友情/短編落書き”奇跡のすみか”⑦
冬の寒さは森全体を覆い尽くし、イチョウの葉はほとんど地面に落ちてしまっていた。ある朝起きると細い枝の先に小包がぶら下がっていた。南の島へ旅立った親友のツバメからだった。
ー親愛なるイチョウへ
お元気ですか。
僕は何とか南の島に着きました。
君と離れている時間を埋めるにはこの小さい便箋ではとても足りないね。
長い旅路の途中で飛ぶのが辛くなると君のことを思い出したよ。
前に大きな嵐が来たときのことを覚えているかい?
たくさんの動物が君のところへやってきて、雨宿りをさせてほしいと言ったよね。
君は嫌な顔ひとつしないで全員を枝の下に入れてあげたけど、嵐が去った後に君の枝がたくさん折れてしまっていたことに、僕は気づいていたんだよ。
”冬”というのはとても厳しいと聞きました。
君の大きな体にはとても足りないけど、僕の羽でマフラーを編んだから送ります。
春が近づいてきたらすぐに帰るよ。
それはもう本当にすぐだよ。
話したいことがたくさんあるんだ。
君はその場所から動くことができないけれど、僕が世界中に連れて行くからね。
ー永遠に
ツバメより
イチョウは手紙を2回読むと、小さな小さなマフラーを枝の先に巻きつけた。
鉛色の空からは粉雪が舞い始めていたが、不思議と寒さは感じなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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