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Essay|ゆっくり回復していこうじゃないか

そういう時はあるんである。

被災の様子を見てると情緒が不安定になって完全に寝不足で。そしたら反動で次の日は眠りすぎてしまうし、とりあえず食べてシンクにたまった洗い物を片付けねばと思うのだけれど放置してしまうこと。そういう時はあるんである。心は置いてきぼりなのに、生活だけがとにかく進んで、なんとなしにやり過ごしては、辛うじて人間の生活についていってるような時。

気づいたら雨が降っていて、出掛ける予定をしていたけれど、”あぁ面倒くさい”の頑ななやつが真ん中に居座っている。「雨やし、緊急事態宣言も開けないし、今日は仕方ない」と自分に言い訳をする。こんなんじゃ「何もかもをコロナのせいにするな!」と「俺の家の話」の舞さんに怒られてしまいそうだけれど、そういう時はあるんである。所詮は怠け者なのだ。

観たい映画がテレビで放送される時、とりあえず録画しておくことにしている。『パリ、テキサス』は去年の5月に録画したまま、一度も観ないまま録画リストに並んでいた。


これまでいろんな雑誌や映画特集で「名作だ」と呼び声が高いロードムービー。ピンクの背中がざっくりあいた小悪魔そうな振り返り美人と、広がる青と荒野。知っていることはそれぐらいしかないけれど、ロードムービーで、しかも所要時間を調べると2時間半もあるらしい。毎日映画をみるぐらい映画好きなわたしでさえ再生ボタンを押すには覚悟がいった。今じゃない今じゃない、と9ヶ月間寝かせてきたけれど、出掛ける気もなくなってしまった土曜日の休日。ついに時が来たんである。

パリなんていうから、ヨーロッパのパリかと思ったら、テキサス州にあるパリスという街のことだった。もうタイトルからして誤解。愛して愛して愛しすぎて妻とうまくいかなくなって4年間放浪してきたトラヴィスが息子と再会し、妻を探しにいく物語だった。


4年間ひたすら放浪していたトラヴィスよりはわたしは怠け者じゃないかもなと、比べんでいいものを比べながらトラヴィスが弟と話して、息子と再会して、少しずつ関係を回復して、妻を探しにいく姿に、妙に癒されていた。観るまでめちゃくちゃ抵抗あったけれど、観終わったらあっという間だったし、なんだったら何度だって観たいし、「2時間半必要やったな」とつぶやいていた。

道路を挟んで歩いた息子との帰り道、トランシーバーを持ってママを探したこと。直接伝えられない気持ちを吹き込んだテープレコーダー。背中越しに告白する彼女との電話。自分の気持ちにケリをつけるのは、自分でもわからないぐらい時間がいって世の中のスピードについていけないこともある。

周りからみれば理解されないようなことも、映画はいつだって許してくれる。

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