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災害後の暮らしに必要な知識と、プライマリーヘルスケアアプローチ #後編

災害後の暮らしに必要な知識と、プライマリーヘルスケアアプローチについて。
岡本正先生 x EpiNurse代表理事神原咲子 対談、後編でございます。

前編から、ぜひご覧ください

中編

隠された課題

暮らしの内容や話の中で健康の事を聞くと、私たちは知らず知らずのうちに「健康や体調は別に悪くない」とか、「落ち込んでる理由はわからない」って言ってしまいますが、その奥には隠された課題がある。

でも、このアセスメントに今後同定したところで、聞えが違うとまあ出てこないっていうのも、もちろんあります。

本当に今後AI等々考えて、例えば匿名の中で、このナラティブなところから重要な情報が出てきて、それを取りこぼしちゃ駄目だと思っているんですよ。

やっぱりアセスメントでチェック項目だと、取りごぼされると思ってます。

例えばたばこ吸ってますか?吸ってません、ってもう拒否反応的に回答するみたいなものでですね。
やっぱり答えたくない項目には、もうNOって勝手に言ってしまう。あんまりアセスメントも意味も無いなと思っていたりします。

この辺の情報収集や発信の整理をするとですね。
情報の人たちと一緒に取り組みたいなと思います。
岡本先生も色々なところでワーキンググループに今かかわり始めてられるとの事で、一緒にやっていけたらいいなと思いますね。

その時は特に、個人情報が本当に出せるのかっていうところを、ぜひ一緒に考えてもらえたらって思っています。

専門家共通の支援フォーマット


岡本先生: 
ありがとうございます。被災地での被災者を対象にしたアンケートやアセスメントにも課題があります。
せっかくの情報が管理不十分のために眠ってしまったり、あるいは他の専門家では流用して使えない情報になってるのはもったいないです。

例えば「自宅がどういう被害にあったか」というような共通項目が、あらゆる専門家で事前共有できることが理想だと思います。
何度も同じ話をさせてしまって、心の傷を負わせることもなく、本来の支援情報を提供できるようになるかもしれません。

個人情報保護法上の問題などもクリアしながら、専門家共通の支援フォーマットが作れたらと思っています。

役に立つ情報は井戸端会議

神原先生:
 やっぱりナラティブな所や、トップダウンの公助によりアセスメントをとると、人々は災害時に移動してるという事に気がつかないっていう事がありますね。

一番災害時に役に立つ情報は井戸端会議的なところでぽっと出てくる声だっていうふうに思っています。

しかしこれが問題なのは、その声を聞いた人がそれが重大である事に気が付けないもったいなさだなと思っています。

それは、信頼関係と本当に身近にないと聞こえない声なので、それを
どのように聞いていくのかを、これから考えていければと思います。

むしろそこを他人に発さなくても、セルフケア的に、考えて行くきっかけの仕組みを、私たちが本などを通じて予防としてのガイドブック的にナビゲーションできる。
公助の部分に声をあげていく事ができる仕組みがある。

この事がボトムアップ的には大事かなと思います。

岡本先生: 
まさにその通りだと思います。
アセスメントの整備は、災害後のお金の支援ですとか、住まいの再生に役立つしくみなど、せっかく既にある公助にたどり着くための前提条件の整備にもなると思います。

神原先生:
先ほどの適正技術の中で言うと、個表がうまく災害時がオープンにできるということも含めて、使っていければいいねと、一昨年頃から話してたかなと思います。
これは情報の人たちと話をしたいし、そうなるとおそらく個票の項目はまた変わってくるんじゃないかなと思います。
A4一枚の中で、もっとも重要なポイントはそこなのかと常々思っています。

ですので、やはり適正技術の使用や、今後は他のセクターとの協調のようなことをやりたいなと思っています。
今、岡本先生の方で、されていることをお話していただけますか。

災害ケースマネジメント

岡本先生:
災害ケースマネジメントには、健康支援の概念も含まれています。
また、企業の事業継続戦略にも役立つのが災害ケースマネジメントです。

企業において業務を担う職員が被災したままでは、企業全体の事業継続もままなりません。
企業の職員ケアのためにも、ひとりひとりに生活再建のための情報を提供したり、生活再建状況にコミットすることが企業価値を支えるのではないでしょうか。

災害後には情報が届きにくい環境になります。
政府などから発信される支援情報が多すぎるのです。

例えばいろんな省庁が公的な良い情報を沢山発信します。
私は東日本大震災の時に内閣府に出向中でしたが、当時分析しただけでも、全省庁では半年間で約2000通以上の災害関連の事務連絡や通知が発信されていることがわかりました。
正確な数が分からない程の色々な情報が飛び交っていました。

従って、良い情報であっても市民に届く前に情報洪水の中に消えて知ってしまうのです。
災害時はいい情報が逆にあふれてしまって、ピンポイントに皆さんが認識できないわけです。

もう一つの課題は、我々伝える側も知らない知識が多すぎたのです。

災害時に利用できる制度がたくさんあって、それは先人たちが作ってきたのに、なかなか法律家にも共通知識として浸透していなかったのです。
だからこそ、伝えるためのノウハウも、悩みを聞き出すためのノウハウもなかったりするケースもあります。

企業が職員のために情報の整理をになってくれたら、大きな支えになると思います。

話は変わりますが、健康とは、WHOが述べるように、「完全な肉体的、精神的、および社会的福祉の状態」で初めて健康です。
すごく良い定義ですね。
良好な社会的福祉が実現されているということは、経済困窮に陥っていないということでもあります。

そう考えると、やはりくらしの再生ができない方は、健康とは言えないのです。
それが精神的・肉体的健康ともリンクしていると思います。

ですから、災害看護の中でも、「被災者の生活再建のための制度や法」をテーマに学ぶ機会を増やしていただきたいと願っています。

2021年3月に看護職の倫理綱領に新しく「16 看護職は、様々な災害支援の担い手と協働し、災害によって影響を受けたすべての人々の生命、健康、生活をまもることに最善を尽くす」という項目が加わりました。

この、災害時の「生活を守る」というキーワードに注目しています。
災害看護やヘルスケアの文脈の中で「お金とくらし」の支援が重要だと認めていただいたわけです。

生活を支える制度の根拠は全部「法律」にあります。この知識は法律家にとっても必要ですが、看護職の先生方にも必要である事が強調されたと思っています。

2021年の4月から日本福祉大学で「災害復興のための制度と法」という講座が開講されています。
社会福祉士を目指す方向けのカリキュラムに災害復興法学の観点を取り入れることができました。

このような講座を、災害看護、医学、消防関係者などの専門職向けの講座に展開していくことを目指しています。
神原先生の先ほどのお話に対する私なりの答えとしては、災害復興法学の知見を災害看護に入れていく活動があると思っています。

レジリエンスは「しなやかさ」

また、「SDGS」については、私も常に意識していています。私が意識しているのは、2つの項目です。
11番の「住み続けられるまちづくりを」と13番の「気候変動に具体的な対策を」です。これらに共通するのは「レジリエンス」という単語が使われていることです。

レジリエンスというのは、「強靭化」とよく翻訳されていますが、イメージとしては「しなやかさ」のほうが良いと思います。
災害で人間が被災してしまった時に、人間の生活の再建を目指す。
これは「しなやか」に生活を取り戻していくことなのだと思います。

レジリエンスは、「個人の生活再建」を含むと考えれば、災害対策にぴったりの言葉になります。法律の知識が災害時にいかに役立つかという事を学ぶことは、「SDGS」に根ざしたものであるということも強く発信していきたいと思います。
今回、神原先生の目指す「健康」の分野と「法律」がうまく交差したのではないかと感じています。

神原先生: 
最後のレジリエンスっていうのは本当に今キーワードだなっと思っていて。
私の分野ではヘルスレジリエンスという言葉もあります。
やっぱり特にメンタルヘルスの部分も含めて、災害時、先ほどお話しした通り免疫力つけとかなきゃとかタイムマネジメントしっかりしとかなきゃっていうのが、まさに防災に繋がるっていうところは同じだなと思っています。

岡本:
住宅ローンを免除できる制度(被災ローン減免制度:自然災害債務整理ガイドライン)を知らないがゆえに、何か月も何年もずっと悩み続けて家を失ってしまうというエピソードも聞いています。
災害時に知識があるかないかが、「レジリエンス」を分けることになったのです。「ヘルスレジリエンス」の概念は生活再建分野と同じ概念だといえますね。

神原:
その研究がヨーロッパでははじまっています。
コミュニティレジリエンスという言葉にもなってイタリたり、そこにはリーダーシップがいるよね等。
またその辺も一緒に研究や勉強ができたら面白いですね。そこに新しく出てきてるテクノロジーを少し入れると一気にそれが解決する等、今後向かっていると思うので、いろいろ楽しみだなと思っています。

次回は基礎教育的なところからまた話ができればな思っています。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。


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