不思議な夢からはじまった旅のお話し
朝方にひさしぶりに夢をみた。
情景はまるで今、体験してきたようにリアルだった。
伊勢神宮の宇治橋を渡る手前、鳥居の前に太陽を浴びて立つふたり。
ふとした時に伊勢という言葉が、この数日何度も浮かんでいた。
とうとう夢まで見たか、と思った。
けれど、後姿なのに、それが誰なのかはっきりとわかったのだ、「行くしかないかな」いや、何故かわからないが行くことは決まっていた気がした。
その日、朝から空が賑やかで、ずっと空ばかり見ていた。
伊勢に着くと、空には大きな龍のような雲が動いていた。
夢で見たもうひとりは、急なことで無理だろう。そう思いながら話してみると、不思議なことにいつも誰かのさそわれて、11月に伊勢にいくことになり、今回はあなたか。と話すのだ。
この時はまだ、ふたりで行く意味はわからずに、ただ、同行者ができた。と嬉しかった。
人の往来が始まったとはいえ、この時期はまだ人出が少ない。
どこを歩いても、気持ちがよく、体の中が新鮮な気で満たされるようで、冷たい風さえ心地よく感じた。
はじめて一緒に旅をするのに、何の違和感もなくごく自然に歩く。まるで生まれる前からここへ一緒にくることがわかっていたように。
ここへ来ると決めたのは、ほんの数日前のこと。それなのにまるで予定通り。とでもいうように、時間ができ移動も何もかもがスムーズだった。
帰りには、11月と言うのに欄干に赤とんぼが日を浴びている。
トンボは神さまのお使いというらしい。
おかげ横丁も土産物屋も興味がない二人。
さそわれて、一緒に猿田彦神社へ行く。
一度参拝したいと思っていたのが、良いタイミングで叶ったと思った。
確かに、来たかった場所なのに、参拝を済ませても、なにか忘れ物をしているように感じる。
そうだった、御朱印をいただこう。忘れ物はこれだった。
御朱印はふたつ、猿田彦神社と佐瑠女神社。
御朱印をいただいても、まだなにかが気になって、もう少しここにいたいような気持になったが、なにが気になるのか自分でもわからなかった。
このころから、風が強く黒い雲が空に広がり始める。
昼食もまだだし、そろそろ行こうか。
みぞれのような雨がぽつぽつと降りはじめる。
大事な時には、いつも雨が降るのだ。
バスを待ちきれず、タクシーに乗り込むと、式年遷宮に立ち会ったという運転手から貴重な話を聞くこととなった。
一台逃したのも意味があったのかもしれない。
頭のなかでは、猿田彦神社で感じたあの感覚に思いを巡らせ、答えを探していた。
おそい昼食で、猿田彦という名の酒をいただく。
ここでも、店主からこっそり温かいおもてなしをしていただいた。
上機嫌でいれば、ほんとうに上機嫌な出来事しかおこらないものだ。
翌日は、熱田神宮へ参拝する。
旅は続き、神宮巡りになった。
まだ、謎は解けないまま、ほろ酔いで名古屋行の電車に乗り込んだ。
雨は、もう降っていない。つづく
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