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キョウチクトウ(誕生花ss)

「その串で食べるの、やめときな」
 隣のアウトドアチェアに座ったリンドウ先輩が耳打ちした。おれはモモ先輩から取り分けてもらった肉をテーブルに置きながら、その上に置いていた串を見やった。
「え、この串っすか? でもモモ先輩から渡されて……」
「代わりにこれ使いな」
 リンドウ先輩は腰につけていたポシェットから、コンビニ弁当についてくる割り箸のセットを取り出し渡してくれた。
「この串はそこらへんに捨てとけ。モモのやつも、どうせそこらへんから持ってきたんだからな」
「へ?」
「手早く食べて、そんでさっと抜けて一緒に帰ろ」
「え、でも……」
「あんた、ウチのこと好きなんでしょ?」
 危なく肉ごとテーブルを倒しそうになった。リンドウ先輩の切れ長の目に見つめられては、嘘はつけない。おれは食事もそこそこに、野外のバーベキューで盛り上がる他の部員たちに見つからないよう抜け出し、市内へ帰った。
 翌朝、リンドウ先輩の用意してくれた朝食をとっていると、耳に馴染みのある名前がテレビから聞こえてきた。昨日のバーベキュー会に参加した部員の名前が、アナウンサーの口から出てきて、「犠牲者」の肩書をつけられてゆく。
「嘘……なんで……」
「キョウチクトウだよ。ウチも偶然見ちゃったんだけどさ、モモのやつ、そこらへんに生えてたキョウチクトウの枝をちょっと削って、みんなに渡してたんだ」
 あいつ、本当に卑屈なやつだったからな、とリンドウ先輩は笑う。
「でも、じゃあ、それなら……」
「良い機会だと思ったんだ。あんな集まりに参加するような奴らはどうせ大会でも成績なんて出さない。それならいっそのこと皆いなくなってくれれば、ウチが活躍しやすい」
 目の前で飄々と言ってのけるリンドウ先輩のことが、今まで好きだと思っていた人のことが、何も分からなくなっていく。
 おれの視線に気づいて、リンドウ先輩はにっこりと笑った。
「大丈夫。ウチのことを特別に思ってくれる奴のことは、悪いようにはしないから」


《今日のお花はキョウチクトウです……。全草に毒があり、それどころか周辺の土にまで毒性があるという、触れた奴みんな酷い目に合わせてやる的な執念すら感じる植物ですね。私は怖いので、近寄りたくありません……。》

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