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子供は産まないって決めたはずなのに

「子供がいない夫婦は可哀想なのか?」

というタイトルで書いた初noteが、ちょっとバズった。

この記事がきっかけで、TVやネットなど多数のメディアにお邪魔した。

「共感しすぎて泣いた」
「1人で抱えてたから救われた」

子供がいる・いないに関わらず、たくさんの方々からのメッセージが届いた。

反対に、こんなご意見も。

「ご両親が可哀想」
「老後に絶対後悔するよ」
「子育ての苦労を知るべきだ」
「女性の幸せとして子供は産むべきだ」
「こういう奴がいるから日本は少子化なんだ」

これらの意見には「子供がいない夫婦は可哀想なのか?【改訂版】」として書きなおし、ピリッと辛めにお答えしてみた。


◾︎夫は子供が欲しいのか?

「旦那さん、本当は子供が欲しいと思います」とも、よく言われる。

私ばかり声がでかい。
だから夫には定期的に、こう質問している。

「子供産まないって決めたけど、心情にお変わりないですか。」

すると、だいたいいつも同じ答えが返ってくる。

「どっちでもいい。」

夫は投げやりになってる。とか、興味がないから「どっちでもいい。」のではなくて。

「もし子供がいても、いなくても、俺たちは幸せになれるよね。」

夫は5年間、一貫していた。

しかし、1年前。

はじめて、夫から「どっちでもいい。」じゃない答えが返ってきて、私はギョッとした。

◾︎ママになった友人、子育てトークに入れない私

夫の告白にギョッとする、数日前。

私は幼なじみと5人で集まり、ランチをしていた。

そのうち1人は新婚さん、3人は立派にママをしていた。子供時代を知っていう子たちが、もうママだなんて。みんなすごいなぁ。

昔は「ランチしよ〜」となれば、新宿か表参道あたりだった。

「やっぱり近場がいいよね。」
「子供を迎えにいくから、私は15時までしかいられない。」

そんなLINEのやりとりで、東京郊外の某駅近にあるイタリアンで集合した。お店が少なくて探すのに苦労したけど、なんとか場所が決まってよかった。

思い出話もたくさんしたけど。
ほとんどが子育てトークになった。

新婚さんの子は「これから子供が欲しい」と考えているそう。ママたちの子育てトークを真剣に聞いて、積極的に質問していた。

「私もママになったら相談させてね!」
「もちろんだよ〜!」
「うわ〜心強い!」
「もし産まれたら子供同士遊ばせようね♡」

そんな素敵空間の中に、1人だけ混じれない女がいた。

私だ。

ただただ、ニコニコして座ってるだけの地蔵になった。

そんなニコニコ地蔵を気づかって、友人たちは話を振ってくれる。

「えりちゃんの決断、すごくカッコいいと思う。」

「子供産んでさ『ああ、私のために生きる人生は終わったんだな』って思ったの。だからときどき、えりちゃんがうらやましい。」

「わかるぅー!」

友人たちは、ママになっても相変わらず優しかった。

でも、なんだろう。すごい申し訳ない気持ちになった。気を使わせるくらいなら、私はこの場にいないほうが良かったかも。

思い出話をすれば、みんなそろって子供のころの感覚がよみがえる。そこから実は、あんまり変わってないのは私だけで。

周りがママになったことよりも、変わらぬ私がものすごく異物のように感じた。まだアンパンマンの細胞とか残ってそう。

ランチを終えて、駅前のカフェに移動することになった。1人のママがスマホを確認して、少し気まずそうな顔をした。

「ちょっとごめん。今、旦那さんが娘と近くで待ってるんだけど、ここに呼んでもいいかな?」

一同「もちろん!大歓迎!!」

友人の娘ちゃんと、初対面することに。

「あ、きたきた。」

2歳の小さな女の子が「ママー!」と嬉しそうに駆けよった。

私はたぶん、一生忘れない。

そのときの友人の顔を。

母の顔。
愛してるの顔。

めいいっぱいの幸せが伝わってくる、柔らかな笑顔だった。

子育て大変!というエピソードをあれだけ聞いたけど。わが子の可愛さは、すべてを吹っとばす幸せ・・・

なんだろうな。
と、表情ひとつで悟ってしまった。

◾︎36歳、妊活するならラストチャンス。

ランチ会の帰り道。

実は、私は仕事で行き詰まっていた。誰にも相談できなかった。悩んでいることを。

「がんばってて、すごいね!」ってみんな褒めてくれるから「ありがとう」しか言えなくて。弱音を吐きそびれちゃった。

帰り道をトボトボ歩きながら「本当は仕事やめたいんだぁ。」と、つぶやいた。

グループLINEには、子育ての話が飛び交う。
同級生からも立て続けに送られてくる、妊娠・出産の報告。

友人たちとは繋がっていたい。
けど、私に子供がいないから、理解してあげられない部分がある。

ママになった子とコンタクトを取るほどに、私の異物感は増していった。

今、36歳。
もし産むなら、最後のチャンスなのでは。

私は夫にそれとなく、子供の話題を振ってみることにした。


◾︎子供のいない人生 vs ハゲ

「もし子供が欲しかったら、これがラストチャンスだと思う。」

いつもと一味ちがう、夫への意志確認。
いつもと同じなら「どっちでもいい。」と答えるはず。

まさかの夫の回答も、一味ちがった。

「俺、AGAのクリニック通ってるじゃん。そこで処方された薬が『フィナステリド』っていうんだけど。」

「ほう・・・」

私が薬に手を伸ばすと「触っちゃダメ!」と夫が後退りした。

「ビックリした、なんで?」

「これ、女性が肌に触れたらダメなくらい、強力な薬なんだって。ホルモンに異常をきたすらしい。」

「ほう・・・。」

「これを服用してる間に子供をつくると、障害を持って産まれる可能性が高いんだって。」

「・・・ほう・・・・・・・。」



これにて会話を終了した。

産む・産まないの以前に、産めないのであった。この瞬間、人生において重大なことが決定した。

本当の本当に、子供を産まない人生になったのだ。


◾︎子なし主婦、婚活女子に叱られる

数日後、とある飲みの席。

そこで初めて顔を合わせた、20代の美人さん。私の向かいの席に座った。婚活中らしい。既婚者の私に恋愛相談をする流れで、こんな質問をされた。

「えりさん、子供はどうするんですか?」

そこで私は、産まない条件で結婚したこと、AGAの薬もあるから可能性ゼロだとを話した。

「私は産むべきだと思います。」

婚活女子の顔を見ると、ちょっと怒っていた。
お酒も入ってか、話し進めるにつれてヒートアップしていく。

「男性は何歳でも子供作れるんですよ。えりさんもうアラフォーじゃないですか。今が最後のチャンスですよ?旦那さんのハゲ薬やめさせるべきです。ハゲなんてどうでもいいです。子供は産むべきだと思います。私は産んでほしいです!!!」

周りが「まぁまぁ、その辺で・・・」と止めに入る。このときの私は、目から光がなくなり、暗雲たちこめる顔してたと思う。

彼女は、彼女なりの精一杯の価値観を持って、伝えてくれた。私が悪かったのだ。薬のことで「産まないのは夫のせい」のように聞こえたかもしれない。

仕事がイヤになったから「ママになる選択肢もアリかも」と、現実逃避をしていた。ほんの、ひとさじの甘え。

ママになる覚悟だって甘くないのに。


◾︎産むの?産まないの?

ちょっと、冷静になろう。

改めて「どうしたい?」と自分に問いかけてみると・・・


「やっぱり私もママになりたい」

という望みは、出てこなかった。

実は、夫の薬について知ったとき「ギョッ」としたと同時に「ホッ」とした本心に気がついた。

「薬もあるから産めない」という物理的な制限も入ることで、もっと「産まない人生」に自信を持って歩ける気がした。

「子供を産まない」と決めていたことで、夫の選択肢を広げていたのも、ちょっと嬉しかった。

「子供がいたら可愛いんだろうな」と考えさせられる瞬間は、ふいにある。友人の子供に会ったときなど。

そのたび冷静になって「子供のいる人生」と「子供のいない人生」を天秤にかけてきた。

その結果「やっぱり私は子供のいない人生がいいよね。」という結論を、何度も何度もかさね、今に至る。

夫に「薬やめてくれない?」とお願いするほど、子供がほしい気持ちが、今はない。

産まないし、物理的にも産めなくなった。

「産む・産まないを天秤にかける時間、もう使わなくていいのか。」

やっと解放されたような気分になった。

今年で38歳。
高齢出産と言われる歳。
まだラストチャンスとは言い切れない歳。

まだ、「子供はどうするの?」と聞かれたり、「産むべきだ」と説得されるかもしれない。

けど、大丈夫。

子供がいてもいなくても、きっと幸せでいられるから。


▼夫と薬について会議した後日談。


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