IMG_7633のコピー

「アート×まち」な視点から見るべき、2019秋の中小規模の芸術祭9選+α

はじめに

ぼくが事務局長をつとめた茨城県ひたちなか市の芸術祭みなとメディアミュージアム(MMM)2019が終わりました。残務処理と見なかったことにしていた別仕事の山を眼前にして、クラクラしている昨今の田島です。

さて、MMMには毎年、多くの実行委員が加入します。その中には芸術祭なんて知らなかった、そもそもアートに興味がなかった、という人もいます。そのため他を知らないことで悩んでしまったり、辛い思いをすることもしばしば。事務局として実行委員の悩む姿を見ながら、中小規模の芸術祭の「プロ」としてやれることは、今行ける、今観ることができる、参加することができる「事例」を沢山教えることと考えました。「瀬戸内国際芸術祭」や「あいちトリエンナーレ」のような大規模芸術祭は美術手帖らへんに任せつつ、ぼくは「中小規模の芸術祭」に特化するいつものスタンスで参ります。

もちろんMMMの実行委員に限らず、色々な方々が秋の休日を楽しむ参考資料として、ご活用頂ければ嬉しいです。秋はやっぱり「芸術の秋」なので、観に行くにはちょうど良い季節なんですよね。

中小規模の芸術祭に関するお仕事のご相談・ご依頼は、いつでも受け付けています。芸術祭の運営相談からレビュー記事の執筆まで、何かありましたら、いつでもご連絡ください。中小規模の芸術祭の「プロ」として責任を持ってお仕事にあたります。こちらMRSのお問い合わせフォームでも、田島個人宛てでも大丈夫です。

1.中之条ビエンナーレ 国際現代芸術祭(群馬)

群馬県の芸術祭「中之条ビエンナーレ国際現代芸術祭」から始めます。「ビエンナーレ」なので2年に一度。今回の会期は8/24〜9/23。中之条地区の屋内外の様々なエリアに作品展示がされています(古民家や廃校での展示が多い印象)。作品数が多く、広域に渡るので、日帰りだと全部は見れないかな。。アップダウンも多く、ツアーバスの利用か、車で回るのがおすすめ(昔、徒歩で行ったら驚かれたことが…笑)。でも、それだけに満足度が高いです。MMM2019で出展していただいた植田爽介さんや、MMM2018で出展されて嘉春佳さんも出展されています。

この芸術祭、「アートで町おこし」文脈では割と有名です。というのも「低予算で集客に大成功した芸術祭」だから。中之条町の予算を見ると開催年で2000万円、非開催年で1000万円。それでここ数回は数十万人以上の来場者が来ています。瀬戸内国際芸術祭や越後妻有はそりゃ人は来ているけれど、数億円以上の予算をかけてるからできるのは当然。都内からも特急一本で行けるというメリットもあるけど、それだけじゃない芸術祭マネジメントの「ウデ」を感じます。

画像2

前回の中之条ビエンナーレは視察として伊参スタジオを中心に行きました。展示だけではなく、中之条町ふるさと交流センター「つむじ」や「伊参スタジオ」の活用のされ方も面白い。アート好きはもちろん、地方政策の勉強としても、行く価値は十分にあります。

画像3

画像4

ちなみに中之条は蕎麦の名産なんで、蕎麦好きは絶対食べてください。

画像1

2.逗子アートフェスティバル2019(神奈川)

関東北部の次は南部、ということで神奈川県は逗子市のアートフェスティバル。会期は10/17〜27。中之条ビエンナーレよりも芸術祭感は薄く、どちらかというとワークショップが多く開催されています。

逗子アートフェスティバルの「ZAFからのメッセージ」が象徴的ですが、実はこのアートフェスティバル、行政からの予算支援を受けていません。逗子市の財政が危なくなり、多くの公的事業に予算がつかなくなったのです(そして、その決断をした当時の平井竜一市長は落選)。

昨年(2018年)、逗子市の緊急財政対策の影響により、行政からの金銭的支援が0円となったことで、ZAF開催は一旦白紙になりました。しかし、2017年の総合プロデューサー兼ディレクターshibaが、せっかく続いてきたZAFをなくすのは良くない、ピンチはチャンスと捉え、新生ZAFを担う「逗子アートネットワーク(ZAN)」の発起人の一人となってZAF2018の開催に奔走しました。インターネットや地元の声掛けにより、開催資金はクラウドファンティングで200万を集めるなどし、最近移住した若いファミリーや逗子以外の地域からの参加者なども含む市民の力で、ZAF2018は無事開催し、終了しました。

上記のメッセージにもありますが、クラウドファウンディングで200万円以上を集めることで、無事イベントを開催できたのです。中之条ビエンナーレが公共側からのグッドプラクティスとするならば、逗子は民間側からの成功事例と言えます。他にも、総合プロデューサー・ディレクターの柴田"shiba"雄一郎さんが中心となり、色々と仕掛けている印象です。

逗子に行くなら併せて、カフェやバーも併設する小さな映画館「シネマアミーゴ」も行きたいところ。この記事が良いかな。良質の映画をセレクトしてくれる映画館です。SFC時代はたまに行ったなあ。

3.黄金町バザール2019

もう一つ神奈川ということで「黄金町バザール」。横浜市中区黄金町〜日の出町エリアで開催される芸術祭で、毎年開催されています。今年の会期は9/20〜11/4。出展作家は国内外から15組。黄金町バザールは予算規模も結構あるため、紹介するか悩むところだけど、地域の生活とともにある「あり方」がとても好きなので紹介しちゃいます。

舞台となる横浜市中区黄金町〜日ノ出町エリアは元々は違法売春街でした。それを壊した後、大型ショッピングモールなどではなく、アートを用いたまちづくりは、成功事例として有名です(批判もありますが今回は省略)。黄金町全体を黄金町バザールの運営団体の「黄金町エリアマネジメントセンター」が管理しており、今では、展示場所やコミュニティスペース、アーティストのためのレジデンススペースはもちろん、カフェやバー、本屋なども併設する良い雰囲気の街になっています。とはいえ、まだまだ周辺は良い意味で猥雑な街並。複数人で町歩きを楽しんでも楽しいと思います。

下記は4月にMMMのミーティングで使った時の写真。大岡川にうつる桜がきれいでした。過去のMMM参加作家の木内祐子さんがちょうど滞在していたのでお話をしたりもしました。

画像5

画像6

今回の黄金町バザールのテーマ「メナジェリー」は「manage」を語源とする動物飼育舎のこと。新しいアートマネジメントのあり方を示そうとする、キュレーターたちのメッセージも伝わる。アートマネジメントを生業とする者として、なんとか行きたいところ。

4.赤平アートプロジェクト(北海道)

一気に北海道まで飛んで、北海道赤平市の中小規模の2004年から続く芸術祭「赤平アートプロジェクト」を紹介。会期は9/17〜10/14。土日祝のみ開催。道外の人になるべくわかりやすく伝えると、赤平というのは札幌から特急利用で80分(うち特急乗車時間50分)ぐらいで行けます。偶然札幌出張が入った人がいたらちょうど良いかもしれない。

赤平、というのは産炭地だった場所で、赤平アートプロジェクトも炭鉱の記憶をテーマに続けて来た芸術祭です。会場も住友赤平炭鉱の旧坑口浴場(炭鉱労働者のための浴場)と隣の炭鉱遺産のガイダンス施設。

画像8

IMG_7633のコピー

画像10

近くには立坑跡もあります。北海道の炭鉱遺産をアートを通して知るにはちょうど良い機会でしょう。札幌市立大学の同僚の上遠野敏先生が中心人物として関わっています。

画像9

ちなみに赤平は帯広文化の影響も受けている地域です。何が言いたいかというと、豚丼が美味しいです。

画像11

5.都筑アートプロジェクト

さて神奈川に戻って「都筑アートプロジェクト」の紹介です。横浜と言っても都筑というのがなんとも渋い。そして、ウェブサイトを見たらわかるんだけど、とても緩い。本展は11月に開催とのこと(詳細不明笑)。それに先んじて"「田んぼの向こうのこどもの国」リサーチ展"を、9/14から16日にかけて「art space 赤い家」(横浜市緑区長津田2-46-13)で開催とのこと。

検索しても、今年の情報がなかなか出てこない。古い「都筑アートプロジェクト」のサイトが出て来てしまう。だけれども、それが良い。だけど、それだけじゃ困っちゃうと思うので笑、FBページのリンクを載せておきます。比較的、更新されてるので、参照しやすいかも。

6.対馬アートファンタジア

恥ずかしながら、実は最近初めて知った芸術祭。2012年から毎年開催されている。会期は8/31〜9月29日で、火曜日が休館日。対馬は長崎県と韓国のちょうど間にある島。日韓関係や円高円安の影響によって、激しく状況が変わる地域での展示ということにとても興味が湧きます。

継続作家がとても多い印象が特徴と言えるでしょう。激しく変わる地域と、変わらない出展作家のコントラストがどうなるか、個人的にはとても気になります。また、写真家で多摩美術大学教授の湊千尋氏が出ている点もやや注目しています。

7.引込線

埼玉県所沢市の芸術祭「引込線」も長く続いてくれていて嬉しい。今年は<引込線/放射線>と名称変更していますが、2008年に始まった「所沢ビエンナーレ美術展<引込線>」が前身です。

「2019年9月8日より(中略)7ヶ月に及ぶ」とあるけれど、ウェブサイトを熟読すると断続的に展示が続く形式のようです(現在決まっている展示は、第19北斗ビルの展示は9/8から10/14、旧市立所沢幼稚園の展示は10/12から11/4とのこと)。

特徴は毎年、アーティストだけでなく「書き手」(名称は「論考執筆者」だったり「参加執筆者」だったりまちまち)も参加する点が挙げられます。ただ、今回はアーティストと「書き手」を分けず、参加者とだけ表記していて、ここにも何らかの意思が感じられます。時期も長いし、なんとか行ってみたいところです。

8.はならぁと

関西のネタを二つほど。まずは奈良の芸術祭「はならぁと」。会期は9/27から翌年の2/11まで、断片的に続きます。ぼくが定期的に出展している「木津川アート」と開催地域も近いことから友好関係にあるらしく、関係者から話をよく聞いていました。

今年は、ゲストキュレーターによるメインプラグラム「はならぁと こあ」、運営団体による「はならぁと ぷらす」と「はならぁと あらうんど」により構成されています。ゲストキュレーターの選定は毎年、ネームバリューで選ばず、センスが良い印象を受けます。今回のキュレーターは舞台美術家の渡辺瑞帆さん。

会場となる「宇陀松山」「橿原八木」「橿原今井」「柳生」「吉野町上市」はどれも風情のある街並み。芸術祭のみならず、街歩きも楽しめそう。

奈良県のサイトには下記のように書かれていました。来場者増だけでなく、こういうところが評価されている、というのは他の中小規模の芸術祭にとっては参考になるはず。

会場となる空き町家は、会期中の短期的な使用であることから、オーナーの心理的な不安や抵抗感が少なく、本格的な利活用のきっかけとなっています。また、空き町家の利活用を検討している人にとっては、気軽に建物内部を見ることができ、空き町家の利活用に対するイメージが湧きやすくなると考えています。さらに、「はならぁと」会場となる空き町家を、実行委員会をはじめ、アーティスト、サポーター等が一緒に大掃除を行うことで、オーナーの負担軽減とともに、地域内外の人との交流促進にもつながっていると考えています。これまでに、過去8年間の開催を通じて、「はならぁと」会場となった空き町家が住宅や店舗等に利活用された事例が40件、地域の若者による新しいまちづくり団体の誕生、所属メンバーの高齢化が進む既存のまちづくり団体への若い女性の加入など、まちづくりに関する様々な効果を生み出してきました。

9.学園前アートフェスタ2019

もう一個関西。近鉄奈良線の学園前駅周辺で2015年から開催されている「学園前アートフェスタ2019」。会期は11/9から16(11/11は休館日)と、一週間なので気をぬくと見逃してしまいそう。招聘作家12名+公募枠作家8名の計20名による展示。アートディレクターは宝塚造形芸術大学(現・宝塚大学)卒の斧田唯志さん。

こちらも芸術祭の開催内容・目的を熟読すると多世代交流がミッションということがわかり、とても興味深いです。現在は「中小規模の芸術祭」というと、古い田舎町でレトロな古民家みたいなのがポピュラーだけど、順繰りに行けば次はこういった一昔前の「ニュータウン」が舞台となると考えています(もちろん今までニュータウンを扱った芸術祭は存在します)。

宅地開発から60有余年を経過した今日、高齢化が進むと同時に、新たに若い世代が移り住み、地域や世代間のコミュニケーションは希薄化し、合わせて、空き家の増加、環境の荒廃など良好な住環境を保つことが難しくなりつつあります。これを何とかしたいとの思いから、2015年に地域に住み暮す人々が、地域の魅力を見つめ直し、積極的に世代交流を行うことで街を育てる「街育」の推進が必要と、「学園前街育プロジェクト実行委員会」を立ち上げました。

おまけ.桃源郷芸術祭2020

最後に茨城県北茨城市の「桃源郷芸術祭2020」。なんで「おまけ」かというと会期が2020年1月11(土)〜1月19(日)とまだ先だから。じゃあなんで取り上げるんだよ!というと、ちょうど作品企画募集中だから。募集期間は9月23日まで。興味のある作家さんはぜひ。15万円の滞在制作補助も魅力的。

いつもお世話になっているローカルメディア「ココロココ」さんでは、コーディネーターの都築響子さんのインタビュー記事があります。

MMMにも絡んでくれて嬉しい。もっと絡んでくださいね笑

今回紹介する芸術祭は以上です。

他にもたくさん芸術祭知りたいし、取材なども(比較的格安で)受け付けていますので、ぜひ気軽にご連絡いただけたら、嬉しいな、と個人的には思います。記事を読んでなんとかく感じると思うけど、一つ一つの作品だけではなく、芸術祭全体の位置付けとか、街への貢献とか、そういったところにも重きを置いて記事を書けると思います。

今日の有料ページは、中小規模の芸術祭の魅力について、ちょっと気軽に語ります。600文字程度なので、本当に寄付だと思ってください。結構交通費かかる仕事なので笑、よかったら寄付してください。

ここから先は

747字

¥ 300

頂いた支援は、地方の芸術祭や文化事業を応援するため費用に全額使わせていただきます。「文化芸術×地域」の未来を一緒に作りましょう!