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歌舞伎・文楽の解説、という仕事。(5)

歌舞伎・文楽のどんな部分を拾って解説を作るのか。今日も書き進めます。
昨日の記事はこちら↓

ざっくりと3つのポイントを書きましたが、この他に

人物の容姿を説明する。

衣装、化粧、鬘など、登場人物の外見を構成するものを説明します。というのも、例えば「菅原伝授手習鑑」、「寺子屋」の場面の松王丸。着ている衣装は、松の枝葉に重々しく雪が降り積もった「雪持松」の着物です。これは三兄弟の中で一人だけ敵方に仕え、兄弟や世間からバッシングを受けながらも、実は菅丞相(菅原道真)に恩返しすべく決意している松王丸の、本心を隠して耐え抜く心情を象徴した模様。このように、衣装の模様が登場人物の心情や境遇を表していることがあります。

また、歌舞伎と言えば!なお化粧「隈取」。これも描かれ方や色によって、表現している人柄が違いますし、鬘も結い方や毛の色合いによって、人物の境遇を表していたりします。なので、よりお芝居の表現を感じとるポイントとして解説します。もちろん、登場人物の人格にさほど関わりのない衣装や化粧、鬘の場合もありますので、ここを解説するかしないかの判断は、解説者それぞれのスタンスにもよるところ。

私は、衣装にものすごく詳しくはないので、松王丸のように、衣装に非常に強い意味があるなどの場合を中心に説明することにしています。

舞台装置を説明する。

「上手」は舞台向かって右の方向ですよ、といった基本から、舞台転換の手法やその呼び名まで。必要だと判断したら説明します。

「廻り舞台は歌舞伎の発明品なんですよ!」とか、歌舞伎のBGMである下座音楽が、下手の黒御簾の中で演奏されているとか。「決まりごとを説明する」とかぶる部分もありますが、例えば花道の切穴「すっぽん」から出てくるのは、この世のものではない存在だということも。

これも「必要だと判断したら」と書きましたが、抑えとかねばならないポイントでない限り、お芝居の内容や解説者の個性によって、解説のあるなしが決まります。

余白を埋める。

イヤホンガイドの解説はあくまで歌舞伎・文楽の舞台に付随するもので、解説単体で成り立つものではありません。しかし同時に、「イヤホンガイドの解説」というひとつの製作物、商品でもあります。ですから、観劇しながらイヤホンガイドの解説を聞いていて、解説にあまり余白があると物足りなさを感じることがあるため、目の前の舞台で何が起こっていなくても解説を入れる、ということがあります。

かつて先輩解説者が、野球中継の解説を例に出してお話ししてくださいました。コンスタントに話して、聞いている人の集中力を維持するのも解説の役割だと。私はこれを解説にもリズムが必要なのだと捉えています。

タイミングと内容の掛け合わせ。

解説にはこうしたポイントがあるのですが、たぶん他にもいろいろあります。でも今、パッとパッと思いつくのはこれくらい。しかも解説を作っている最中は、こんなふうに細かく思い起こして書いていません(笑)。行き当たりばったり。ここにはこれが必要だ、ということが、舞台稽古を見る前にわかる時もありますが、舞台稽古を一度見て、二度見て、初日を見て、ようやくわかることもあります。

あ、忘れてた。そもそもイヤホンガイドの解説は「舞台の進行に合わせて」流れます。役者さんのセリフになるべくかからないように、タイミングを見出して解説を流すのですが、その、どこにどんな解説を入れるか?どのタイミングで流すか?を決めるのも解説者の仕事。

どんなにいいことを言っていても、舞台上で起こっていることとかけ離れていては意味がありません。しかし、入れるタイミングがないのに、言っておかねばならないことがあるという時も…その場合はどのようにするか試行錯誤。演目ごとについてくださるイヤホンガイド社のスタッフの方と相談しつつ、指摘を受けつつ、懸命に作り上げていくのです。

うわ、だいぶちゃんと書きました。「歌舞伎・文楽の解説」と聞くだけではわからない部分が、けっこうご紹介できたのではと思います。歌舞伎や文楽をひとりでも多くの方に、気軽に楽しんでいただくためのツール、イヤホンガイド。このツールを通して、ひとりでも歌舞伎や文楽に興味を持っていただけたら、幸いです。そして、解説者という仕事、私という人間にも。

最後にちょっと告知させてください。
以前にも「歌舞伎の初体験をおもしろくする」の記事でお知らせしましたが、歌舞伎に興味あるけど踏み出せないな〜。歌舞伎のバリバリ初心者です!という方を対象に、zoomを使って1対1で、わからないことや知りたいことを相談していただける「初めての歌舞伎なんでも相談」を行っています。
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最後までお読みくださり、本当にありがとうございました!

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