見出し画像

日本有数のクリエイターと創り上げる新たな映像展示

松本市美術館で2023年7月15日~10月29日に開催された展覧会「映画監督 山崎貴の世界」(特別協力:株式会社白組)の一部展示に当社が技術協力という形で関わりました。本記事は白組さんとの共創活動に携わった社員へのインタビュー記事となります。

なぜ共創を行ったのか?
拠点が離れた相手とのコミュニケーションはどのようにしたのか?
共創によりどのようなものができあがり、どのような価値を得たのか?

活動に奮闘した皆さんの生の声を届けます。

* * * 以降は、社内向けに発信された記事の転載です  * * *


共創の背景と活動の進め方

VP事業戦略推進部 杵淵 正さん
-本共創プロジェクトの全体推進を担当-

今回の共創は、2023年3月に「映画監督 山崎貴さん(株式会社白組所属)の企画展に協賛してほしい」とテレビ信州さんから相談を受けたことが始まりです。
協賛にあたって、2022年9月に結んだ松本市との包括連携協定の施策の中で「地域文化・観光の振興」をテーマに活動している背景もあり、今回のお話は包括連携協定のテーマにうまくリンクすると考えました。ですが、金銭面の支援や機材の提供に留めるのではなく、私たちの持つプロジェクション技術やノウハウを活用して、企画や制作の段階から一緒にやらせてほしいと申し出ました。

結果、こうした企画や制作の段階から関わる新しい取り組みにも白組さんからはご快諾いただけました。そして白組さんの映像制作力とエプソンが持つプロジェクション技術による技術面での共創活動を通じて、「地域文化・観光の振興」テーマにおける重要な役割を持つ美術館の展示・展覧のシンカ(進化・深化)を目的に取り組んできました。
また、プロジェクション技術やプロジェクタービジネスの進化・進展が見通される中で、お客様が望むサービスや展示・展覧のニーズに応じた製品を開発していかなければなりません。そのため、今回の共創活動の中で製品を実際に白組さんや美術館の方に使っていただいて、そこで得た知見や生の声を次の製品・サービスに生かすことも共創の狙いとしてありました。

東京に拠点を置く白組の皆さんとはメールやオンライン会議で企画のレベル合わせをしていましたが、作っていただいた映像コンテンツを投写すると実際にどう見えるのか、言葉やパソコンの画面上では伝えにくい部分もありました。双方のイメージのすり合わせや実現性、またどれぐらい要望や期待に応えられているのかは、やはり現物で目合わせしていく必要があると考え、2023年6月に直接会う機会を設けました。

豊科事業所にて山崎さんに説明するビジュアルプロダクツ事業部長 吉野泰徳さん

山崎さんをはじめとした白組の皆さんと美術館の施設担当の方に豊科事業所(長野県安曇野市)までお越しいただいて、投写した映像コンテンツを一緒に見ながら「ああでもない。こうでもない」と意見を交わし、より良いコンテンツを創り上げるために協議しました。短い時間ではありましたが、直接コミュニケーションできたことで、新しいアイディアが生まれたり、いろいろな課題が見えてきたり、とても有意義な時間となりました。

改めて三現主義の大切さを知ったとともに、異なる業界の皆さんの創作意欲から受けた刺激はとても貴重なものでした。

展示①:立体的な映像に見える「タイトルプロジェクションマッピング」

企画展の入り口に展示している「錯視を使ったプロジェクション映像表現」。ある視点からスクリーンを見ることで、手前に飛び出しているような立体的な映像を見ることができる。

試行錯誤の末に創り上げた新しい映像表現

VP企画設計部 北林 一良さん
-タイトルプロジェクションマッピングの映像補正を担当-

白組さんからは、新宿駅の東口にあるような立体的な映像(新宿東口の猫)をプロジェクターで再現したいとお話を伺い、まずは試してみよう!とやってみたところ、最初はうまくいきませんでした。映像を投写するスクリーンが平面ではなく曲面になっており、曲面部分に映像を正しく映し出せなかったのですね。そこで、開発中のプロジェクション技術を試験的に用いることにしたのです。この技術は立体物へのプロジェクションを可能とするもので、新市場の開拓にもなるのではないかと考えました。

プロジェクターは平面のスクリーンに映しても、本体やスクリーンを斜めにするだけで映像が歪んでしまいます。そして立体的なスクリーンの場合、映像が歪まないようにするには平面のスクリーンよりも複雑な補正が必要になります。そこで、今回はカメラを使用して、プロジェクターの光がどこにどのように当たっているのかを、新技術を用いて高精度に計測することで最適な補正値を見つけ出し、立体的なスクリーンでも映像がキレイに映るようにしました。その間、白組さんの方でもどうやったらキレイに立体に見えるか、何度も映像コンテンツを更新してくれました。

お互いに試行錯誤していく中で、立体スクリーンが凹面から凸面へ変更することもありましたが、より良い映像展示を追求し続けました。その結果、白組の皆さんも最初は思い描いていた通りにできあがるのか不安もあったようですが、完成したものを見て「すごい面白い。イメージ通りになった」と言っていただけたことはすごく嬉しかったです。

凸面スクリーンへの映像投写(実物)

今回の共創で良いものができあがったことはもちろん、試験的に適用した新しい技術のノウハウが蓄積できたことで、新しい顧客価値の発見と市場開拓につながったのではないかと思います。

またこの成功の裏側には、要素開発部門などの皆さんが快く協力してくれたおかげですばやく精度の高い投写テストができたこともあったと思います。自信を持って白組さんとコミュニケーションできましたし、難しい挑戦も乗り越えられました。

展示②:400インチの大画面映像を至近距離で鑑賞できる「VFX WORKS」

プロジェクター2台を使用した大画面の映像コンテンツ上映。
超短焦点レンズのプロジェクターを使用することで、400インチの大迫力な映像を至近距離で見ることができる。

開発段階の技術の実証実験。そこから生まれる価値とは

VP企画設計部 植田 基樹さん
-マルチプロジェクション大画面構築維持技術検証推進、VFX WORKS部の設置調整を担当-

今回は白組さんご要望の「大画面の映像コンテンツを流す」という要件を満たしつつ、新しい検証を行いました。
一つ目の検証は映像を投写するプロジェクターを床置きで設置したことです。通常、複数台のプロジェクターを使って一つの大画面を構成する際には、プロジェクターが動いてしまうと映像がずれてしまうため、プロジェクター本体をしっかり固定します。天井から吊り下げたり、地上の台などに固定したりしますが、その分、大掛かりな設備が必要となり、コストもかかります。美術館の展示では、準備に許された期間が1~2週間と短いこともあり、コストを要する大掛かりな設備での設置は難しいという側面がありました。そこで、今回は、設置が簡単で低コストで済む床置きに挑戦しました。

では大掛かりの設置をしていない床置きの課題となる映像のずれはどうなるか?そこが二つ目の検証で、映像のずれを定期的に検知して元の画像を維持するという開発段階の技術を用いることで、床置きの課題を解決しました。

プロジェクター2台を使用し、大画面を構成

開発段階ではありましたが、この技術があったからこそ、設置の難易度を大きく下げる床置きという方法の提案もできましたし、大画面の映像を間近で鑑賞できる付加価値も提供できたと思っています。また設置方法が簡単であるからこそ、事前に事業所内で投写テストを行うのも容易でした。実際の設置環境と近い環境・方法でテストを実施できたので、美術館での設置も大きなトラブルなく行うことができました。

 今回の検証から得られたデータを活用し今後の製品にフィードバックすることで、今まではできなかった狭い限られた設置環境でも大画面の映像を流せるようになり、市場の拡大につながると考えています。

展示③:映画の登場人物になったかのような体験が可能「コックピット搭乗体験」

プロジェクターを2台使用して、リアル物体(コックピット)+背景映像+映像照明による、まるで映画の登場人物になったかのような体験が可能。
フォトスポットとしても活用できる。

三者の融合により実現した臨場体験

VP事業推進部 坂本 賢治さん
-本共創プロジェクトの投写設計、コックピット搭乗体験の設置調整を担当-

 「コックピットの模型に座ったお客様が実際に空を飛んでいるかのような体験ができ、それを撮影できる展示」と白組さんからご要望を受けました。最初は白組さんの思い描くイメージを実現できるか心配ではありましたが、2台のプロジェクターに別々の役割を持たせることで実現可能ではないかと考えました。
1台は天井から投写する照明型のプロジェクターを使い、コックピット内に入り込む雲の影の移り変わりを投写。そしてもう1台は超短焦点型のプロジェクターを使い、操縦席後方の景色を映し出すことで、戦闘機が低空飛行しながら軍艦の傍を通過していく様を表現します。これにより、映像の中に入り込む演出ができるのではないかと考えたのです。

この展示は二つの映像を組み合わせているため、考慮しなければいけないところは投写する映像コンテンツだけではありませんでした。映像の中に入り込む演出をするには、各映像コンテンツやコックピットとの位置関係が重要であり、プロジェクターの取り付け位置や設置位置などについては美術館とも調整する必要がありました。そのため、白組さんと美術館との三者間でコミュニケーションを取り、準備を進めました。

ですが、実際に現場(美術館)でプロジェクターを取り付けて投写映像を見ると、想定していた見え方とは異なり、取り付け位置の変更や映像コンテンツの修正など、現場に入ってからの調整が必要でした。コックピットの模型が現場に入ってから使用できたため、元々想定していたコックピットの真上からの投写だとコックピットの上を覆っているキャノピー(天蓋)のフレーム部分が光を遮り、操縦席に座った人の顔に影がかかってしまったのです。そこで、プロジェクターの取り付け位置を見直し、当初の位置からずらすことで解決しました。

こうした現場での苦労もありましたが、三者間でうまく歩み寄りながら白組さんの求める展示を実現できたことは、とても良い経験になりました。私たちエプソンの技術者でいろいろなアイディアや知見は持っていても、どんな環境でどう演出したら求めている映像表現を実現できるのか、どんな映像があればより臨場感が出せるのか、まだまだ学ぶことはたくさんあります。そして今回はそれぞれ異なる業界のメンバーだったからこそ、それぞれの強みを持ち寄ってうまく融合した結果、良い展示ができたと思います。

今回の展示は映画やアニメ、ゲーム業界への展開の可能性もありますし、観光地のフォトスポットなどにも活用できると思いますので、今後の活用方法についても考えていきます。


インタビューのおわりに

今回の共創活動に携わった4名の皆さんから、インタビューの最後に改めて「共創の価値や活動の生かし方とは何か?」お伺いしました。

・現場や関わる相手の立場や考えに触れることは、自らの視野を広げることに役立つ
・お客様のフィードバックを直接受けることで、今後の企画や製品/技術開発に生かすことができる
・技術や製品の課題を得る貴重な場である
・共創相手とシナジーを生むことで、アウトプットの価値や品質を何倍にも高められる

今回の共創活動で、異なる業界で活躍する山崎貴さんをはじめとした株式会社白組のクリエイターの皆さんや、過去さまざまな展示物を扱ってきた松本市美術館の皆さんと、試行錯誤しながら創り上げたもの。それは「映画監督 山崎貴の世界」に展示してある作品だけでなく、その過程で得た知見や技術、ノウハウも含めて、エプソンだけでは成し得なかったまさしく‟共創”による産物であると感じました。

この記事が参加している募集

企業のnote

with note pro

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!