レモン色の星空に

(この物語はフィクションです。)
 その道に面した家にはレモンの木がある。今日レモンが一つなっているのを見つけた。なんだかうれしい。星のようなイエローの色をしていた。その道を右に曲がるとハナ子ちゃんのうちがある。僕はハナ子ちゃんの家はたくさんの花の鉢植えがありきれいな庭園のようだと思った。かごの中にも菜の花が咲いている。
 ハナ子ちゃんはとても眠そうにトロトロと起きてきておどろいていた。
「どうしたの。こんなに早く。しかも雨も降っていないのに黒い長靴を履いて・・・」
「僕は夢の道先案内人。寅次郎ことトコロテンの寅なのだ。自分でつけた愛称だけれど」と言った。

 「天使の梯子に昇りに行こう。昨日の雨で丁度いい感じなんだ」僕は花子ちゃんに飴を一つあげた。鳥が数羽飛んで行った。
「もし、梯子がなくなってしまったら、どうやって帰ってくるの?」と不安げに聞く花子ちゃんに
「あの道の星色のレモンのなる木の幹にコブができているんだ。そこにろうそくが灯るようにセットしておいたよ」と、僕は言った。
「まあ、あまりにも小さな木で心配だわ」と、ハナ子ちゃんがいうので
「Yes、でも神様を信じて!」
  そして、僕らは手をつないだ。ハナ子ちゃんは赤と黄色のチェックのシャツに黒いパンツをはいて藍色のスニーカーをはいていた。リュックにはまんまるのトンボがかかれたバッチがついていて色鉛筆とスケッチブック、それから紅茶の入った水筒が入れてあった。絵を描くのが好きらしい。 
 ほら、あの公園のカボチャの形をしたすべり台。上へと明るい光が向かっていて雲を突き抜けているよ」とひつじ雲を見ながら僕は言った。軽い風がふく。そして、僕たちは口笛をふく。松の木はゆらゆらと揺れていた。  
「あ!風に桜の花びらがヒラリと舞って良くみえないわ!」
「さあ、いくよ。」
「この梯子どこに繋がっているの?」と、ハナ子ちゃんは聞いた。
「君のこころの中だ」
「え?何で夜空にあるの?」
「お星さまと繋がっているのだよ。怖くなったらこのあめを食べて。心が落ち着くから」
「ハイ」ハナ子ちゃんは飴の袋を手に取った。
「さあ、ここがはじまりだ。タンポポの花を頭にさしてあげよう」
「なに、そのおまじない?」桜の花びら舞いちる中に二人の影が見えた。
「ただの御守りさ。でも、結構効くのだよ。じゃあいいね」と言って二人は、ゆっくりと昇って行った。                      
 「これが明るい道?おもったよりもユラユラして揺りかごの中にいるみたい」
「すべての道はローマに通じる」
「エ?」
「そうかもね」     
「上に着いたらまず無言で振り向かないこと。凛としてつつましくしていると心も穏やかになる」トコロテンの寅ちゃんは言った。
「楽しみね」とハナ子ちゃんが言うと
「実際はサイコロを転がすスゴロクに似ている。迷宮。つまりラビリンスのようになっている」                          
「え?なんだか怖いわ」とハナ子ちゃんが言うと
「そんな時はいつでも心の中に聖なる言葉で自分で灯をともすのだ。自分で自分を明るく照らすのだよ。もう始まってしまった。全てをみつめるまではかえれない。でも、楽しいこともある。本当は知らない方がいいこともある。あの一番星をごらん?夜空はやみであってもあの星を目印に帰ってくるのだ。何が起きても心の中の出来事。全て〇なのだよ」と言うと寅はハナ子ちゃんの手をギュッと握った。
 「さあ、ここだよ」
「まあ、この道ぬかるんでいて歩きにくいわ。」
「心の中で祈ってみて。羽が生えるかもしれないよ」
「うーん、確かに。何となくこの世界になれつつあるわ」
「ドレスに着替えるかい?舞踏会があるのだ」と寅ちゃんが言うとハナ子ちゃんは
「え?心の中の?」と聞いた。
「そう心の中の」と寅ちゃんは言った。
 「じゃあ、一番シンプルなものに。黒の無地のワンピースに黄色の花柄のタンクトップを着ようか?赤い石のネックレスと、それに頭に羽のピンをつけよう。YOUにピッタリだ。元々ハナ子ちゃんはおしゃれなのでお似合いだ
でも、心の中の冒険が先なんだ」と寅ちゃんは得意げに言った。
「まあ、大きな門があるわ。地獄門みたい!」ハナ子ちゃんは突然現れた大きな門にビックリして言った。
 「おっと君の心の中の出来事は、この眼鏡で
見ないと見えないんだ。スーパー近視なんでね」と、寅ちゃんは言った。
「アッ!小さな戸みたいなものもある」と、ハナ子ちゃんがいうと寅ちゃんは
「ハナ子ちゃん、運命の選択だ。軽く考えてはいけない。小さな門からはいった方がいい。そちらの方が安全だ。じゃあ、僕はここで待っているよ!案内人の鷹を1羽つけるからひとりでいけるね」
 「ありがとう。寅ちゃん。でもどうして私なの?」とハナ子ちゃんは不思議そうにしていた。
「君の心が僕を呼んだのだ」と寅ちゃんは一こと言った。
 「オイラ、鷹のウイングって言うんだ。ヨロシク」
「こんにちは」
「ハーイ」と鷹のウイングとハナ子ちゃんはすぐに友達になった。
「ここから、先はあの、黒いSL列車に乗っていくのだ。駅におりても出発時間を守るようにね。」と寅ちゃんは言って手を振った。
「ハイ、ありがとう」と言うとハナ子ちゃんと鷹のウイングのせたSLは出発した。
 少しすすむと、行くところのろうそくの灯がうれしい。なんだかいっぱい花も咲いている。
「だって、ここはわたしのこころの中、きれいでないわけがない」と、ハナ子ちゃんは笑った。
「ハナ子ちゃん、一つ目の駅だよ」とウイングは教えた。
「車掌さん、降りてもいいかしら?」と言うと、眉毛の太い髭の生えた車掌さんは
「23分に出発するから、降りてもいいよ。でもまた間に合うように帰っておいで」と言いました。一人と一羽はSL列車を降りるとなんだか変な少し怖いような気持ちになった。
 鷹のウイングは笑って
「人の心はうつろうものだ。でもまだ、大丈夫。このSL列車は7駅で終点だ。見ない方がいい。探さない方がいいこともあるかもしれない。それでも君は行くのだろう?」と言った。
「まあ、ウイングってば痛いところを突くのね!」
「頭の羽を触ってごらん。少し心が落ち着くから」とウイングが言うと
「オーイ!プリンセス!発車しますよー!」と車掌さんの声が聞こえた。
「あまり、観光できなかったわ」とハナ子ちゃんが残念そうに言うと
「次の駅で・・・」とウイングは言ってまた列車に一緒に乗り込んだ。
「あれ?いつの間にかたくさんの人が乗っているわ!」
「ハーイ!こんにちは。僕の名前は野中福。君はハナ子ちゃんにウイングだね」
「どうして、知っているの?」と、ハナ子ちゃんが聞くと
「なんだ、野暮ったいこと聞いて!だって、ここは君の心の中だもの。君が思ったから僕は現れたんだ」と、福は言った。                
「???」
「大丈夫。プリンセス、すべてはうまくいっている」
「何を探しているの?」
「人魚姫の石の玉」
「へぇ、何なの?それ?」
「昔、ああ、わかりづらいかもしれない。君の心の中にも神話のじだいがあるんだ。」と、福は語り始めた。     
「その 神話の中にいた頃、美しい人魚姫が湖にいたという。彼女はその美しさで人を魅了したという。彼女の笑顔は男女問わず人の心を揺さぶったということだ。
 それに目をつけた海賊は彼女をさらって金儲けの道具としたらしい。彼女は悲しみのあまり
『私を石に変えて下さい』と神様にお願いした。
 神さまは哀れに思い彼女を石像に変えた。海賊たちは人魚姫の石像を浜に捨てて去っていった。その人魚姫の石像は毎夜涙を流したという。月日は流れて、その涙はいつの間にか大きな海となった。彼女の身体は風化して細かく4つの石の玉に分かれて海に漂ったらしい。唯一彼女の手に握られていた旗だけが何処か遠くの砂浜に刺さっていると聞いた。その四つの人魚姫の石の玉には霊験があり不治の病を治したり、光で人を導いたりすると言うことだ」と福は得意げに言った。
「へー!面白そうね」
「僕はその石の玉を手に入れて好きな子と結婚式をあげたいんだ」と福が言うと
「まあ、いい夢ね。スゴイじゃない!頑張ってね」とハナ子は言った。
 「さあ、このSL列車はチューリップ畑を通ると海の中に潜るぞー」と車掌さんが叫んだ。
「エ?福君。どうすればいい?」
「よし、ここは君の心の中のだ。自分を信じることだ。」と、福は言った。
「ねえ、福?私達もいっしょに連れて行ってくれない?」
「いいけれど君はかえれるのかい?」
「すべてを見届けたら帰れるわ!あの星を目印にかえるの。それに鷹のウイングが導いてくれるみたい」
「君は変わっているな。心の中なんて見ない方がイイゼ」
「このSLで帰れるの?」
「その鷹が最後はちからになってくれるさ!」
「よろしく 福!」
「よろしく ハナ子!」
「さあ、皆さん、お待たせしました。ここからは人魚姫の涙の海に入ります。入水しないようシートをかけます。どうぞおきをつけて」というと天井にシートがかかった。そして、機体は大きく揺れ、そっと海の中にはいって行きました。
 そこにはイルカのムレや真鯛が舞いおどり思ったより楽しいところでした。
「いつも笑顔でいること。感謝すること。それにお金は一円もかからない。そして、生きて行くのにじゅうぶんなお金、それらは人生を豊かにする調味料だ」と、福は話した。(続く)


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