純愛ストーリーじゃ物足りない

不倫や浮気だとか不道徳な話がきらいだったとき、ずっと一途な恋をして障害を乗り越え結ばれる純愛の映画や小説を好んで読んでいた。
あるとき「こいつらお互いに裏切りあったらぐちゃぐちゃになるんだろうな」と想像してワクワクした覚えがある。それに「知らないところで悪いことしてるほうが人間らしいな」とも思っていた。

谷崎潤一郎「痴人の愛」

高校の図書館には先生1人1人の推薦図書を置いていた。吹奏楽部の担任は譜面を置いてたし、簿記の先生は会計の本を置いていた。国語の先生は「谷崎潤一郎」の短編集を置いていた(えろい表現が奇跡的にない本だったけど、女子高にこれを置くのはどうかと思う)2ちゃんまとめサイトでおすすめの本を挙げてくスレでえろいと書き込みがあった作者だったので、えろさへの好奇心に負けて借り、ずっぽり谷崎潤一郎にはまり、人生のバイブル痴人の愛に行きついたのは高校三年生の夏だった。

あらすじ:子だくさんヤンキーの家で育った16歳のナオミは実家が貧乏で教養がなくガールズバーみたいなとこでバイトしていた。ナオミは顔だちが濃くはっきりしていて、ジョージという冴えない真面目なおっさんリーマン(真面目が取り柄の金持ち)の好みだったので結婚しよって言われる。
結婚したら勉強をさせてあげる、無知な女の子じゃなくて立派な女性にさせてあげるって言われて結婚するナオミ。けどナオミは勉強が苦手でサボってジョージに怒られてばかり。そのうちウェイ系の慶応ボーイと遊ぶのがたのしくなってきた。ちやほやされていい気になり、ウェイたち公認のセフレとなりつつジョージの前でいい子のふりして専業主婦(家事放棄)してたけどついに浮気がばれる。
ナオミを追い出したジョージだけど、冴えない自分に夢のような恋をさせてくれたナオミが忘れられない。なんなら好みすぎる若いカラダが頭にこびりついている。仕事を休んでナオミの写真をばらまきナオミの服を嗅いで廃人になるジョージ。性格の悪い全世界の元カノがするように、別れ話をしてから日にちを置いて元カレの部屋に忘れ物を取りに来る。しかも何回もちょくちょく来る。ジョージはたまらなくなってヨリを戻そうとするがナオミはこれを拒否。ジョージは縋るあまり「じゃあ俺四つん這いになるから上に乗っかって!!!!」と口走り引くナオミだけどジョージの金は魅力的。上に乗って男と浮気するけどATMになれよって約束し晴れてジョージはナオミ専用のATMとなって一緒に暮らすことになる(間男付)

ナオミもジョージもロックすぎる判断で、純愛モノが物足りないかもなあと思ってた私には衝撃的過ぎた。この世の一番のモラルハザードを知ってしまった気分で、あまりに心に響くNTRに読み終えて胸がドクドク興奮し、爽快感があり、豆しか食べない仙人がピザとコーラとフライドポテトを知ってしまった後ろめたさと高揚感があった。自分自身で知らなかった性癖にささるハイカロリー爆弾に「ナオミとジョージになりたい」と憧れを強く抱いた。

依存しあう関係性が欲しいというより「美容院めんどくさいけど、髪を手入れしていない女性はナオミから遠い」と思ったり「面接も辛いし、辛い仕事だろうけど、お金を稼がなければジョージから遠い」と思って就活をがんばれた。成果が挙げられず仕事が辛い今はときどき「ジョージなら興奮している」と奮い立たせている。痴人の愛と出会わなかったら私は今も性癖にかすりもしない真面目なストーリーを読んで首をかしげているんだろう。


映画版について

映画版はラストで「あんたがいなかったら私も生きていけないのよ」と馬乗りになったナオミが泣き崩れる。小説の女王様っぷりよりは弱いナオミだけれど、これはこれで共依存性が際立ってて良い。

漫画版について

最高。現代版にアレンジされ、絵もコミカルだけどジョージの狂気が際立ってる。




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