小枝に負けた日の話.



ただ歩くそれだけの行動にこんなにも内側は穏やかになる。内側から生まれてこのかた一度も止まることのないそれが穏やかな音をたてる。ただわたしはそこにある。そう気づかされる。

川沿いをゆく。耳の相棒は今は肩にかけて休ませてやろう。川にはたくさんの小さきネッシーたちがいる。たまに足の踵を空に強くむけて、ときにそのお尻をふりふりとさせる。癒し。ある程度の間隔で上から下に自ずと流れるそれが音をたてている。つよく鼓膜に存在をしらせてくる。

せまい土手を歩く。向かいから自転車がきた。よけなければ、そう思った。すると目の前に、頼りないほそさの小枝が立ちふさがる。動けない。目は泳ぎ脳までも少し動揺した。動けない。策のないわたしは、おとなしくその場で立ち止まる。
道をゆずってもらったのだと思った声が「すいません〜」と遠ざかってゆく。「んふへへへ。」愛想に動揺が混じる頼りない声が聞こえた。残念なことに、わたしの声だった。頭の中は小枝のことでいっぱいになる。頭に言葉がよぎった。小枝とびだし注意。

この日、小枝の細さを優に上回るわたしは小枝に負けた。ような気がした。



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『あとがきノあがき』

小枝はあの日さぞかし気分がよかったと思います。

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