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「好き」は世界を変えるのだ―そらる 10th Anniversary Parade

先日この記事「世界征服進行中―まふまふ、ならびに「歌ってみた」界隈に寄せて」を公開したのだけど、実はこの土日、「まふまふ」と同じくニコ動の「歌ってみた」発のシンガー「そらる」さんのライブに行ってきた。

「まふまふ」よりさらに更に動画投稿歴が長く、ソロ活動だけでなく、まふまふといっしょに「After the Rain」というユニットを組んでいる。優しくやわらかな声音とロングトーンが魅力の人だ。

ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」の主題歌や、

映画「カケグルイ」の主題歌

を担当していると言ったら、ああ!と思う人もいるかもしれない。
わからなくてもなかなかにすごい人だということは伝わると思う。

クールで落ち着いているけれどユーモラスで、ゲーマーで、多いときは週2回くらいゲーム実況の生放送の配信をする。ファンからするとありがたいことに、過多なくらい供給してくれる人だ。
歌声ももちろんながら、私はそらるさんの話し声と自然体のトークがあまりにも好きで、その喋りを一秒たりとも聞き逃したくないという気持ちであらゆる動画、配信、アーカイブを聴きあさる日々を2ヵ月近く続けている。それでもまだまだ見切らなくて、「幸福な地獄」を行軍中だ。

そのそらるさん、今年10周年ということで記念ツアーが開催された。

が、前の記事に書いた通り、私が彼らのことを知ったのが今年に入ってからで、その時点で既にチケットはソールドしていた。
なので、いいなー、行きたかったな、次は行こうと思いつつ、ひたすら動画や過去の配信をさかのぼる日々を過ごしていた。
でもやっぱり気になってつい検索したところ、ツアーファイナルの幕張2daysのチケットの譲渡がいくつか出ているのを発見してしまった。

ネットでチケットのやりとりはしたことがない。いかにも詐欺が横行しているイメージだし、詐欺じゃないにしても知らない人に本名を明かして振り込みしたり住所を教えて郵送したりするのも嫌だ。

……でも、「次は行こう」の次っていつだろう。
「次」の時、今ほど気持ちが盛り上がっているかわからない。
今、この気持ちの時に行くのが絶対一番楽しいのでは。

そう考え始めたらたまらなくなって、手渡しを条件に人生初の「チケット求む」のツイートを出した。
すぐに相手が見つかって、土日どちらか行けたらいいと思っていたのに、結局勢いで両日チケットを確保してしまった。

そこから、顔も名前もわからない人とチケットの受け渡しについてやりとりをしつつ、大人の力でCDを一気に買い集め、ライブまでの2週間強で一気に詰め込み教育を開始した。
目覚めている間中何かしらの音声を流し続けていたらもはや生活音の一部と化し、そらるさんが同じ家にいるような錯覚に陥り始める。

そうして迎えたライブ当日。
歌い手界隈のファンの年齢層は若い。中高大の学生がメイン層だ。会場付近にも、ライブグッズを身に着けて、凝った髪型で気合を入れた若い女の子がわんさかいる。
どのライブでも思うけど、こうしてリアルにファンの姿を目にすると、これだけの人を動員している影響力に驚かされる。
席数は、たぶん11,000とか、12,000人くらいだろうか。それをツアーファイナルで二日間、完売。
改めてすごい。

1日目。
そらるさん、白かった。
今まで見た人間のなかで一番白かった。

……。
すいません、それしか覚えてない。

というのが、やっぱりひと月弱の詰め込み教育では全然追いつかなかったのだ。
白状すると、半分ちょいくらいの曲しかわからなかった。アニバーサリーツアーなのもあって、古い曲から新しい曲まで満遍なく選曲されており、まだ買えていなかったCDの曲も含まれていて、なんかもう全然無理でした。メロディと歌詞を聞き取るのに必死で、ライブに乗るところまでいけなかった。
サプライズを楽しみたくて初日はセットリストを調べなかったのも完全に裏目だった。

そして、ひと月弱、家にいるんじゃないかと思うほどひたすら声ばかりを聴き続けたせいか、ステージの上にいるその人が「本体」であるということが、肉眼で見てもうまく認識できなかった。呆然とステージを見上げながら、あの人白い、とずっと思ってた。

充分楽しめなかった反省を踏まえ、初日終了後、セトリを調べ、知らなかった曲をインプットして翌日に備えた。

その2日目。
会場に入って、驚愕の事実が発覚する。
座席が、センターステージの真ん前だったのだ。

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※丸いグレーのところがセンターステージ

とにかく来られればいいと思っていたから、チケットを確保したのは席番が出る前だったし、席番の数字も大きかったので、遠そうだな、くらいしか考えていなかった。
だからこれは完全に予想外だった。
センターステージまでの距離は3メートルくらい。完全に肉眼で顔が見える距離。
すぐそこにあるステージに、開始前から頭がおかしくなりかける。

そして、開演。
「銀の祈誓」

で登場したそらるさん。MVと同じ真っ白な衣装を着ている。
1日目より心なしか煽りの言葉が強くて、歌声も力が入っていて、全体的にテンションが高い。ツアーファイナルなせいか、気合が感じられる。
ステージを行ったり来たりするたびに、白い衣装がひらひら揺れていて、遠目で見てもきれいだった。
私も土壇場の追い込みが功を奏して、曲も昨日よりちゃんとわかる!わかるぞ!という感じ。

数曲歌った後、キービジュアルの衣装にチェンジして、ついにセンターステージにやってくる。
まじで近い。こんなに見えていいんですか? ってくらい近かった。
衣装のすそがひらめくのも、赤くアイシャドウの入った目じりも、歌っている口元も全部見えた。

……。

あのね、今から少し嫌なことを書きます。
実は、私はこのライブに一つ大きな不安があった。
画像を検索してもらえばすぐわかるけど、多くの歌い手の人たちって基本的に顔出しをしていない。「歌ってみた」動画は基本的にアニメーションだし、ツイッターなどのアイコンも本人をキャラクター化したイラストを使っている人が多い。限りなく2次元に近い世界観なのだ。

最近では姿を出した「実写」も増えてはいるけど、それもマスクで顔の半分は隠されている。声で勝負している人達だから当たり前と言えば当たり前の話で、そらるさんも例外ではない。最近のMVとか自撮り画像は限りなく顔が映っていて、もはやどういう顔かほぼわかってはいるんだけど、それでも画像は画像だし、一部は一部だ。
そんな彼らが唯一しっかり顔を出すのがライブの場だ(歌うから当然なんだけど)。

要するに、顔を見てがっかりしたらどうしよう、と思っていた。
ここまできてそれは失礼すぎるし、そうなったら自分が嫌になる。でも、自分で自分の感情が信用しきれなった。
だから、センターステージ前は嬉しい反面、顔が見えすぎて怖いと思ってた。

でも、いざ目の前に本人がやってきて歌ってるのを見たら、そんなことはどうでもよくなってしまった。
ニコニコして、手を振って、全力で楽しませようとしていた。
体を揺らしながら、顔を歪めながら、気持ちを込めて歌ってるのがよくわかった。
照明に照らされて、360度ファンに囲まれて、楽しそうだった。キラキラしていた。
それを見ているのがひたすらに幸せだった。
ずっと見ていたかった。

センターステージを去ったあとも、トロッコで会場を回ったり、風船を降らせたり、終盤にはオーケストラも登場する気合の入った演出の中で、熱を込めたパフォーマンスをし続けた。
驚かせたい、楽しませたい、という熱意がすごくこもっていたし、それと同時に自分も楽しんでいるのがわかった。
一面の青いサイリウムの海を見渡して、「すごい景色」と何度も口走った。

すごいよ。だって1万人以上の人が今ここにいて、同じ音を聴いていて、そのおかげで今こんなにも楽しい。

来てよかったと思った。
ネットでチケット探して、知らない人とやりとりして、2日間両日参加して、十個以上下の子に交じってペンライト振って。
いくつものちっちゃな抵抗感を全部振り切って飛び込んで、今日ここへ来てよかった。

全国ツアー中、そらるさんはよくツイッターでライブ前に「おれはやるぞ」というツイートをしていた。
幕張2日目終了後、ツアーを終えた彼はこうツイートしていた。

「やりきった」と思えるライブになってよかった。
それを目の前で見ることができてよかった。
素晴らしい時間をありがとうございました。

ここから先は、ライブとは直接関係のない余談です。

2日目のチケットを譲ってくれたのは、高校生の女の子だった。
友達が行けなくなったので、連番相手を探していた。
めちゃめちゃ良い子で、ペンラを貸してくれたりした。

ライブのあと、その子と話しながら一緒に帰った。
部活のこととか受験のこととか制服のこととか、余りにも高校生! って感じの話題のまばゆさに、すっかり大人の私はめまいがしそうだった。
彼女は小学生のころから「歌ってみた」を聴いていて、そらるさんのファンももう6年とかになるという。

そういえば、私も一番濃密に音楽を聴いていたのは中高生の頃だった。
あの頃は、お小遣いで買ったCDを、歌詞カードを眺めながら何度も聞いて、曲順も歌詞も全部覚えていた。
あの当時聴いていた音楽たちは、自分の中に一生残ると思う。それくらい自分の中に深く刻まれている。
この子にとって、今がまさしくその時なんだと思ったら、なんだかうらやましくなってしまった。

好きなものをいっぱい見つけて、それに対してひるまず突き進んでほしいな。何かを好きだという気持ちに従った行動は、いつも良い方向に運んでくれる気がするから。

ひとまわりも年下の子と、おんなじ音楽が好きだって話をしながら電車に揺られて帰った。
なんだか、最初から最後までできすぎなくらい、いい日でした。
ありがとう。

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