのか、というのはとても議論の的になりそうです。いっそのこと、東京国立博物館の方が適切なのではないかとすら思います。

しかし、この作品を国立の美術館で作品タイトルをつけて展示をしたことは、「美術館が展示するもの」の枠を拡張した、画期的なもののように思います。

美術館の存在意義をどうアップデートしていくか

しかしながら、一方で西洋絵画は、画家の手を離れた後に、後の画家が補修で手を加えたりすることもあります。現在の美術作品の修復の主流としては、できるだけ制作当時のままを留める努力をすることのようですので、調査の結果過度の補作部分を元に戻すこともあります。

実際、「作品当時の姿」というのは、画家が完成させた直後から失われていくものでもあるので(絵の具は劣化するので、永遠に今の状態を保つことはできない)、僕たちが見ているものと画家が見ているものはもともと違うものではあります。

そう思うと、画家と何百年後の私たちとの間に流れている時間が絵によって証明されているというのは、ロマンチックではあります。

ともかく、このモネの《睡蓮、柳の反映》によって、絵画と文化財の区別が非常にあいまいになったことは事実で、作品そのものの美術的価値だけでなく、それにまつわるストーリー自体をも美術館が収蔵しようとしていることがとても興味深く僕は感じています。

バンクシーの雑誌の特集をしたときに、東京藝大の毛利嘉孝先生が「ストリートアートを今の美術館は展示することができない。そう考えると、現代アートのフォーマットに美術館自体が合っていないと言わざるを得ない」ということをお聞きしていたこともあって、《睡蓮、柳の反映》の収蔵が、現代絵画を美術館が許容することに繋がるかどうかはわからないですが、少なくとも、その枠組み自体を自分たちで問うている姿勢を感じることができました。

今後、美術館はその存在意義をどうアップデートしていくのか。注目してききたいと思います。

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