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雪山での戦い
同僚のおじさんは、今、必死に戦っていた。
睡魔という悪魔と戦っているおじさんを、私は真正面から複雑な気持ちで眺めていた。
『 睡魔に負けないで、頑張って!』
とエールを送りたい気持ちもあるし、
『 その可愛らしさを、もっともっと見せてよ!』
と思ってしまうクレイジーな自分もいる。
会議中の、どうしても寝てはいけない時などに、毎回寝落ちしてしまいそうな同僚のおじさん。
私の視線はそのおじさんに釘付けになってしまうのだ。
まるで、小さい子が食事の途中でどうしても眠ってしまうとか、お遊びをしながらどうしても眠気に勝てずに電池切れしてしまうというような可愛らしさがある。
そのおじさんの容姿と、可愛らしい行動とのギャップが私を萌えさせるのだ。
当の本人のおじさんは、
『ああ、寝てはいけない! おきろ! 起きるんだ! 寝るんじゃない!』
と、雪山で睡魔と戦っている気持ちでいるのだろう。
もしも私がドラえもんだったとして、透明マントをチラつかせようものなら、おじさんは真っ先にそれを被って爆睡するに違いない。
しかし所詮それはアニメの中の道具にすぎない。
この世に透明マントなんて存在しないのだ。
黒い私は、眠気と戦うおじさんの可愛さに、心の中で悪魔の囁きをする。
『お眠りなさい。
ここは雪山じゃないわ。寝ても死なないのよ。
何もかも忘れて、眠ってしまえばいいのよ』
と、背中をトントンしてあげたくなってしまうのだ。そして私は心の中で、おじさんに子守唄を歌ってあげている。
『 さあ、眠りなさい。疲れきった身体を投げ出して・・・』
おじさんの頭はだんだんと下がっていって、重そうな瞼が閉じていき、うつらうつらとしてから、
カクン! ビク! そして回りをキョロキョロと見回す、その一連のマンガのようなベタな行動に、私は心の中で大爆笑をしてしまうのだ。
楽し可愛いおじさんからのダブル攻撃を、私は目の前で受けている。
私は気づいた。
その一連のギャグのような行動は、若いお兄さんや、お姉さんではこんな座布団10枚レベルの笑いは生まれやしない。
おばさんでもない。
やはり、おじさんだから成り立つのだ。
できれば、イケてるおじ様では笑いが半減するので、普通のおじさんが適任だと思う。
おじさんが、日々家族の為に頑張って頑張って働き疲れ、それでも毎日毎日歯をくいしばって世間に揉まれながら、上司に叱られながら、頑張っているのだ。年を取ると、夜中寝ても完全に疲れが取れないのだろう。
分かるよ、分かる。その気持ち。
あぁおじさん、頑張って!
おじさんは以前から言っていた。
この会議は、意味の無い、会議という名のムダな時間だと。
私もおじさんと同じ気持ちだ。この会議の方針に意味を見いだせないで長い年月が経った。
この会議、ただの状況報告なだけで、ただその報告書を読み上げているだけの時間だ。意見をいう時間すら設けられていない、ただ一方的な報告の場であって、そんなものは時間の無駄。意見交換できる時間ならば意味がありそうだと思うが、ただ聞いているだけのその時間は、疲れている人間にとって、睡魔の方が勝ってしまってもおかしくはないと思うのだ。
もっと意味のある、時間を有効活用できる有意義な時間にすればいいものを。と、私は月一、心の中で毒ずいていた。
おじさんをこのまま気持ち良く寝させてあげたいよ・・・。
私の心の中での子守唄はづづく。
カクンカクンしていたおじさんは『 顎は大丈夫? 』と心配するほどの大きなあくびをした。
私も、なぜかつられて大きなあくびをしてしまった。
・・・!?
私は眠くなんてなかったはずなのに、おじさんを見ているうちに、眠気が伝染してしまったらしい。
さっき雪山で戦っているおじさんを見捨てようとしたバチが当たったのかもしれない。
今の心境は、おじさんと雪山で2人きりのハプニング勃発だ。
どうしてくれるのさ、おじさん。
ああ、この眠気。どうしよう・・・ヒドイ眠気じゃないか。おじさんったら私を巻き込むなんてヒドイよ・・・!
でも二人なら、何とかこの意味のない一方的な会議という名の極寒の雪山、乗り越えられるよね?
ああ、早く救助のヘリコプター来ないかな。
それか、ドラえもん、透明マント貸して・・・!
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