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2年の時間をかけ、対象業務の「サービスカタログ」を全定義 Glicoグループのサービスマネジメントについて話を聞く【3/7】

江栄情報システム様(大阪市)は、Glicoグループ様の情報システム部門としてグループ全体のITシステムを担当しています。来年に基幹業務システムの刷新を控え、その土台作りのために全社規模でITサービスマネジメント(ITSM)を導入しました。「ITIL®4」という最新の考え方で「ServiceNow」を導入した事例はまだ珍しく、同社が経験したストーリーには大きな価値があります。2人のご担当者と、DIG2ネクスト代表の鈴木寿夫が対談しました。

※前回の記事はこちら

鈴木 最初に標準的なガイドラインを作ります。一つひとつの業務プロセスに対して、どういうサービスが提供されているのか、各業務はどういうサービスを使っていくのか、それらを定義する「サービスカタログ」を作成しなければいけません

DIG2ネクスト 代表取締役の鈴木寿夫

私と小泉さんが最後の最後までこだわったのも、サービスカタログです。ITサービスマネジメント(ITSM)の対象はサービスです。サービスが漏れなくしっかりと定義されていなければ、マネジメントはできません。対象となる全領域の業務を、2年がかりでカタログ化していきました。それに続き、各サービスをどういうルーティンでマネジメントしていくか、細かく設計していきましたね。
 
小泉様 サービスカタログは、すべてのサービスを記述してMicrosoft Excelでまとめたもの。各業務の担当者に、業務内容について詳細にヒアリングして作ります。誰が何をどういう頻度やシチュエーションで、何のために行うのか。それは誰のアウトプットになり、誰にインプットされていくのかといったことを、細かく可視化します。各業務システムの担当者に、ひたすらヒアリングしてまとめる作業になります。

江栄情報システム Technical & Data management リーダーの小泉和香様

セッションは1回1時間くらいです。それを毎週実施しても、1つのサービスに対して3カ月間ほどかかりました。ヒアリングする相手は江栄情報システムの各担当者ですが、セッションを繰り返していくうちに、担当者の意識が変わっていくのがわかりました。自らを「言われた通りにシステムを作る人」から「業務を支えるサービスを企画、提供する人」という意識に変わっていったのです。
 
最初のうちは、サービスのことを聞いてもほとんど答えられないです。「ユーザーの要望に応えて作ってきただけなので、内容はよくわかりません」という回答が返ってきます。「次までに調べてきてください」という形で続けていくうちに、その担当者がサービスの内容を理解し、自分の言葉で語れるようになっていきます。最終的に「この業務を支えるサービスは、この人に聞けばすべてわかる」という状態を作り上げることができました。それが一番の成果だと感じています。
 
鈴木 サービスカタログを作り、あるインシデントがどの業務に影響を与えるかを明確にしないと、そのインシデントへの対応がどれくらい重要で、どれくらい急がなければいけないのかが判断できません。サービスカタログはサービスの定義でしかありませんが、それに即してすべてのサービス管理プロセスが設計、運用されていくので、非常に重要になります。
 
小泉様 サービスカタログが完成したら、ServiceNowに定義していきます。ヒアリング作業に比べれば、大した工数にはなりませんでした。
 
ServiceNowには、標準的に定義されているモデルがあります。コモンサービス・データモデル(CSDM)と言います。CSDMに従って定義して実装すれば、あとはServiceNowの標準的な機能で一連のサービスマネジメントがつながり、動いてくれます。そして、このサービスに対して期待する価値が出ているか、課題はないかといったことが可視化されていきます。
 
CSDMとは、いわばServiceNowが推奨している最善の定義モデル、ベストプラクティスです。それに沿って構造を作りました。自社業務の棚卸しをした後、構造はServiceNowの定義に合わせて作りました。これは鈴木さんからの提案でした。

鈴木さんとはかなり議論を重ねました。鈴木さんが最もこだわっていたポイントは、「業務を支えているサービスを定義する際の解釈が合っているかどうか」。そこの定義が腑に落ちないと、何度も議論が必要になります。

鈴木 わかりやすい例で話すと、例えばGlicoグループの商品には「ポッキー」や「プリッツ」のようなお菓子だけでなく、アイスや加工食品もあります。アイスをサポートしているITサービスが止まったら、商品が溶けて価値がゼロになってしまいますから、お菓子と同じ定義であるはずがありません。

アイスや乳製品など、異なる性質の商品をITサービスが支えている場合、同じ業務でも商品の種類によってサービスレベルが異なるはずです。持てる在庫の量や期間も異なります。営業領域もあれば製造領域もある中で、どういうふうにモノが作られ、流れて行くか。その実態をまず明確にします。そして、ITサービスはどこに影響し、どういう単位で定義し、サービスレベルはどう違うのか。ITとしてどうサポートしなければいけないのかを考えます。

その全体像がしっくり来ない場合、コンサルタントとしては「おかしいですね」と申し上げるしかありません。
(以下の記事に続きます)

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