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【704回】なぜだ。なぜだ。なぜだ。(ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」その1)

何かを作り出す。書き残す。それが好きな活動なら、書き散らしたらいい。
読んできた本で気になった言葉と簡単にコメントを付ける。

「なぜおまえたちはタンクの壁を叩かなかったんだ……」
「なぜおまえたちはタンクの壁を叩かなかったんだ。なぜ叫び声をあげなかったんだ。なぜだ」
「なぜおまえたちはタンクの壁を叩かなかったんだ。なぜタンクの壁を叩かなかったんだ。なぜだ。なぜだ。なぜだ」

ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」 太陽の男たち p103

パレスチナ難民の家族。それぞれの家族から、3名の男性がイラクに集まる。隣国クウェートへ出稼ぎのために。正規の入国ではない。密入国だ。
密入国を手助けした運転手の叫びが、物語のクライマックス。
3名の男性は、国境を抜けるときに、亡くなった。
運転手が国境を出る手続きをしている最中に亡くなった。
本来、水を運搬するタンクローリー。水のかわりに、彼らが入っていた。
太陽は、タンクの内部の熱を高め、彼らの命を奪っていった。

運転手は繰り返し、叫ぶ。
3人は、タンクの壁を叩かなかったのか。叫ばなかったのか。
なぜだろう。

彼らは、助けを求める行為自体に危険を感じていた。助けを求めて、救出されても、そこは国境だ。助けられても、逮捕されるだけである。

3人の望みは、生きてクウェートへ向かい、稼いだお金を家族に送る。それだけだったから…。

だから、助けを求めることができなかったのではないか。

こんな過酷な状況が生まれた背景には、パレスチナ難民の発生とイスラエル建国がある。

パレスチナ難民であったガッサーン・カナファーニーの怒りが見えてくるようだ。
そのガッサーン・カナファーニーは、車に仕掛けられた爆弾により殺害されてしまった。

僕は作品を通して、彼の思いを想像し、関心を持ち続ける。祈る。
また恐怖感に襲われる。


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