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父の還暦

父が還暦をむかえた。想像した何倍も感慨深い。娘のわたしがそうなのだから、本人である父はもっとそうだろう。

本当は、1月23日の誕生日当日にみんなで集まるはずだった。今年の1月23日は土曜日だったのだ。でも、1月8日に緊急事態宣言が発令された。うちは医療従事者が多いこともあり延期にせざるをえなく、解除後にすぐ連絡を取り合って、3月最後の土曜日に集まることにした。

家族で何かあると食べにいくお寿司やさんに人数分の握りと名物の白菜巻き(マグロを海苔ではなく白菜の漬物で巻いたお寿司)を注文し、ケーキ屋さんに6号のケーキを作ってもらい、土屋鞄のバッグと、赤いちゃんちゃんこを用意した。写真を撮るために三脚も持参。

家族で食卓を囲む中で、これまでの人生どうだった? と訊ねると、満足してるし悔いもないと返ってきた。娘が二人生まれて、二人ともそれぞれ結婚して、孫までできた。いい人生だと思っている。もし一人だったら、それはそれでやりたいことはたくさんあった。車、バイク、サーフィン。今もスマホで動画をみたりして楽しんでるし、いいなあと思う。でも、この人生でよかったと思ってる。父はそういった。

そう、父はおそらく、結婚してわたしたちが生まれたので、家族の生活を成り立たせるために色々なことを諦めた人だと思う。母もまた、おくびにも出さないけど、気難し屋の父と結婚してとても苦労したと思う。そのことをちょっと考えてみたいなと今わたしは思っている。

出かける前、夫が「お父さん、ちゃんちゃんこ着ないんじゃない?」と言ったけど、「そんなにノリ悪いお父さんじゃないよ」と返した。
ケーキにろうそくを立てる前、ジャーン!とちゃんちゃんこを出したら「ふざけるなよ!」と言われた。一瞬、年寄り扱いするなって意味かなと怯んだけど、そうではなかった。ただの照れ隠しだった。そのあとはやっぱりノリノリで着てくれた。(もう脱げば?ってタイミングは何度かあったのに、けっきょくお開きになるまで着ていた)

妹は、嬉しそうにちゃんちゃんこを着て写真に収まっている父をみて、ちょっと感極まっていた。言葉が出てこないというので言葉にしてと言ったら、「わたしが子どもの頃はこういうお父さんじゃなかった。仕事で大変だったんだなと思って。丸くなったな」って涙ぐんでいた。あなたこそ丸くなったよって言ってやってもよかったかもしれない。

うちの家族は、たぶん結構、ほかにはない関係性の不思議な家族だと思う。家族じゃなかったらぜったい付き合わないタイプの人間が4人集合した。4人家族だった時は、危うげな関係性だった。だけど今は、かなりいい感じだと思う。


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