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もうすぐ雪が降るかもしれない

「今日の予定は?」

朝起きてきた娘に聞いてみる。
学校へ行くのか休むのか、それは確かめなくても起きてきた娘の表情をみれば9割以上の確率で当たるが、とりあえず「おはよう」の後に聞いてみる。

「……休む」

「わかった。じゃあ悪いけど、洗濯干しと掃除機お願いできる?」

「うん」

「助かるわ~。ついでに食洗機の片付けもお願いできる?」

「わかった」

「助かるわ~」

この流れは毎朝のテンプレートだった。

私は学校のアプリを立ち上げ、「欠席」を選択し送信しておく。
そんな日々が続いていた。

私が見る娘はいつも通りの娘で、毎日元気だ。
仕事から帰って夕飯を作る私の近くで、その日家で何をしていたのかを話して離れない。描いたイラストのスケッチブックを開いては、私の目線近くへと寄せてくる。
私はそんな娘を見て、ほほえましく思う。

「めちゃくちゃうまい! デジタル化してインスタ上げたら?」

「うん。そうするつもり」

「私が一番にイイネつけるよ! 多分」

「ありがとう」

先週の休日、娘が勉強会に行ってくると言った。保育園時代からの友人の家で三人で勉強会をするという。
詳しく聞けば、娘のために勉強を教える為の勉強会なのだと知って、驚かされた。

それは土曜日と日曜日の二日間行われた。
さらに月曜日に仕事から帰ると、

「今日リモート授業したよ!」

と言ってどや顔だ。
友達に数学を教えてもらったと言う。
どうやら月曜と水曜はリモート勉強会をしてくれる日ということになったらしい。
娘の幼馴染みたちは、だからって「学校へ来てね」だとか、そういうプレッシャーになる言葉も一切言わないらしい。
たまに一時間だけ学校へいくと、描いた絵をプレゼントしてくれる。いつ来るかわからないゲリラ登校の娘なので、常にプレゼントしたい工作した小物類は鞄の中に持ち歩いているらしい。

 私は、その子達って人間じゃなくて天使なんじゃないの? って、毎回驚かされてしまう。

今週の木曜日は1日全て学校で過ごせた。
娘にとっては奇跡のように珍しい。
これは驚くべき変化だと思った。

 その夜、担任の先生から電話があり、友達二人の生活の記録に「勉強会」と書いてあったから、ああそうなのか。と思っていたけど、そういう勉強会だと今日知って嬉しかったと興奮気味だった。さらにリモート勉強会の件でも、私と同じように感動したと。

「すっごく嬉しくて。その友情にすごくすごく感動して! それをお母さんに伝えたくて電話させていただきました!」

私は常日頃、担任の先生を令和の金八先生だと思っていた。彼から発せられる電話越しの音は、人の熱さを帯びて私の鼓膜を震わせた。

「私もすごく感動してます。ありがたいです。よい友達と、先生と、とにかく感謝です」

「あ、それとお母さん、今日の生活記録にイラストを描いてくれてて、明日からがんばりますって小さい字で書いてあったんです。これココだけの噂ですけど、明日も学校来るらしいですよ?」

そんな冗談も言える令和の金八。
プレッシャーを感じさせない気遣いがその背景に見て取れた。
ここで私がこの若い先生に昭和の金八の決めゼリフを言ったところでカツラがズレるみたいになってしまうかなと、喉まで出かかったけどやめておいた。

翌日の金曜、朝起きてきた娘の顔は、学校へ行く寄りだった。確かめてみる。

「今日の予定は?」

「行くよ」

娘は通学カバンを確認しだした。

「鍵ちゃんと入れてね」

「うん。入ってる」

連続二日目の登校だった。
もしかすると近々雪が降るのかもしれない。
周りもチラホラ冬用タイヤに履き替えている。私はいつ頃変えようか。

とにかく今年は一ヶ月がものすごいスピードで去っていく感覚だ。
だからって特に私は私のペースでのんびりとしているけど、周りは早いな~と感じさせられる。

もう12月だ。
ついこの前年越しをしたばかりなのに……。
今年に感情があったなら、間違いなくせっかちだ。今年はさっさと来年になろうとしている。

そのくせ振り返れば沢山の出来事があった。
そんな中で私は何かを思い、動いて、生きてきたのだと、何となく思った。

 職場の秘密基地にある木製ベンチで過ごす時も、今では寒くて上着とひざ掛けが必要になった。

スマホを見れば、学校からの不在着信がある。
娘が早退する時は、私のスマホに着信を入れてもらうことになっていた。
この時間の履歴だと、1時間目の早退だと想像できた。

『帰ってる?』

娘にLINEをする。

『帰ったよ』

という返信と、可愛いスタンプが送られてきた。
それに対し、お気に入りの変なスタンプで『おつかれ~』と返した。

 嬉しいという感情を味わいながら、それに期待しすぎないようにと心をニュートラルにしておく。

 信じられないけど今は夏でも秋でもなく冬だ。もうすぐ冬至が来る。
そのうち路面の凍結か、雪が降り出すだろう。
そろそろ本気でスタッドレスタイヤへと交換した方が良さそうだ。

私は行きつけのスタンドへタイヤ交換の予約をしようと、電話帳アプリを開いた。

 

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