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【小説】ライトに照らされて

「何にでも成れる」という青天井の希望は、
「未だ何者でもない」という底抜けの絶望と
共存関係にある。多分。知らないけど。


「シュンさ、俺と動画撮ってみねぇ?」

空翔と書いてソラと読む、
彼の一言で始まった2人の投稿は

1ヶ月の後には校内中に広まり、
3ヶ月が経った頃には教員もが授業の話題とし、

半年が過ぎるとどこへ行っても
大概誰かのスマートフォンの画面に映り込むまでに
なっていた。

自身の発信方法が多様となった現代では
誰もが一躍スターになる方法が溢れている。
それも、短い間に。

美濃空翔と速水俊助の2人は正しく、
現代を象徴するトップ・スターである。

きっかけは文化祭実行委員としての
2人の司会進行が非常に上手かったことと、
友人がアップロードした有志でのモノマネだった。

動物、芸能人、歌手、アイドル。
2人のレパートリーは多様で、
しかもそのどれもが誰もが知るものだった。

SNSの広告に2人の動画が取り上げられるや否や
口コミでも拡散し、あるネットでの検索数ランキングは
活動開始たった4ヶ月で1位を獲得した。

一躍時の人代表となった2人だが、
進学校に通いながらの活動は
受験との兼ね合いも悩みの種となる。

外を歩けば写真を求められる頃には
3年生の0学期だぞなどと脅される時期に入っており、

しかし暫しの話し合いの末、
事務所に所属し動画クリエイターとして
活動することをその2ヶ月後には決定した。

幸いこの決定に反抗する親を持たなかったことは
2人のキャラクター性や所属していた部活動から
火を見るよりも明らかであったが、

さらに幸運なことにはその宣言を
バラエティ番組で出来たことにあった。

人気MCの

「え、じゃあ君たち2人はこれからどうするの?」

に対して、

「どこかの事務所さんの方と契約させていただいて、
卒業後はこの活動を続けさせていただこうと
思ってます。」

と放映されると、その日のSNSのトレンドには
「シューターズ所属事務所」
「シューターズ活動続行」が急上昇した。

因みにシューターズは彼らのユニット名であるが、
放映時には既に正社員となる基盤が固まっていたのは
想像に難くない。

斯くしてその約1年後、無事に2人は高校を卒業し、
その頃には支持者を凡そ43万人にまで増やしていた。

ユニット名を頭にアンチの集団が
「モノマネやらなくなった」「ウザい」「つまらない」
「高卒」「バカ」などを検索するようになると、

事務所の方でも今がチャンスと
タレント業や楽曲関連の仕事を持ち出すようになり、
更に信者は増えていくこととなった。

更に自宅の特定や殺害予告の手紙等、
物騒なものが届いても最早気にしなくなるどころか
動画のネタとして扱い始めると、

無くなった恐れはとうとう禁断のネタへと
手を出させた。解散騒動である。

これにはファンの他に、何だかんだ生活の糧にしていた
アンチも反応し、遂にはメディア各社も
動くこととなった。

結局嘘だったことを公開すると
炎上系としての一面も見せだすこととなるが、

結果として世間で更に名が知れ渡ったこと、
ファン数と動画再生数が皮肉にも増えたことを考えれば

最初からそれが狙いだったという眉唾物の情報も
信憑性を増し、いつしか正しい説として
広まっていった。

こうして3年程の歳月をかけ築き上げてきた2人の足跡は
現代の生き方を示すこととなったのである。


「…はぁ…。」

高校時代にデビュー前の
シューターズの動画を上げた私は、
最早2人の友達ではない。

周りに茶化されても女だって友達だ、って言ってくれた
シュンもソラも、もう遠くの存在になってしまった。

「俺さぁ…な?分かれよwwwww」

シュンから私への、最後の言葉。

「売れてんだからお前みたいなのは邪魔なんだよ」

っていう言葉を出してもいないのに含んだ、
あの嫌な顔。

ずっと好きだったシュンへの告白は、
3人の写真データと一緒に無かったかのようにした。
ううん、データどころか馬鹿やってた思い出も。

(…なんでかなぁ…。)

今もなんでこんなに大嫌いなのに好きなのか、
自分でも分からなかった。

パチンと部屋の電気を消して、
遠く、遠く。

何にでも成れる希望を示した彼らを思って
天井に伸ばした腕を、

未だ何者でもない絶望を抱えた女子大生である
私の頭の上に、ポトリと落とす。

元友人2人の放つブルーライトを落として、
私は底が抜けたかのように重く沈む夜に
惰眠を貪ることにする。

創作の原動力になります。 何か私の作品に心動かされるものがございましたら、宜しくお願いします。