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国内12件目の新種の恐竜の化石「眠る狩人」は、丹波の博物館の真下から。

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論文


日本の恐竜「ヒプノベナートル」に関する学術論文の概要:初期トロオドン科の進化に新たな光

2024年7月25日にScientific Reports誌に掲載された「日本の篠山層群大橋層から産出した前期白亜紀トロオドン科トロオドン類(恐竜類:獣脚類)はトロオドン亜科の初期進化を明らかにする」(Kubota et al., 2024)という論文の概要を以下にまとめます。

主要な発見

  • 兵庫県丹波篠山市で、新種のトロオドン科恐竜の化石が発見されました。この化石は、ほぼ完全な後肢と部分的な前肢、そしていくつかの肋骨や腹肋骨などから構成されています。

  • 新種は「ヒプノベナートル・マツバラエトヘオラム」 (Hypnovenator matsubaraetoheorum) と命名されました。 属名は古代ギリシャ語で「眠り」を意味する「hypno」と「狩人」を意味するラテン語の「venator」を組み合わせたもので、種小名は発見者である松原薫氏と大江孝治氏に敬意を表したものです。

  • ヒプノベナートルは約1億1210万年前から1億640万年前のアルビアン期(前期白亜紀)に生息していました。これは、トロオドン亜科としては最古の記録であり、初期の進化を解明する上で重要な発見です。

主な特徴

  • ヒプノベナートルは、他のトロオドン科と比べて、以下のような固有の特徴を持っています。

  • 指骨I-1の近位背側面にある一対の近遠位方向に伸びる窪み

  • 指骨III-1と強固に関節するための指骨III-2の背側および腹側の長い近位唇

  • 大腿骨内側顆の近位に位置する、前方の面に沿って伸びる厚い縦方向の隆起

  • 指骨III-3の遠位顆がねじれており、腹側縁が広く凸状になっている

  • また、尺骨遠位端の最も厚い部分が中央付近に位置すること、脛骨稜の前縁と脛骨軸の前縁の角度が11度未満であることなど、他の特徴との組み合わせによっても識別されます。

系統発生分析

  • 系統解析の結果、ヒプノベナートルはトロオドン亜科に属することが明らかになりました。

  • ヒプノベナートルは、モンゴルのゴビ砂漠から発見されたゴビベナートル (Gobivenator) と姉妹群を形成しています。

重要な示唆

  • 睡眠姿勢: ヒプノベナートルの化石は、前肢をゆるやかに折り畳み、足首を曲げて、腹肋骨の下に伸ばした状態で見つかりました。これは、中国で発見されたメイ (Mei) やシノルニトイデス (Sinornithoides) などのトロオドン科の恐竜に見られる「睡眠姿勢」によく似ています。この発見は、睡眠姿勢がトロオドン科の恐竜に広く見られる行動であった可能性を示唆しています。また、火山活動や風成イベント、または沖積システムのある環境だけでなく、河川システムにおいても、小型マニラプトル類の睡眠姿勢が一般的であったことを示しています。

  • 手の進化: ヒプノベナートルは、他のトロオドン科と比べて指骨IIIが大きく発達しており、指骨Iとほぼ同等の機能を持っていたことが示唆されました。これは、トロオドン亜科の中で、指の動きと機能に変化が生じていたことを示唆しています。

  • 足の進化: ヒプノベナートルは、非対称なアークトメタターサル(中足骨IIIが中足骨IIとIVによって挟まれる構造)を持つ最古のトロオドン亜科の恐竜です。アークトメタターサルは、走行に適応した結果として進化したと考えられており、ヒプノベナートルにおいてもその初期段階が見られることは、トロオドン亜科の走行能力の進化を理解する上で重要な発見です。

結論

日本のヒプノベナートルの発見は、トロオドン科、特にトロオドン亜科の初期進化に関する貴重な情報を提供するものです。 今後の研究によって、この新種の恐竜の生態や進化史がさらに明らかになることが期待されます。


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