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「和栗を世界へ」はじまりの地での植樹祭、持続発展型事業に向け参画企業で連携を

「生産者が減少している掛川栗のために連携できないか」。
 
そのようにJA静岡経済連から寄せられたひと言から、本プロジェクトは始まった。静岡県掛川市は県内有数の和栗の産地であるが、2004年をピークに5分の1にまで生産量が減ってしまっていた。
 
その最大の理由は、後継者不足。大きさも味も上質な掛川の栗だが、その価値が販売価格に反映されづらいようだった。
 
こうした農業の構造的な課題に取り組むべく、2022年7月に遠州・和栗プロジェクトが立ち上がった。遠州地域を中心とした有志企業の連携を得て、2年目を迎えてさまざまな取り組みが形になろうとしている。

その始まりの場所、オールジャパンの原点として、2023年11月13日(月)に植樹祭を開催した。本記事では、当日の様子をレポートしていきたい。

地域で取り組む持続型発展事業、志の樹を植えよう

ここは、掛川市にある早川栗園。そのオーナーである早川正實(ハヤカワ マサミ)さんの行進で、開会式が幕を開けた。早川さんは、後進の育成にも力を注ぎ、JA掛川市で栗部会  部会長も務めてきた産地の立役者だ。
 
お父様から受け継ぎ、大切に守ってきたという栗園でこの日、志をともにする17社と苗木を植樹する。
 
日本中の産地をつなぎ、日本の栗を「WAGURI」ブランドとして海外に発信しよう。そうして「WAGURI」が持続発展的な産業として未来に続くように、と願いを込めて。

そのために、遠州・和栗プロジェクトでは、遠州地域にゆかりある製造業からも協力を得ている。この日も4社の次世代モビリティメーカーが作業支援ロボットを提供してくれた。
 
栗の苗木を載せながら、早川さんの姿を追いかけ自動で走行してくる。技術協力に応じてくれた4社とは?

1社目は、自動車メーカーのスズキ株式会社。同社が走らせるのは、マルチワーク可能なロボット台車「モバイルムーバーだ。農業ベンチャーである株式会社エムスクエア・ラボ(所在地:静岡県牧之原市)との共同開発により、農業の課題解決に取り組んでいる。

エムスクエア・ラボ(同社子会社のやさいバス株式会社)の皆さんも

スズキ製の電動車いすの車体が、足元の不安定な場所での走行にも活用できるという発想から開発が始まった。農地での運搬作業にとどまらず、栗拾いなどさまざまな作業場面で活躍が期待されている。

続いて、株式会社ソミックマネージメントホールディングスのグループ会社である株式会社ソミックトランスフォーメーションが展開している、自律走行ロボット「SUPPOT(サポット)が登場した。
 
グループ会社である株式会社ソミック石川の自動車の足回り部品を手掛けてきた知見を生かし、高い走破性を実現している。悪路や傾斜などの不整地走行を得意とし、最大で100kgまでの荷物を積載できる。遠隔操縦から自動追従、自動運転まで可能。買い切り型のほか、レンタルでも提供している。

そして、コンセプトロボットの「Kamekichi(カメキチ)」を披露いただいたのは、不整地における重労働解消に取り組むスタートアップ、株式会社CuboRex(キューボレックス)だ。浜松市にも営業所を置き、スマート農業の実現に取り組む。
 
キャタピラータイプであるため、とくに凸凹のある土地でも車体が乗り上げることなく安定的な走行が可能だという。低重心であり、350Kgまでの荷物を載せて走る。タブレットにマップを表示しタッチペンで軌道を描くと、描いた道のりに沿って自動で走行するなど自律走行等の実装を想定し、開発が進められている。

遠州・和栗プロジェクトにおいて、地域の製造業各社と連携する理由はどこにあるのか?
 
それは、栗農家の後継者が不足する要因に、生産上の苦労があるからだ。おいしい栗を収穫できるまでに、防除や枝葉の剪定、収穫、選果など身体的な負担の大きい作業が少なくない。収穫期には朝・晩と2回の収穫作業が連日つづく。そして、雨の日も作業を休むことはできない――。

栗農家の後継者不足は、栗を食材として扱う私たちにも責任があるのではないか。和栗の産地を訪れるごとに、農作業の省力化や自動化、農法の研究などを進めていく必要性をひしひしと感じるようになった。
 
おそらく、これは遠州・和栗だけの課題ではなく、日本の農業における課題といっても過言ではないのだろう。この難題に向き合うため、地域製造業の力添えが欠かせない。
 
そこで本プロジェクトでは、グローバル企業と個性あるローカル企業との共創体制を築いてきた。
 
植樹祭の実行委員を務めるヤマハ発動機株式会社の齋藤 昭雄 さんも、地域における製造業同士の連携を重要視する。次のように挨拶を述べた。

この日は特別に栗の被り物で

私は日ごろロボティクス事業部に所属し、中小の製造事業者さまに向けた工場の省人化・自動化支援を行っています。2022年の当初から本プロジェクトにお声がけいただいたのも、そうした役割を期待されてのことだと感じています。
 
人手では大変な農作業のサポートを通じて、農業の魅力化向上を図っていけたらと思います。そのために、今日は遠州にゆかりのある次世代モビリティメーカーの4社にもお越しいただきました。
 
技術力あふれるメーカー各社と協業していくことで、遠州・和栗の課題解決にお力になりたいと思うとともに、地域の農業生産者さまやメーカーの皆さまにとってグッドニュースになれたらうれしいです」

栗づくりを通じて、人と産業、人と自然、人と人のつながりが育まれることを期待したい。「WAGURI」を世界に誇れるブランドにするため、生産者・行政・民間企業が共通の志のもと積極的な成長を追い求め、挑戦していけたらと願う。

写真右、藤川さん

本プロジェクトも2年目を迎え、JA掛川市への栗の出荷量や和栗の栽培面積も少しずつ増えている。JA静岡経済連の藤川さんも、「今年度は、栗の木にして300本、面積にして70アールの新植が増えました」と成果を発表した。

「2023年度の数字が、将来に向けて2倍3倍と増えていくことを期待しています。和栗の新植を毎年200本ずつ増やしていき、10年後に生産量ベースで30トンを目指しています」と決意を語った。

さぁ、全員で未来の苗を植えよう。100年先へとこの想いが続いていくように。2年目にして、はじめて植樹祭の日を迎えられたことに感謝をしよう。


参画企業の全員で苗木を植え、ネームプレートとともに志を立てた。そして、この場所が遠州・和栗プロジェクトの未来につながる“はじまりの地”となった。

滑り止めに栗のイラストをあしらった軍手

掛川が「WAGURI」のはじまりの地になった背景

遠州・和栗プロジェクトは、掛川を起点として全国の産地と心をあわせ、「WAGURI」を世界に発信していこうとする活動、そして仕組みだ。

おいしい栗が収穫できるまでに月日がかかる栗だが、せっかく収穫しても虫食いや割れなどで半分ほどが廃棄になることも少なくないという。和栗の生産1つとっても、持続可能な仕組みが求められている。

地元企業の叡智を集め、生産や収穫作業の機械化・省力化を進めたい。そのように作業負担を減らしながら、おいしいものにふさわしい対価を支払うという好循環もつくる。

ゆくゆくは全国各地の和栗の産地をつなぎ、海外に向けて高品質な日本の「WAGURI」を発信していきたい。遠州・和栗プロジェクトでは、そんな「持続発展型」の事業を構築したいと考えている。

なお、静岡県内の「栗部会」はJA掛川市にしかないそうだ。そして、その部会長を務めてきた第一人者が早川さんだ。

だからこそ、この場所を種地として、取り組みやコミュニティが全国に広がっていくことに期待したい。産地間が競争するのではなく、共創によって和栗を復興するために。

そして、日本の農業が「持続発展型」の事業になっていくように。浜松いわた信用金庫の協力を得て、50本の苗木が植えられることとなった。

浜松いわた信用金庫 理事長 髙栁 裕久 様

この場所がまさに志をともにする場所であるということで、本日苗木を50本ご提供させていただきました。
 
掛川をはじめ『WAGURI』を世界に発信しようという壮大なビジョンに感銘を受け、地域の企業の仲間入りをさせていただこうと参画しています。植樹を経て改めて、参加企業・団体の皆さんと本プロジェクトをご一緒させていただきたいと思いを強くしました。

桃栗3年と言われるように、この事業を継続していくためには、地域の皆さんとじっくり本プロジェクトに取り組むことが重要だと思います。立派な栗が生るよう祈っております」
 

掛川市 久保田 崇 市長

「こんなにも多くの皆さま、心強い企業・団体さまに集結していただき、開催地を代表して掛川市として心から感謝申し上げます。

皆さんの力をお借りして、遠州を盛り上げていきたい。和栗を世界中に広めていきたいと考えています。引き続きご支援ご協力をよろしくお願いいたします」

 

「WAGURI」が格別の味になる、FALOPARTYで懇親会を

植樹で想いを一つにし、続けてFALO PARTYで親睦を深めよう。FALO(ファロ)とは焚火のこと。丸太に切り込みを入れて燃やす「スウェーデントーチ」に点火して、総勢120名があたたかな時間を過ごした。

この日の料理のために、静岡県バーベキュー協会に出張していただいた。今年採れた掛川の和栗を使った何ともぜいたくなメニューを考案してもらった。
 
●     ワンポンドビーフステーキ 和栗バーベキューソース
クラッシュした和栗をトッピングした同協会特製のソースでいただく
●     スモークバジルチキン&タンドリーチキン
浸水させた栗の葉でスモーク。栗独特のよい香りがつき、チキンの表面も茶色く照りが出る
●     炭焼きピザ
焼きたてのピザにもチーズと和栗をトッピング
●     マシュマロのスモア
焼いたマシュマロとチョコレートをクラッカーやクッキーで挟む「スモア」をデザートに。クラッシュした栗とチョコソースで

あますところなく栗を使いたいとの想いから、炭火の着火に栗のイガも使っている。ほかにも、早川栗園という素敵な場所で参加者同士の会話が盛りあがるよう、食器や照明などの演出にも凝っていただいた。

さらに、スズキは軽トラ市スタイルで焼き栗を提供。10Kgの焼き栗がたちまち皆さんの手にわたっていった。

遊び心を大切にする春華堂。皆さまにお集まりいただく貴重な機会だからと、企画にはつい熱がこもってしまった。

本プロジェクトの様子を陰で見守ってきた代表取締役の山崎 貴裕からも、この日はメッセージをお伝えさせていただいた。

「ここにいる皆さまとともに、さまざまなことができると改めて再確認させていただきました。私たちはお菓子の製造会社ではありますが、和栗を使って世界に通用するような商品を開発し届けていけたらと思いますし、和栗の復興ができるプロジェクトだと思っております。100年先の未来を実現できるよう、皆さまとともに一歩ずつ進んでいけたらと思います」
 
続けて、植樹をしていただいた全16企業・団体の皆さまに、植樹祭を終えた感想や今後のビジョンを語ってもらった。なかでも経営トップにお越しいただいた4社のメッセージを抜粋して紹介したい。

日本航空株式会社中部支社 支社長 崎原 淳子 様

「春華堂さまにはコロナ禍で商品開発をご一緒させていただいたご縁から、本プロジェクトにお声がけいただきました。実は弊社では、非航空事業にも力を入れております。その1つが、地域の魅力を掘り起こし旅の需要につなげる『JALふるさとプロジェクト 』です。

航空会社として、地域や一次産業が盛り上がるお手伝いができるのは光栄な機会です。私たちに何ができるかという点については、これまでの経験を生かした栗商品の共同開発をはじめ、情報発信のお手伝いをさせていただくことで、遠州に足を運んでいただくきっかけをつくっていけたらと思っております」

株式会社遠鉄百貨店 代表取締役社長 後藤 毅彦 様


写真真ん中、後藤様

「2023年11月1~7日にかけて開催した栗フェア(※)は、春華堂さんが掛川栗を使った新商品を出品し、日本航空の皆さんにも販売応援へ来ていただき、お陰さまで大変好評でした。こんなにもたくさんの方が『栗』というキーワードに反応してくださるとは弊社にとっても驚きで、改めて本プロジェクトに対してできることを考える機会となりました。

まずは、遠州・和栗に対する地元の認知度を上げることから取り組み、全国に紹介していけるようにしていけたらと考えています。というのも、近年は地方の百貨店同士が提携し、お互いの地元の名産品を取り扱う例が増えているためです。

今日は、和栗はスイーツ以外にもさまざまな使い方があることを学びました。地域の価値あるものを発掘し、発信していくことが私たちのミッションであると再認識させていただきました」

※栗フェア開催の様子は以下の記事よりご覧いただけます。

ヤマハ発動機 執行役員・ロボティクス事業部長 江頭 綾子 様

「コロナ禍が明け、弊社でも海外に出向く機会が増えてきましたが、やはり日本の農産物のおいしさは洗練されていると感じます。そして今日、私どもの地元である遠州・和栗のおいしさに改めて触れさせていただきました。
 
これは遠州の美しい土地や水源、生産者皆さまの手間ひまなど、すべてが積み重なってできあがる宝物なのだと実感しました。その日本人にとっての宝物が、さまざまな課題に直面し失われようとしている。この危機を食い止めなければならない。
 
生産者さまをはじめ、行政の皆さま、そして春華堂さまをはじめとする私たち企業が一丸となって取り組むことで、強い日本の産業が実現できると確信するとともに、皆さまとともにその一歩を踏み出せたことに感謝いたします」

「お帰りの際にお土産をご用意しております。皆さま、お気を付けておく~り(栗)ください!」

ゲストの帰りを見届けたあと、栗園にたたずむ早川さんの姿があった。植樹祭のために数日前から草刈りや整地をしてきた園地をじっと見つめていた。

植樹祭を終えて、どのような気持ちでいらっしゃるだろうか――。

「先祖代々の土地を守りたい気持ちもあって、栗園を継ぎました。20年間、栽培に従事してきましたが、なかなかに大変な仕事ではありました。
 
遠州・和栗プロジェクトにお声がけをいただいたのは、私も高齢になり、そろそろ畑を終えようと思って半分ほど栗の樹を切った矢先のことでした。1社1社と協力企業の方が加わってくださいました。

そして今年になり、春華堂さんには2トンの栗を近年の実績値以上の価格で購入いただきました。丹精込めて育てた栗の価値を認めてもらえ、よい価格で買い取ってもらえることは、農家にとっての栄養剤です。

お陰さまで、周りの生産者仲間にも張り合いが出てきていますし、私も、もうひと頑張りしたいと思います」
 

今日植樹した50本の栗の樹については、早川さんが大切に世話をしてくれる。桃栗3年というものの、苗木を植えてから良質な栗の実がとれるまで、実際には6~7年かかるそうだ。しばらくは摘果などをして、幹を強く育てなければならないためだ。

それでも、収穫した栗については「参加企業・団体でオープンに共有しよう」と言ってくださった。和栗の活用方法は、追って事務局ミーティングでも協議していきたい。

和栗の衰退という課題を紐解くことで、日本の農業における産業上の課題が見えてきた。今はまだ壮大に見えるかもしれないが、近くて遠かった地域の者同士が手を取り合うことで、イノベーションを生み出す可能性をはらんでいる。

遠州・和栗プロジェクトは地域貢献の枠にとどまることを知らず、強い産業の礎となっていけたらと思う。私たちの取り組みを、遠州地域の皆さんをはじめ多くの方に知ってもらえたらうれしい。

次回は2024年2月に和栗フェスを予定している。プレゼンテーターは、株式会社静岡新聞社・静岡放送株式会社。当アカウントをフォローし、楽しみにお待ちいただければ幸いである。

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