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短歌連作「庭のない家」
庭のない家に暮らしぬ電話越し母に教わるおりがみの百合
解体の決まった都営住宅で自転車がまた一台減りぬ
おとなりの解体工事も順調でかなしく揺れる古いアパート
クスノキが伐られた跡にうつむいて歩く烏の羽は重たい
最後まで使わず捨てた鉛筆の分だけ書けぬ言葉に埋まる
あきらめが肝心だからと我に説く人が駆け出す青き点滅
朝のまま時の止まった家に着きセーターを抱く猫の代わりに
※短歌連作サークル
短歌連作「名乗るほどでも」
芽吹くのは四月だからか白くないマスクをつけた朝の自意識
自分でもわかんないけどスジャータは記憶の中ではまだターャジスだ
五百円で売ってるブーケが去年見た袈裟とおんなじ配色である
ヤンマガはヤンジャンよりも水着度が高い表紙で好き(僕調べ)
いま行けば「お疲れ」とか言う羽目になるジェットタオルの音がしている
ピカチュウは名乗ったように鳴けるのに名乗るほどでもないままの僕
桃源郷と思う日もあ
短歌連作「おかしなふたり」
タルトタタンしあわせそうに食むあなたタルトタタンになりたい、今は
歌舞伎揚あなたがこぼすひとかけらラグにひそんで足裏を刺す
カスタード吸うように食うそれだってシュークリームに変わりない午後
八つ入り蓋を開けたら一つだけ残されているかたい赤福
サヴァランをあなたは食わぬ 引き留めておけない時をフォークでつつく
いつもよりぬるい気がするひとりきり銀座ですする胡桃汁粉は
アヲハタのピーチメル
短歌連作「新宿で惑う」
南口で伊勢丹までの道筋を聞かれた私が迷ってしまう
紀伊国屋書店二階の窓側の温くて座れなかった椅子たち
ドコモタワーは観光地ではないことを英語で伝えられぬ夕暮れ
伊勢丹はマルに「伊」だからマルイだと笑った君は今どこですか
二丁目のラブホ帰りのひとたちと並んで食べた牛丼のシミ
独りきり過ごした予備校跡地にはボルダリングのカラフルな壁
多すぎる人が溺れる交差点 偶然君に巡り会いたい
新宿は
短歌連作「君は不完全」
背を向けているのに君の不躾な冷たい足にからまれる夜
聞きたくもない出来事を聞きながらなるべく温い言葉で返す
追い焚きのボタンを探すこともなく冷えるに任せ僕らは氷る
二度寝して浅い夢見る 太陽は照らすどころか雲に隠れる
眼を入れて髪を伸ばして顔を描く 完全体になってゆく君
玄関でギロチン台の音がした 電車は遅延しているらしい
※短歌連作サークル「あみもの」第十一号を改敲