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★★★★★『イスラエル』ダニエル・ソカッチ

こういう本が、何年も前から読みたかった。やっと出会えた。何度も読み返して、本の内容を頭に叩き込みたい。

イスラエルを巡る問題について、歴史の変遷/テーマ別議論/用語集のそれぞれにて整理し、多角的に学ぶことができる珠玉の一冊。

印象に残ったことを下記。

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・ユダヤ人について、ハンナ・アレント『全体主義の起原』を読んで以降、もっと理解したいと感じていた。差別や迫害は、遠い世界で起きていることかもしれないけど、身近でも起こりうる。何が原因で、どんな悲劇が生まれるのか、何が解決策になり得るのか、もっと知りたい。

・ユダヤ人・アラブ人は、外部の世界の、また自分自身の(正義の)犠牲となってきた二つの民族。

・イスラエルを巡る問題の起源はヘブライ語聖書。エルサレムが約束の地として述べられる。ローマ帝国がエルサレムを支配した後、イエスが十字架にかけられて、ユダヤ教の異端だったキリスト教が成立。その後、ラビ(ユダヤ教の指導者や律法学者)はユダヤ教を変貌させ、生贄などに基づく地方宗教から普遍的なラビ・ユダヤ教へ。
ユダヤ人は反乱や独立運動を行ったが、ローマ帝国は押し潰そうとしてユダヤ人のエルサレム立ち入りを禁じ、追放。ユダヤ人は世界各地に散らばった。紀元70年から19世紀後半まで、イスラエルには小規模なユダヤ人コミュニティが常に存在したが、大挙して帰るのは2,000年後のこと。
2,000年の時を経て世界各地に散らばったユダヤ人がイェルサレム回帰を目指す(1880年頃からのシオニズム。シオンとはエルサレムの丘を指す。つまりイスラエルの地のこと。イスラエルに祖国を建設して然るべきだという信念、およびそれに基づく運動。)そこからのドレフュス事件。ユダヤ人は衝撃を受け、自分たちの国家を作る必要があるとの念に駆られる。

・貴方はシオニストですかーこの質問は少々奇妙。イスラエルが建国された時点で、シオニズムの思想は現実となったから。従い、この質問はどちらかというと「イスラエルを支持する立場かどうか」を問う。
シオニストにも色々ある。それぞれが主張するポイントは何となく理解できる気がする。

・シオニズム運動からイスラエルを建国したユダヤ人。しかしそこにはすでに住んでいる人が。パレスチナ人。
パレスチナ人からすれば、ある日突然ユダヤ人移民(イスラエル人)に祖国を奪われた経験であり、今日まで続く問題の根源のひとつ。

・パレスチナ人は、何世紀にもわたる様々な民族や文化が混ざり合って生まれた。(つまり、皮肉なことにユダヤ人の子孫でもある、と言えるはず。ただアラブ人由来が結局は多いかと。)
東ローマ帝国の統治が行われた際はキリスト教、その後19世紀にイスラム帝国が支配するとイスラム教に改宗。アラビア語が主体となり、自分達をアラブ世界の一部とみなすようになった。

・ヨーロッパ諸国に遅れをとるまいとオスマン帝国が近代化を進めた結果、民主主義的感情が高まり、それぞれの民族がナショナリズムの考えを高めた。パレスチナもアラブ・ナショナリズムを強化した。そんな時、シオニストが海を渡ってやってきた。皮肉なことにシオニストに対抗する形で、パレスチナのアラブ・ナショナリズムがさらに強化された。

・第一次世界大戦を経て、イギリスはイスラエルの管理を任されるように。イギリスはユダヤ人のシオニズムを支援すると同時に、パレスチナも支援する姿勢を示す。当然うまくいくはずもなく、双方から裏切ったと思われるように。パレスチナ人は激怒。イスラエル-パレスチナ間ですでに複雑な問題だったのに、イギリスが関与することでますます問題は解決困難に。

・イギリスは、ユダヤ人とアラブ人で国土を分割する案を提示するも、アラブ人は即座に拒否。アラブ人のゼネスト、大蜂起が起きて、イギリスは領土の分割はうまくいかないと思い知る。そこで、マクドナルド白書(2つの民族による共同統治を目指す)にて、パレスチナへのユダヤ人移住を制限すると表明。

・そんな中、ヒトラーが就任し、ヨーロッパのユダヤ人600万人がホロコーストで虐殺され、ほぼ全滅。
ユダヤ人は、パレスチナに避難しようとしてもイギリスに阻止された(4,500人を満載したエクソダス1947号事件)。それに対するイギリスへの国際的批判、ユダヤ人への同情。ユダヤ人/イギリス人/アラブ人を問わないテロ活動(イルグンによるホテル爆破)。

・その時パレスチナの人口は180万人、うち3分の2がアラブ人、3分の1がユダヤ人。
イギリスは委任統治から手を引こうと考え、係争地域の分割案を国連に提出。アラブ人は拒絶したが採択された。しかし、パレスチナが戦争に突入したことで、実行には移されなかった。

・アラブ人vsユダヤ人の内戦。アラブ側はエルサレムを包囲し、自動車爆弾でユダヤ人を殺害。
一方で、ユダヤ側の、イルグンとレヒの過激派は100人以上(大半が女性や子供、老人)のアラブ人を殺害。アラブ人は震え上がる。世界各地のユダヤ人、ユダヤ機関もこの行動を一斉非難。

・パレスチナでの紛争のさなか、イスラエルはシオニストの指導者を集め、独立を言い切った。ユダヤ人にとってこれほど心強い瞬間はない。しかし、アラブ人にとっては祖国が消滅する破局を意味した。

・イスラエルという国は必要だったのかーーこの問いに対する核心のひとつは「ユダヤ人は、なぜ帰るべき先がひとつもないのか?」という問い。ヒトラーがホロコーストを始めた時、ユダヤ人に手を差し伸べた国はひとつもなかった。ユダヤ人は、自分自身で自分の面倒を見る必要があった。

・追放されたパレスチナ人は周囲の国に離散したものの、歓迎はされず難民として扱われた。彼らが持つ強い感情の矛先を移民先の政府に向けず、イスラエルを標的にするよう、指導者らは仕向けた。

・ユダヤ人の内部でも差別。肌の黒いミズラヒ系ユダヤ人やエチオピア系ユダヤ人は、イスラエル内で差別される。一方で、ヨーロッパから来たエリートのユダヤ人が政治を牛耳る。
これは、世界各地で起きたユダヤ人差別と同じ構造でしかない。痛烈な皮肉。イスラエル内部では政治的な対立も発生。実利を重んじるシオニストとタカ派の意見が食い違う。穏便派と過激派が常に存在。(これはパレスチナも同様)

・ラビンやシャロン。イスラエルの和平を実現しようとして倒れた政治家たち。。本著の端々と訳者あとがきにて言及があるが、もしラビンやシャロンが生きていたら、とっくに中東和平は実現していたんだろうか。それか、やっぱり争う土壌がある以上、簡単に解決するなんてあり得ないのか。

・双方の殴り合いが続く(どっちかというと、軍事力優勢のイスラエルが六日戦争を経て占有地を拡大して以降、パレスチナの反発を抑え込む形が多い)。これがガザ地区内戦の現在まで続く。こんな状況だったのか。。こんな終わり方とは思わなかったと同時に、今後もどうなるかも分からなくて不安。

・歴史の後のトピック分析。どれも議論を呼ぶトピックばかり。歴史は一読するだけで覚えきれず、忘れてる部分もある。ちょっと難しく感じたので前パートの復習が必要そう。

・アメリカのユダヤ人。最初はシオニストやイスラエルのユダヤ人と志を共にしたのに(というか厳密には最初から志が違っていたわけだが)、第一次レバノン戦争(イスラエルが自ら選択した戦争)や第一次インティファーダ(ガザ地区やヨルダン川西岸での非武装蜂起を完全装備のイスラエル軍が弾圧)の衝撃的な行動を目の当たりにし、目指す方向性が違ったと両者間で隔たりが生じていく。

・アメリカの若いユダヤ人はすでにイスラエルへの執着から心が離れつつある(アメリカらしいリベラルな価値観を選択する)現状。

・ネタニヤフとトランプの蜜月。2人は似たもの同士。既存の枠組みを無視して右派・タカ派を突き進む。
自らが進める強硬路線を継続するために、他国の反ユダヤ的発言ですら黙認するネタニヤフ。その姿勢に幻滅するアメリカのリベラルなユダヤ人。

・イスラエル周辺国(イランやレバノン、シリア、ヨルダン)との国交が全然よく分からない、馴染みが無さすぎる。整理しないと。。

・ヨルダン川西岸はイスラエル人にとって別格の存在。ただ単に便宜的な理由(通勤しやすいとか)で住む人もいるが、厳格な宗教上の理由からヨルダン川西岸を手放すべきでは無いと論じるイスラエル人が一定数いる。戦争で勝ち得た土地への入植にも関わらず、イスラエル政府としては、入植者を増やす一方で手放すつもりはない。
併合したら国際社会の的になる上、130万人のパレスチナ人をどう扱うかという問題が生じてしまうので、(あえて)50年以上併合はしてこなかった。
しかし、イスラエル側は実質的にパレスチナ人を管理下に置いている。パレスチナ人は選挙権がなく、どこへ行くにしても数々の検問所を通る必要がある状況。

・イスラエル周辺って、本当に近い距離に重要な町があるんだな。パレスチナの首都やパレスチナ自治政府と10キロくらいしか離れてないとは。

・BDS運動。確かに両者とも言い分は理にかなっているな。これどっちの気持ちもわかる。

・イスラエルの話を読むと、自分がいかに恵まれているかを再認識する。ユダヤ人やアラブ人、周辺国の難民など、おぞましい苦難を乗り越えている人々がいる。一方で自分はこんなに恵まれた国にいるのに、なぜ頑張ろうとしないのか。なぜもっと色々な人の役に立って、社会をより良くしようとしないのか。と、恥ずかしくなる。

・用語集。同じ戦争でも、立場の違いで違う呼び方になる。領土に対する呼び方も同様。

・イスラエルとパレスチナ、両方の内部に過激派と穏便派がいる。さらには周辺国のシリア、レバノン、エジプト、そしてアラブ諸国、ソ連、イギリス、アメリカ。色んな国が関与することでよりダイナミックに、より複雑に地政学が動く。これは現在進行形で動いている。ガザ地区の戦争は今も続く。いつの日か、和平が実現されるのか。若い世代は全く違う育ち方をしているが、敵国への憎しみを持ったままなのか。ディアスポラ(離散民)はどう感じているんだろう。

・宗教が当たり前の地域って馴染みがない。どっぷり中東の世界に浸かったらどう感じるんだろう。自分としては何か手助けはできないのだろうか。この本でイスラエルに関する歴史、問題を落ち着いて学んだおかげで、視野は確実に広がった。宗教/民族/土地の争いがある状況下では、こんなに色んなこと、悲劇が起こるんだなと。

・離散民として各地で迫害され、故郷が無かったユダヤ人の物語は悲しいし、力をつけたユダヤ人(イスラエル人)に土地を奪われたパレスチナ人(アラブ人)に対しても、同様にやるせなさを感じる。過去は消せない。その上でどう精算していけばいいんだろうか。何か正しい決着の方法があり得るのか。たとえ片方が譲ろうにも、それぞれの国における過激派が穏便派を暗殺しようとする。それでも徐々に、粘り強く、穏便な解決策を見出すしか無いように感じる。

・中東が少し身近になった。日々のイスラエル関連のニュースにも早速関心を持てるようになった。

ありがとうございます!