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メンヘラは黙ってワンピース読め
夫に「私って、メンヘラじゃないよね?」と一応確認した。
「う、うん(笑)」
ふくみ笑いされた。おいコラなんでや。
夫は、こう続ける。
「メンヘラの対義語はナルシスト。俺は100%ナルシスト。えりちゃんは標準のすこしメンヘラよりってとこかな。」
なかなかの的確な分析に「そこまで聞いてねえよ」と物理的に噛みついたのは、おいといて。
私は人見知りをしないから、根っからの明るい人だと思われる。そんなことはなくて、もともと根暗出身だ。
ピンク色のドラゴンフルーツに、はじめて包丁を入れたときのような「えっ?」っていう感じ。
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漫画「のだめカンタービレ」の世界がリアルに広がっている音楽大学で、私は多賀谷先輩とおなじ声楽を学んでいた。
音大生はメンヘラ絶頂期だった。先生から「根暗が声に出てる」とよくダメ出しをくらった。
「根暗が声に出てる。っと。」
えんぴつで楽譜に書きこみ、白目をむいた。
たしか、その頃だった。
映画「ブラックスワン」が上映されたのは。
ナタリーポートマン演じるプロのバレリーナが「舞台の主役のプレッシャーまじ半端ない」のを描いた映画だった。
上映が終わり、となりで観ていた慶應大の友人は「なんか大変そうだね。てかナタリーかわいかったわ。」と、棒読みで言いはなった。
「なんか大変そう、じゃねえよっ!頭がいいヤツには理解不能だろうなっ!」と、私は"表現の苦しみ"に共感しちゃっていた。ナタリーがかわいかったのは同意した。
ナタリーの名演技から「芸術家は苦しんでいいのだ!」と、都合よく解釈した。
「嘘つきは泥棒のはじまり」なのであれば、「根暗の肯定はメンヘラのはじまり」である。
かつての私を知る友人は言う。
「自分にスポットライトがあたらない瞬間すごく不機嫌そうな顔をする女」だったと。
だれか、シャーロットプリンを呼んでくれ!
メンヘラとは、目の前にあるものを無視し、自分にないものばかりを数える厄介な生き物である。
ーーーすがわら えり
私は、幸せだったはず。
父は消えたが、母がいた。
交通の便は悪かったけど、帰れる家もあった。
趣味は違えど、映画を一緒に観てくれる友人がいた。
芸の苦しみはありつつも、思う存分に歌える環境が大学にあった。
それなのに、メンヘラで。
いつも不幸な女をやっていた。
大切なものは失ってから気づくという。
音大を卒業した翌日から。
1つずつ、大切なものをなくした。
母、家、お金。
そこで、はじめて気づいた。
ああ、私は幸せだったんだ…。
そんな私を救ったのは、少年漫画の主人公たちだった。
幼少期は、習いごとで忙しかった。周りの大人からは「漫画やゲームは時間のムダ」と言われて育ったため、ほぼ触れてこなかったのだ。
今思えば、漫画やゲームからしか学べないことがある。
音楽をやめた私は、子供らしい子供時代を取り戻してみることにした。
で、漫画を読みあさった。
特に、ジャンプで活躍している彼らには、ある設定に共通することが多い。
片親、もしくは両親がいないこと。
ルフィも、炭治郎も、虎杖も、ナルトも、ゴンも、千空も。
麦わらの一味なんて、みんな家族関係でどえらいめにあってるから。自分と比較してごらんよ。見習えよ、精神力。
物語は、絶望から始まるほうが面白い。主人公たちは、成長するからカッコいい。
私だって、主人公になりたい!
すぐクヨクヨする自分が、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
もしルフィがとなりにいたら「俺、お前きらいだな〜!」って笑うだろう。
炭治郎からは「どうしてそんな風に考えてしまうんですか」とやさしく叱られそう。
(そ、それはそれでアリだな…オタク歓喜)
ルフィが出航しなければ、炭治郎が鬼殺隊に入らなければ、なにも始まらなかったように。
このままじゃ、物語が始まらない。メンヘラは、主人公にもヒロインにもなれない。モブです、一生モブ子。
だけど、人生のどん底を味わったのなら。そこから這いあがる物語は、絶対面白くなる。全自分が泣いた、自分史上大ヒット間違いなし。
ワンピースはじめ、少年漫画のおかげで私はメンヘラを完治した。
・・・って言いたいけどね?
夫の「う、うん(笑)」からして、完治ではないらしい。認めたくないわぁ!
でも、主人公のようにポジティブな夫のおかげで、私の人生も漫画のように面白くなった。
だから、メンヘラのカサブタくらいは残してやっても大丈夫だろう。
▼思春期の悩みも、今となっては笑い話。
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