fly me to the flower moon.(ショートショート・天使と悪魔シリーズ29話)
【天使のことが大好きすぎる悪魔と、彼に惹かれていく天使の、見た目BL小説群の29話目です。(これまでの話はマガジンをご参照ください)】
せっかくのスーパームーン、それも皆既月食だというのに、この国の空は相変わらずの曇り具合だった。天使の吐息が、俺の部屋の窓を曇らせる。
「主はなぜ、この国をこんな天候に作り給うたのか、時々尋ねたくなるよ」
「まあ、お前のご主人サマは割と、よく分からないことをしでかすよな」
天使はちょっと困ったような顔で俺を見る。俺は肩をすくめて見せた。
「悪い。お前の最愛のご主人サマを悪く言いたいわけじゃないんだ」
「……最愛、ではないけれど」
僅かばかり頬を染めて目を逸らす様子に、胸の奥が切なくなる。並んで立つその身体をそっと抱き寄せると、陽射しの香りがした。
「なら、今からふたりで月に行こうか」
「え……」
丸い瞳が、俺を見上げる。
「今なら、太陽が地球に隠されるのを見られるぜ。この前はお前に運んでもらったから、今日は俺が抱えて行ってやるよ。どうだ?」
宝石のような青い瞳の中に、光輝が弾む。柔らかな微笑みが、俺の魂を撫でる。
「素敵なお誘いだな。うん、行こう」
その言葉で、すべての雲が払われたような気がした。
2021年5月26日、スーパームーンの皆既月食だった日に書いた掌編です。5月の満月をフラワームーンといいます。これで、天使サマをお姫様抱っこする悪魔さんを脳内に描くことができるぞ!
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