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Essay|この先に見る未来に
少し先の未来を見ることは、今の私たちをうんと勇気付けると思う。
幼い頃、こんなことがあった。母のいたずらか思惑か今となってはわからないが、私は5歳か6歳の(それすらうろ覚えだけど)お誕生日プレゼントに「ついておいで」と当時住んでいたマンションから少し歩いた先の、ある一軒家に連れて行かれた。
連れて行かれた先は、小さな個人でやっているピアノ教室。物がもらえると思い込んでいた私にとって、見知らぬ場所に連れられ「これがプレゼントだよ」の意味がまったく理解できなかった。 わからないまま目に映るは、知らない女の人と大きなグランドピアノ。
なんのどっきり。どうやらこの楽器を私は始めることになったらしい。
一番最初に教わったのは紙に書かれたピアノに指をおいて、鍵盤をおさえる練習。次に、まだ聴いてもいない音楽の楽譜を手渡されて先生の真似をする。私はどこへ向かっているのか。途方に暮れる6歳。
そんな調子で始まったピアノ教室は、目的地の見当も付かず行き先のわからない船に乗っているようで、案の定全く上達しなかった。私が練習した先に奏でるはずの美しい音楽を練習の前に聴かせてもらえていたら、私の今は違っただろうか。
未来を見ること。まだ手にしたことのないものでも、そのイメージは私たちの今に勇気をくれる。
映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」を観終わったとき、私は未来をみせてもらった気がした。映画を観終わった時の高揚感はずっと忘れられないし、「あぁわたしたちは大丈夫だ」と思えた。
若草物語の時代設定は19世紀で、誤解を恐れずにいうと昔から随分と馴染んでいるもう既に知っていた物語だ。それなのに、グレタ・ガーウィグ監督が撮ったこの作品で、わたしは新しい未来を見た。
本作は、マーチ家の四姉妹の物語だ。控えめで美しい長女のメグ、情熱家の次女ジョー、病弱でピアノが上手な三女のベス、生意気でおしゃれにばかり夢中な四女のエイミー。性格も考え方も違う4人の女性の人生の選択を通して、人生は何て豊かで愛おしくてカラフルなのかと魅せられた気がする。(もう大好き)
監督・脚本を手がけたグレタ・ガーウィグの手腕はもう平伏すばかり。彼女の手によって再解釈された若草物語は、人生には大きな悲しみも、手放せない後悔も、抱えきれないほどの寂しさもあるけれど、それでも喜びに溢れていることをいまを生きるわたしたちに教えてくれる。
わたしたちが何かを自由に選択することの喜びを。それはきっといきたい未来に繋がっている。
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