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渡米4年目で,アメリカの人種問題についての話し合いを率いることになった話 ①

アメリカで都市に関する仕事をしていると,かならず人種というトピックに向き合うことになる.例えば,バスの路線が必要な地域にひかれているかを評価したい交通機関が,白人以外の人種の住民が多くいる場所の地図を参考にしたり,地方の役所が,猛暑の中で家に空調がなくて熱中症になる危険性のある人にサポートをするとき,黒人が多く住んでいる場所を調べてあたりをつけたり.都市や公共政策の文脈で,人種というものが,住宅,職業,収入,教育,治安,健康,環境(汚染),その他生活のあらゆる側面と密接に結びついている.

私は4年前に都市計画という分野の勉強のために東京からニューヨークに渡って,卒業後はそのままニューヨーク市の都市計画局に半年ほど勤めてから,都市系のコンサル会社に移籍して,いまに至る.留学前はほとんど日本で過ごして,普段生活する中で人種という話題に触れることもほぼなく,それが都市の分野でどういう意味を持つかについての知識も皆無だった.(それどころか,オバマの大統領当選をみて,アメリカの人種差別もだいぶよくなったんだなあ,と超絶ナイーブな感想を抱いていた.)未だに分からないことは本当にたくさんある.

そんな私が,ひょんなことから人種問題についての会社でのディスカッションのまとめ役を務めることになってしまった.

今年5月のジョージ・フロイド殺害の事件を発端に加速したBlack Lives Matterの運動を機に,仕事の中でも,人種について話すことが増えた.私の会社では,社員のおよそ10%ほどが黒人だ.社内で「黒人サポートグループ」というものが立ち上がったのも事件があった数ヶ月後のことだった.

同僚(白人):(チャットで)BIPOCのためのサポートグループを作って,BIPOC以外で興味ある人が少人数で定期的に話し合いをする場を作りたいんだけど,Eriもファシリテーターの一人として参加しない?あなたなら上手くやってくれるんじゃないかって話してたの!(注
私:(BIPOCって何だ...)

また知らない単語がきたぞ,と思って急いで調べた.BIPOCというのは"Black, Indigenous and people of color"の略であり,「バイポック」と読むらしい.このpeople of colorというのはざっくり白人以外をさし,そこにはアジア人も含まれるので,私もBIPOCに入っている. ちなみにBlackは黒人,Indigenousはネイティブアメリカンの人をさす.

注1)なお,「あなたなら上手くやってくれるだろうって話してた」は,人に何か(主にタスク)を頼む時に使う常套句である.ポイントは「話してた」のところで,相手が依頼人によってランダムに選ばれたのではなく,合議の上で選ばれたと示唆することで,相手をいい気にさせ,OKさせやすくするという効果を生むことである. "I was talking with some people about this and we think you'll be great!" のように使う.筆者もよく使うし,引っかかる.

ひとまずBIPOCの意味がわかったものの,私もBIPOCだということになっているのに,BIPOC以外の人用のグループに,しかもファシリテーターとして,誘われたのにとても混乱した.この人私が日本人なの知らないはずないけどなあ,と少し悶々とした後,まああえて誘ってくれたのだろうし,アメリカ滞在歴が社内でダントツで短い自分がやってみるのも良い挑戦だろうな,と思って快諾した.Black Lives Matterの運動が加速していた中,自分がいかに人種について知らないかを痛感し直していた時期でもあって,これで強制的に勉強するだろうな,という魂胆もあった.

初めは「BIPOCサポートグループ」と名乗っていたグループも,すぐに「黒人サポートグループ」に名前をかえ,私のようなアジア人やアジア系アメリカ人を含めた,黒人以外の社員の8-9割が参加することになった.性別も年齢も肩書きもごちゃまぜの,10人前後の決まったグループに分かれて,2週間に一度,1時間かけて話し合いをするようになってはや一月半になる.

なかなかない機会だし,この経験で学んだことや失敗したことをnoteで記録することにした.黒人サポートグループの話以外でも,アメリカの都市計画に関すること,仕事相手が使っていた現地人ならでは英語表現(これは会議などで面白い表現が飛び出すたびに唸りながら書き留めている),などなど,書こうと思う.お付き合いいただければ幸いです.


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