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ゲームが教えてくれた"ASDの人生が上手くいかないのは「焦り」のせいかもしれない"ということ


令和の世は空前の発達障害ブームである。発達障害者の「生きづらさ」について様々な要因が世間では指摘されているが、私が当事者として思うのは「焦り」こそが発達障害者を蝕む根源なのではないかと言うことだ。

私はASD寄りなので解釈が偏ってしまうのは申し訳ないのだが、私の場合はとにかく慌てやすい。私も含めてASD傾向のある人は想定外の事態に滅法弱い。何か予想しなかった事が起きるとどうしていいか分からなくなってしまうのである。

ASDの人間はどちらかと言えば一つの物事にじっくりと取り組む事を好む傾向にあるが、実際の人生はそう悠長な事ばかりではない。仕事にしろ家事にしろ遊びにしろ、我々の直面する殆どの行為は同時並行で臨機応変な対応を求められる物が多い。そのため、多くの発達障害者はこれらのどこかのイベントで自身の不適応を自覚することになる。

自分の行動を振り返っても他のASDを見ていても、ASDの人間にはとにかくこの「臨機応変」というのがとてもハードルが高い。自分の脳内で想定していたルートと違った想定外の事態が発生してしまうと途端に慌てふためき、恐慌状態になってしまう。こうした慌てやすさとそれに伴う失敗の多さは、発達障害者の特性とされる自己肯定感の低さとも密接に絡んでいるだろう。

こうしたASDの受難はしばしば本人のこだわりが強い故と説明される。確かにASDの行動は形式や段取りを重視する傾向にあり、融通が利かずマニュアル志向である。しかし私の感覚としてはこうした失敗はこだわりの強さというよりは予測不能な事態への「焦り」の強さが引き起こすものといった方が正確ではないかと感じている。健常者から見れば「今それをやってる場合じゃないだろ(そこはいいから早く次のステップに進め)」と言いたくなるが、ASDからするとそうした事で自分の立てた計画が揺らぐ(不測の可能性が入り込む)のが恐ろしくてたまらないのである。

私は対人ゲームが好きで良くやるのだが、あまり勝率は高くない。その原因の多くは状況判断が不得手な事に起因している。状況判断とは「彼我の状況を確認し、次の有効な一手を考える」事だが、要約すると「今この状況で相手が一番嫌がることは何か?」「自分が取りうる手段で最善のものは何か?」を考えて実行し続ける事である。ゲームの上手い人間はこうした判断に慣れており、臨機応変に戦術を変更し対応できる。自分の観測する限りこうした柔軟な対応を取れる人間はゲームに限らず何をやらせてもそこそここなす。

しかし自分のようなタイプは自分の脳内で描いた相手を倒すビジョンに無意識に固執している為、目の前の事しか見えず無闇に攻撃を繰り返したりと素人じみた行動になってしまう事が多い。想定していたルート以外に想像力が及ばない為、少しでも予想外の展開になってくると焦って対応できなくなってしまうのだ。また、負けが込んでくると更に焦りが拍車をかけ、冷静さを奪い取ってしまう。そうなると幾ら事前に戦術を考え、研究していても素人同然のプレイになってしまい、一向に成長しないのである。そしてこれもまたゲームに限らず、こうした人間は何をやっても焦り故の失敗ですべて駄目にしてしまう。

つまり私のようなタイプは「想定外の事態でも自分の選択によって現実を良くしていける」という意識が希薄なのである。自分の描いたビジョン以外で成功する事に想像力が及ばないため、当然それ以外の展開では焦ってパニックになってしまう。ASDが周りから口を酸っぱくして言われるであろう「周りが見えていない」「目の前の事ばかり気にしている」とはつまりこういう事なのである。

そしてこうした焦りによる失敗は「怒り」となって自身に襲いかかる。

私は焦りやすいと同時に怒りやすい事を自覚している。ゲームで負けたり、仕事で失敗したり、忘れ物に気づいたりした時と状況は様々だが、自分の情けなさに対する怒りと失望で頭がいっぱいになってしまう事が多々ある。それは焦りでがんじがらめになってしまう自分への怒りだ。

言うまでもないが、怒る事は基本的に避けた方が良い。冷静さを失いさらなる失敗を招きやすくなるし、非常にエネルギーを消耗し心身を疲れさせるからだ。実際私もキレればキレる程ゲームの勝率が下がっていくのを実感しているが、これはまさに冷静さを失い、更に焦っている証だ。

対人でゲームに勝つには、冷静に相手と自分の状況を見つめ、淡々と相手を追い詰めていく事が求められる。そこには焦りも、高揚も、恐れも、怒りもすべて無用だ。徹底的に感情を揺さぶるものを排除し、取りうる最善を選択し、とにかく視野を広く保つ事が求められる。実際、冷静さを保つように努めた試合では戦績が明らかに上のプレイヤーにも勝つことが出来たり、結果的に負けたとしても以前より自分の動きが改善されているのが判る。焦りに支配されている時の自分とは別人のような動きになっているのだ。

こうしたメソッドはゲームに限らず、ASDの人生のあらゆる所で有用だ。要は「落ち着け」以上の事は言っていないのだが、そとそもパニックになった人間は落ち着くのが難しい。だから、「想定外の事が起きても淡々と解決策を考えて実行していけば破滅はしない」というマインドセットを
インストールしていく事が大事だと感じている。

ことパニックを起こしやすいASDにとっては、例え想定外の事態を招いてもまずは焦らず状況を確認する事は死活的に大事だ。焦りさえしなければ少なくとも最悪の状況は回避できる。自分の想定していた事態とは違っていても、冷静に状況を分析し取りうる最善の一手を考え、実行し続ける事で確実に状況は改善していける。ASD当事者から見ると、何でも柔軟に切り替えて仕事をこなしていく健常者は超人のように見える。しかし、焦ることなく冷静さをキープし続けられればASDでも彼らに並ぶことができる。

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