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【708回】住まい(ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」その4)

自分が今、立っていられる場所。
もちろん、座っても寝っ転がってもいい。心を休められる場所。
それが居場所だ。
生きるために必要なのは、居場所だと思う。まずは、居場所。最も、身近な居場所は、住まいであろう。

「ハウジングファースト」

90年代アメリカ。
施設からの失踪をくり返し、
長期に渡って路上生活を送る「慢性的ホームレス」状態だった人々に対し、
ある試みが行われた。
「安定した住まいを得たいか」
——問いはそれだけである。
得たいならば、住まいを提供。
そして必要に応じた本人のニーズに基づいた支援を開始——

柏木ハルコ「健康で文化的な最低限度の生活」12巻 p76-77

まさか、漫画でハウジングファーストに出会えるとは。
「ハウジングファースト」という言葉を初めて聞いたのは、ホームレス支援やオープンダイアローグで有名な森川すいめい氏の著作を通してだった。病気や障害、生活手段の確保し、収入を得てから初めて住まいにたどり着くのではない。
最初に、住まいから、である。

しかも、「住まいが得たいか」が大事だ。
相手の意志を尊重した支援になっている。

ところで、ガッサーン・カナファーニーは、書いている。

つまりね、人間ってのは、たいてい自分がある場所を得ると、”それじゃあ、どうする?”って将来のことを考えはじめるもんでしょう。何がいまわしいかって、自分に”それじゃあ”って先のことが、からっきし与えられてねえってことがわかったときくらい、無惨なことはねえですよ。気が狂うんじゃないかと思うくらい、うちのめされちまいますよ。

ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」 彼岸へ p172

まずは住まいから。そのはずが、いきなり住まいから奪われてしまった。
「住まいを手放してくれないか」
そのような問いかけがあるわけもなく。いや、あまりにも勝手な問いかけだが。

場所の不在が、彼ら自身の不在に繋がり、先の不在にいたる。
悔しい気持ちも消えていく。怒りか、もしくは、無感情か。




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