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「やりたいことが見つからない」迷路から抜け出す方法

「別にやりたいことなんかないし、志望動機だってない。なのにこの空白を埋めないとエントリーする権利すらない」

そんな風に就職活動が大嫌いだった僕だったが、神様のいたずらなのかわからないが、社会人になってからずっと人事の仕事をしている。
人事チームの中でも採用担当として、どうやったら自社とマッチする候補者と出会えるかを考えたり、対面で沢山の人と面談をするのが僕の主な仕事だ。

新卒も中途も、ビジネスもエンジニアもデザイナーも、ほぼすべての職種と面談してきた。職種や年齢の違いはあれど、共通する悩みの一つが「やりたいことが見つからない」ということ。

この悩みは痛いほどわかる。僕も学生時代ずっとこの悩みに苛まれてきた。自分がやりたいことが明確に決まっている人は羨ましいなぁと思ってきた。
馬鹿正直な性格だから、エントリーシートの志望動機に嘘を書くのに抵抗はあったし、書いてもどうせすぐバレるだろうと半分諦めていた。

なのに、企業の人は面接で「それでは志望動機を教えてください」とか「御社に入ってやりたいことはなんですか」と聞いてきて、「そんなのあったら苦労しないわ!」と勝手にムカついたりしていた。

時が経ち、人事として逆にいろんな候補者の話を聞く側になって、改めて「やりたいこと」とは何なのかを考えるようになった。そして、「やりたいことが見つからない」と話す人の理由は大きく2つに分かれるのではないかと思い始めた。元々「自分がやりたいと思う仕事を、みんなが選べるようになれば良い」という思いで今の会社にも入っているので、「やりたいことが見つからない」と悩む人の助けに少しでもなれば良いと思う。

パターン1 実はやりたいことがもうわかっている

「おいおい、言ってること矛盾してない?」と思うかもしれないけれど、僕は実はこのパターンの人が多いのではないかと思っている。というか僕はこのパターンだった。

僕は中高時代を演劇に費やし、大学時代はバンド活動やらフリーペーパーの製作にせいを出してきた。そのもっと昔はレゴブロックで自分のオリジナルの作品を作るのが好きだったし、大学生のインターンでは、ライターとして記事を書いてきた。つまり、僕のモチベーションは自分の頭の中で描いた設計図を現実の世界で実現することだった。

だから「何か形のあるものを自分の手で作る仕事」が僕のやりたい仕事だった。

「自分がやりたいことがそんなに明確ならばやれば良いのでは?」という声が聞こえてきそうだけど、ここで邪魔をしてきたのが”プライド”だ。社会的価値や給料を気にしてしまうばかりに、自分の価値観を強く持ち続けることができなかった。社会的価値や給料を気にするのが悪いことだと言っているわけではない。人によって自分が大切にするものは違うと思うし、納得して働けているのであれば、全く問題は無いと思っている。

僕の場合はたまたま「やりたいこと」が儲かりにくい仕事であったにも関わらず、「早稲田出身」の看板を早々に捨て切れなかっただけだ。何となく、ここまで築いた社会的地位(実際はたかが学生でそんなものないのだけど)を無にしてしまうような錯覚を持ってしまった。

自分がやりたいことの輪郭が割と明確に決まっているのに、プライドを無駄に持ってしまい「やりたいことがわからない」と言っている人は多いと思う。

プライドを捨てるのは難しい。捨てれたら楽なんだけど、プライドの階段を積み重ねてしまうと、降りるに降りれなくなる。ちょっとづつ降りる方法として有効だなと最近思うのは、人生全部をいきなり「やりたいこと」に全投資するのではなく、ちょっとづつ小さく初めてみることだ。

例えば、僕の場合だとこのnoteがそうだ。他には週末にバイトで初めてみるのもいいし、コミュニティに入ってチャレンジしてみるのもいい。それで十分満足なら最高だ。「もっとやりたい!」と思うなら、時間はかかるかもしれないけどゆっくりと比率を変えてみる。違っても、「実は違った」事実がわかるだけでも儲けもんだ。

僕の大好きな作家の恩田陸先生も、デビューするまでは昼は普通の社会人として働き、夜から深夜にかけて小説を執筆していたそうだ。繁忙期は会社の仕事がめちゃくちゃ忙しかったらしいが、それでも書き続けて、そして今や超人気作家である。

パターン1の人は、「ちょっとづつ、実はやりたいと思っていたことをしてみる」ことをオススメする。

パターン2 本当にやりたいことが見つからない 

本当に何が自分の精神的な満足度をみたしてくれるのかわからない場合。何となく「好き」なことはあるけど、別に仕事にしたいなぁとも思わない。そんな人は「色々経験してるうちに見つかる」なんて耳タコのように言われてると思う。だから、僕の言葉では何も言わない。

その代わりに本当にやりたいことが見つからないと悩む人に、僕がどうしても送りたい本がある。

西村佳晢さんの「自分をいかして生きる」という本だ。

西村さんは”働き方研究家”として「いい仕事」とはなにか、「自分の仕事」とはなにかを長年研究されてきた。数々の自分の仕事を作ってきた方へのインタビューを通じ書かれた「自分の仕事をつくる」につ続いて書かれたのがこの本だ。

自分にフィットする仕事とは何なのかと悩んでいたときに出会った本で、今でもたまに読み返す。引用したい言葉はいくつもあるけれど、「やりたいことが見つからない」人にまず送りたい一節がある。少し長いけど、読んで見てほしい。

「好きなことを仕事に」という言い回しをよく見かけるけれど、この言葉はどの程度役に立つというのだろう。
(中略)
「自分がお客さんでいられないことは?」、という問いはどうだろう。どんなに映画が好きでも、ただそれを見ていれば幸せで、足りる人はお客さんだと思う。別に客でいることが悪いわけじゃない。店で食事をして、「美味しかったー」とただ満足して帰路につけるなら、そこに自分の仕事の影は見当たらないのだろう。他の人がどれほど素晴らしくやっていても、その成果の享受をただ楽しめること。他の誰がやっていても構わずにいられる仕事は、いわば他人事の仕事と言える。
でも「好き」だけではすまない。今はお客さんの立場でも、ずっとそのままでいられるかというとそんなことはない。というか、そうありたくない。気持ちがザワザワする。落ち着かない。見たくない。悔しい。時にはその場から走り出したくなるような、本人にもわけのわからない持て余す感覚を感じている人は、そのことについて、ただのお客さんではいられない人なんじゃないかと思う。

「やりたいことは何ですか」と聞くよりもなんて素敵な質問なんだろうと、深く感動したことを今でも覚えている。

自分がお客さんでいられないことは1つかもしれないし、複数かもしれない。複数あるなら、その共通点は何だろうと探して見てると、やりたいことが見つかるんじゃないか。実際に経験をしていなくても、映画や小説の中で出会う職業でも、テレビを見ていて偶然印象に残った職業でも、きっかけは何でもいい。それを自分の言葉で、たとえ拙くても、言語化することが大事なんだと思う。

日々、膨大な量の情報に晒されていると、キラキラと自分がやりたいことをやっている人ばかり目に入ってくる。そんな彼らにもかつては同じような葛藤があったと思う。その悩みの末に「お客さんでいられないこと」や「大切にしたいこと」が見つかったのだと思う。だから「やりたいこと」に付随する「やりたく無いこと」や「面倒なこと」も一挙に引き受ける覚悟を持てたのだとも思う。

「やりたいこと」が必ず無いといけないとは思わないが、もし「やりたいこと」が欲しいと苦しんでいるなら、この文章がその一助になれば幸いです。

※追記

「やりたいこと」で悩む人には、さくちゃんさん(@sac_ring)のこの2つの記事もオススメです。


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