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救いのない日々の中で、他人の地獄を救えるか(映画「夜明けのすべて」感想)
パニック障害の山添くんと、PMSの藤沢さん。
同じ職場でお互いのことを知った2人に、友達でも恋人でもない不思議な繋がりが生まれる話。
※以下ネタバレを含みます
人には人の地獄
最近、「人には人の地獄がある」というひとつの解(?)まではたどり着けていたんだけど、本作品ではその先にある「自分の地獄はコントロールできないけれど、他人は助けることができるかもしれない」という、自分に見えていなかった世界が広がっていた。
自分のこともままならない時に他人を助けられるわけがないとずっと思っていたんだけど、「3回に1回は藤沢さんのこと助けられるかもしれない」と山添くんが真剣に語って、実際山添くんなりのそっけないけど真面目なサポートをしていたのがめちゃくちゃ良かった。
案外他人だからこそ、俯瞰して冷静に接することができるのかもしれない。
山添くんの元上司が、自死遺族の会で栗田科学の社長と知り合って、山添くんを栗田科学に紹介したのも、「周りの人の辛さなら助けられるかもしれない」というところから来ているんかなと。
人には人の辛さがあって、比べられるものではなく全く別で、でも別だからこそ、相手の辛さを知りたいと思って動けるのかもしれない。
というか、自分は動ける人でありたい。
印象的だったシーン(電車に乗れない/栗田科学の皆さん)
個人的に一番印象に残っているのは、山添くんがメンタルクリニックの帰り、どうしても電車に乗れずホームに座り込む場面。
私、前職で辛かった時期に親と沖縄旅行に行ったんだけど、家から関空に向かう電車で苦しくなって鳳駅で1回降りたんよね。
自分がおかしくなっているのを感じて、旅行を終えた翌日、すぐ心療内科に行って休職した。
それを思い出して泣いてしまった。
心の不調は、経験した人にしか分からない独特のしんどさがある。
そして、栗田科学の皆さんの何気ない会話。
後ろで漏れ聞こえる雑談の他愛もなさが、いかにも会社っぽい。今日の占いのラッキーアイテムは短いえんぴつとか何の話やねんって感じやけど、でもこういうゆる〜い会話はよくある。
栗田科学の皆さんに限らず、本作はあらゆる会話がものすごく自然で、飾らない感じ。
夜明け前がいちばん暗い
結局、2人の症状は治らないし、山添くんと藤沢さんが恋愛的に惹かれあうこともない。登場人物皆それぞれ、癒えない傷や地獄を抱えて生きていく。
でも現実だってそんなもんだ。
人生は淡々と続く。
どれだけ嫌なことがあっても、
悲しみに飲まれそうになっても、
大切な人が遠くに行ってしまっても、
ご飯は食べる。会社に行く。人と話す。
生活を営む。
そんな救いのない日々の中にいても、
他人を救える人になれるだろうか。
劇中の「夜についてのメモ」を引用して
締めくくりたいと思う。
夜明け前がいちばん暗い。
これはイギリスのことわざだが、
人間は古来から夜明けに希望を感じる生き物のようだ。
たしかに、朝が存在しなければ、
あらゆる生命は誕生しなかっただろう。
しかし、夜が存在しなければ、地球の外の世界に気づくこともできなかっただろう。夜がやってくるから、私たちは、闇の向こうの途轍もなき広がりを想像することができる。
私はしばしば、このままずっと夜が続いてほしい、
永遠に夜空を眺めていたいと思う。
暗闇と静寂が私をこの世界に繋ぎとめている。
どこか別の街で暮らす誰かは、眠れぬ夜を過ごし、
朝が来るのを待ちわびているのかも知れない。
しかし、そんな人間たちの感情とは無関係に、
この世界は動いている。
地球が時速1700キロメートルで自転している限り、夜も朝も、等しくめぐって来る。そして、地球が時速11万キロメートルで公転している限り、同じ夜や同じ朝は存在し得ない。いま、ここにしかない闇と光─すべては移り変わっていく。
一つの科学的な真実─喜びに満ちた日も、悲しみに沈んだ日も、地球が動きつづける限り、必ず終わる。
そして、新しい夜明けがやってくる。
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